異世界花嫁の役割
まるで芝居ような、まるで物語を読むようなミシェルの語りを自分なりに要約するとこうだ。
この世界は『セミラウス』という男神が創り上げた。
空を大地を海を創り、木を花を芽吹かせ、獣を生んだ。そしてそこに妖精や魔族、人間も一緒に産み落としたという。
その生命の平和の暖かいエネルギーを得て、神は世界を維持していたという。
そして世界はゆっくりと成長した。
しかし成長と共に文明は進み、進化した生命は争い、恨み、呪い、ただ平和に暮らすことはできなくなってしまった。
世界は瞬く間に荒れ、生命はその存在を保つことが困難になった。
そんな時、初代のパルヴァイスの王が夢で神託を受けた。時同じくして、この世界を主力といわれる他の二つの国の王にも同じ神託が降る。
『我が力を補う為、王族の一番強い力の者に杯を満たさせよ』
三国は神託の通りに事を運んだが、世界は荒れたまま。そんな時現れたのが異世界より現れし少女だった。
少女は強大な魔力を持ち、その力で神の杯を満たす事に成功し、神も力を取り戻した。
そして神に気に入られた少女は神の元に迎えられ、それから数百年安寧が続いたという。
その少女を民は『セミラウスの花嫁』と呼び奉った。
しかし少女が寿命を迎えてからというもの、また杯は満たされることがなくなってしまった。
そして神託があると各三国はお告げの通りに王族から『杯を満たす者』を選び、また異世界より『花嫁』が来るのを待っていたというのだ。
「ツッコミが追いつかない…思ったよりとんでもない話だったんですが」
滔々と語ったミシェルに向けて吐いたのがこんな言葉になってしまった。
まず規模が大きい。
この世界の平和とか存在とか、そんな大きなものを左右する力が自分にあるなど到底思えない。
唯一の一致は異世界から来たということ、その一点のみなのだ。
「もしかして私を待っていたと言うのは」
「ご明察です花嫁様。十五年前に神託が降り我が国はそのお告げに従いました」
ミシェルが言い、その言葉に背後に立っていたイースとアレンが少しばかり息を詰めたような気がした。
「その『杯を満たす者』って具体的はどんなものなんですか?」
漠然としたお伽話のような説明の中で気になっていたところだ。
すると陛下が目を伏せた。そして数秒、覚悟を決めたようにゆっくりと視線を上げる。
「王族の中で魔力が一番高い者を選定し、そしてセミラウスの神殿へと向かわせる。そこで杯へと力を注ぎ続けるのだ」
「そんな、それじゃあ生贄みたいじゃ…」
そもそも神様の神殿に行くと言うことは、教会ような場所に監禁ということなのだろうか。
しかし続いたミシェルの言葉はもっと酷いものだった。
「神の神殿には魂しか入れません。選ばれた者はそこで時を止め、永い眠りにつくのです」
「なっ…そんなの言い方が違うだけで」
殺されると言うことではないのか。
視線だけでそれを訴えるとミシェルはゆるりと首を振る。
「いえ、死んではいません。眠るのです、神の許しが出るまでずっと」
「そして我が国では息子が十五年前から眠っているのだ」
うまく言葉が出てこなかった。
そんなお伽話のようなことがあっていいのだろうかと、けれどこの国、この世界ではこれが当たり前のことなのだろう。
この部屋にいる全員がこんな理不尽なことに何も疑問を持っていないのだ。
「花嫁が現れると、その眠っている人たちは目を覚ますんですね?」
「文献にはそうありますとも。ただ三代続けて花嫁は現れませんでした。そして眠った九人は魔力が尽きるまで務めを果たしたと」
ミシェルは濁した言い方をしたが、要するに目覚めなかったのだろう。死という意味で永遠に。
「私は、自分がその花嫁として何をしたらいいのか知りません」
言葉を慎重に選んで口にする。ステータス画面に現れた職業欄でしか、自分の役割を裏付けるものがない中適当な返事はしてはいけない気がした。
陛下の表情が少しだけ曇ったものになる。
「けれど、そのお話を聞いて知らないふりをすることも私にはできません。方法がわかっているのなら試してみることはしようと思います……危ないことはしたくないですが」
あの広い草原に意味もわからず放り出されていたところを助けに来てもらった恩はある。
自分の命をかけない程度のことなら恩返しするべきだと思うのだ。
それにここで知らないふりをするのは完璧に寝覚めが悪い。
「ええ、ええもちろんです。花嫁様に危ないことなどして頂きませんとも」
ミシェルが両腕を広げ大仰に頷く。
この人こうしないと喋れないんだろうか。
少し心配しているとミシェルはにっこりと笑って信じられない事を言った。
「花嫁様はキスをしてくださればいいのです」




