異世界花嫁お召し替えII
二時間後、ぐったりと倒れこみたい気持ちを何とか気合いで押し込めて案内されたソファに腰掛けていた。
あの後、バスタブに沈められどこもかしこも綺麗に洗われた。自分で洗わせて欲しいとは何度も申し出たが全て聞こえなかったことにされてしまった。
花の匂いの石鹸で丁寧に丁寧に磨かれ、触れたこともないふわふわのタオルで包まれた。
ドライヤーなんて無いと思っていたが、熱魔法で髪はあっという間に乾いてしまったのも衝撃的だった。本日二度目の魔法すごい。魔法、便利。
通勤スタイルで一つにまとめていた髪はふんわりと毛先を巻かれさらにハーフアップへと結い上げられた。
何着もドレスを持った笑顔の女中二人に迫られたが、その中でも一番デザインが大人しめの淡い青のドレスを着せてもらう。さすが王族手持ちのドレスだ。シンプルなデザインだけれど裾に広がるレースの刺繍は繊細で見事だし、何より着心地がとてもいい。しかしグッと締められたコルセットがとんでもない違和感と共に胃を締め付けている。
今何か食事を勧められても何も食べられない。
成人式の振袖を思い出す息苦しさだ。
コルセットを支柱に踏ん張っていると、扉が開きイースとアレンが入ってきた。
思わず恨みがましい視線を送ると二人は困ったように笑って見せる。
「お似合いですよチハナ様」
「だから睨まんでくださいよ、可愛いのが台無しになるんで」
「…ありがとうございます」
喋るのも億劫でそれだけ言って視線を膝に落とした。自分でも驚くほど精神的ダメージが大きい。
「お疲れのところ申し訳ありません。今度こそ陛下がお待ちです」
アレンの言葉にのろりと視線を上げる。
「…明日とかにしちゃだめですか」
「明日また今と同じ過程の身支度をされていいのなら掛け合ってもいいぜ」
イースの言葉にうぅと呻いてしまった。
しばらくこんなことは勘弁してほしい。
「行きます」
「はい。今度こそ我々もお部屋の中までお供さ致します」
「嘘吐いたら許しません。針千本飲ませます」
「チハナ様、そんなことできるのか!」
「やったことはないですが、それくらいの攻撃をしてもいいと思ってますからね!」
青褪めるイースに言い放ち少しだけ先程の溜飲を下げた。
その二人の元へと歩み寄り笑顔を作った。
「嘘です。ちょっと緊張ほぐれました、ありがとうございます」
「とんでもありません」
「俺はチハナ様怒らせないようにしようって学習しました。殿下にも教えてやらないと」
イースの言葉にアレンが無言で脇腹に肘を叩き込んだ。予想もしてなかったらしいイースが短い呻きとともにその場に蹲ってしまう。
また『殿下』だ。
「イースの言う殿下にもこれから会うんですか?」
「あ、いや…えーっと」
脇を押さえたままイースの視線が右から左へと泳いでいく。呆れたような視線を向けるアレンに説明を求めるとゆるゆると首を振られた。
「今からご案内する部屋には国王陛下とこの国の第二王子であるダニエル殿下がいらっしゃいます」
「第一王子はいらっしゃらない?」
よくある留学とか、領地の視察とかそういうイベント中なのだろうか。
はてと首を捻ると二人は寂しそうに顔を見合わせて笑った。
「全ては陛下のお言葉より説明させて頂きます」




