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深淵のアリス3 博物館の惑星  作者: 沢森 岳
21/36

20.ザッパー(1)

この時代、データドリブンとは企業や法人における業務プロセスのみならず、社会全体を動かす基本であり、当たり前すぎて誰も意識しない概念になっています。

だからこそ、人間の持つ創造力こそがより大きな価値を持つことになります。


 惑星ミリセントの宇宙港からメルファリアたちは出港し、スピンクスとの会合のために一つ外側の惑星の公転軌道へと近づいた。会合とはいっても今回は手持ちの情報を買い取るだけなので、船同士が近づいてデータの通信送受信を行うだけであり、エマリー・グリーンウェル女史を船内に迎えることはない。


 大事なのはその後の分析と対応策なので、ロナルド・デニス船長とミッカ・サロネン航海士にもお願いして、六人はプロミオンへと移乗した。


 分析をMAYAと共に行うために、六人はあまり広くないプロミオンのブリーフィングルームに集まった。壁面のメインスクリーンにはアストレイアとプロミオン、そしてその二隻にアプローチするスピンクスの動きが映し出される。

「ほお。ぴったり、時間通りだな」

 デニス船長が感心したように呟き、近づきつつあるスピンクスを見守った。


 一年前にはまだトーラスとノアの間を行き来していた貨客船が、ほぼそのままの姿で今はスピンクスの船となっていて、小さなアラームの後、通信用のスクリーンレイヤーにエマリー女史の顔が映る。

「やあ、姫さん。急いで来てみたけど、一体どうしたんだい?」

「突然呼び出してしまって、申し訳ありません。あまり時間がないのです、恐らく」


 ランツフォート宇宙軍の内部事情などデリケートな部分もあるので、今回は一方的に情報を買うだけだ。今スピンクスが持つ情報を、メルファリアは一括して引き取った上で、彼女らには新たな依頼をお願いした。


 分析前のほとんど生データをそのまま提供するとは、データマイナーとしては楽な取引で拍子抜けするほどだろうが、伝えることのできない事情があることをエマリーは察している。

「姫さん、あたしらが協力できることなら何でも言っておくれ。いつまでも恩返しできないと、居心地悪いし、なんてね」


 ランツフォート家の影響力が大きい宙域において海賊などの活動が活発化している現状から、スピンクスは広大な宙域内全体に存在する船舶の動向を追うデータを収集していた。元々ランツフォート側で持つデータと組み合わせれば、海賊対策には随分役に立つだろうと思われる。


 近距離高速通信でそれらデータの授受が終わると、やがてスピンクスは名残惜しそうにゆっくりと離れていった。ただしもちろん、自分たちの今後のフライトプランをメルファリアにあらためて提示することも忘れなかった。


 通信用のスクリーンレイヤーが消えて、皆の前にレオンが立つ。

「さてと、基本解析はMAYAにやってもらいます」


 膨大なデータから一体どんな分析が炙り出されてくるか、そこらへんはMAYAにお任せだ。どこに焦点を当てるか、などは普段からアリスに伝わっているので、あらためて指図するすることもない。まさにそれこそがアリスのフロントエンドプロセッサたる働きだ。


「まずは確認事項ですが、グロリアステラの護衛は完了です。以降はランツフォート宇宙軍にお任せします」

 思案するまでもなく、皆が一様に頷いた。

「ここまでのフライト中、不審な船が近づいて来ることすら、ありませんでした」

 もう一度、皆が頷いた。


 これまでのMAYAの分析では、グロリアステラを狙うその他の兆候も全く検知されていない。そのため、襲撃予告は警備体制の攪乱や、別の襲撃を誤魔化すための囮行為である可能性が高いとされた。

「……あるいは単なるイタズラか。しかし、そのごく一部の者しか知らない予告の存在を、マイケルが知っていました」


「では、彼を取り押さえよう」

 ミッカは疑問を持たずにそう言う。やはり軍人さんは、問題解決の最短距離を走りたがるのだろう。


「それはできない。言い逃れできる程度の言葉しか口にしていないんだ。それに、対外関係をこじれさせる危険性がある」

 本当に惑星ノアが狙われているのだとしたら、そうも言っていられないのだろうけれど。


 レオンが目配せするとアリスが立ち上がり、MAYAの分析がある程度進んだことを皆に伝えた。スクリーン上へ情報を投影しつつ、3Dホログラムの差し棒を使役してMAYAの推察を順次説明する。


「では、惑星ノアへ危害が加えられるとするならば、という前提で……」

 それはつまり、惑星ノアへ危害が加えられないとすれば、問題はもう殆どランツフォート宇宙軍にお任せ、ということだ。


「何かしらの船舶が、惑星ノアを含むアルラト星系へ向かっている可能性をまず考えます。船舶でなければ大規模構造体かなにか、いずれにしても、iフライトの可能な物体でありましょう」

 あるいは破壊工作などを行う人物か、となるが、そもそも惑星ノアには身元の明確な事業関係者しかおらず、にわかに不穏分子を潜り込ませるのは困難だろう。


 もともと、限られた人数で惑星をどうにかできる手段なんてものはそれこそ極々限られてくる。例えば非常に重要な人物 ——要するにメルファリアのことだ—— を人質とするなどで要求を通すやり方が考えられるが、まさにそれらを防ぐためにメルファリアの護衛は履行されて現在に至る。


「惑星ノアへ近づいた、あるいは近づこうとしている船舶に関しては、スピンクスからの情報でかなり網羅できました」

 そこから、定期運航船やランツフォート家所属の船などの危険性の十分に低い船舶を除外していき、脅威となる可能性を残す候補を絞り込んだ。


「ふーむ。いったい何をしようとしているのか、が分からないと絞り切れないな」

「やはりマイケルに吐かせるか」

 ミッカは相変わらず主張するが、やはりそれはちょっと難しい。


 ふとレオンが視線を向けると、メルファリアが胸に手をあてて顔をしかめていた。

「メルファさん、気分がすぐれませんか?」


「大丈夫です。ただ……今思えば、ノアでの晩餐会でも、わたくしは彼に会っていました」

 目まぐるしく多くの賓客とあいさつを交わした中に、黒髪の彼もいたことに思い当たり、その彼の言葉を思い出した。


「この美しい星を、見られなくなる前に訪ねることができて嬉しい、と言っていました。その時は深くは考えませんでしたが、同じような事をこの前も言っていました。……やはり、ノアに対して何かしら危害を加えようとしているのでしょうか」


 惑星に対して何らかのダメージを与えようとするならば、それはまた随分と大掛かりだ。


 そんな、大掛かりな事をするなら、相応の振る舞いをMAYAが検知できても良さそうなものだが、各艦船の動き、頻度、船団の大きさなど諸情報は至って平穏で、特異な移動体の存在や動きはこれといって見当たらない。ランツフォート軍を覗けば、大きな物資の移動なども無い。


「物の動きに不審な点がないのなら、人の動きを調べるべきかもしれないけど、それにしても何をしようとしているのか、だよな。例えばどんな手段が考えられる?」


 レオンの問いかけはあまりに大雑把で苦笑いが漏れそうなところだが、アリスはにこりともせずに検討範囲を広げて、可能性でしかない事柄をひとつ見出した。

「司令部からの情報に、最近起きた船団行方不明事案にγ線放射装置が使用された可能性が挙げられています」


 行方不明だった、商船四隻と護衛艦二隻の計六隻のうち護衛艦の一隻が発見されたが、船全体が高出力の電磁波に晒されて機能停止していたことが確認されたという。そして、その結果を導く事象または手段として、宇宙における自然現象の他にγ線放射装置が浮かび上がった。


「γ線放射装置? なにそれ、そんなものをマイケルは作ったってことなのか?」

 皆が見つめるスクリーン上に、得体の知れない構造体の平面図が映し出される。

「いいえ。これはUNで過去に計画された試験機器の設計図です。実在はまだ確認されていません」


 そもそも設計図自体が極秘であること、今のところほんの可能性でしかないことを、アリスは付け加えた。映された工場設備のような構造体を皆が眺めたまま、沈黙がしばらく続いた。


 検討範囲を広げすぎたかとも思われたが、たしかに興味をそそられる内容ではある。

「……可能性ねぇ。アリス、そのなんとか装置について、詳しく教えてくれ」

 極秘ですよ、ともう一度断り、ミッカやリサも含めて全員の同意を得てから、アリスは改めて説明を始めた。


なんか、前書きでエラそうなこと言いました?

きっと、疲れているんです。

すいません。


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