第10話 改造
一重に武器の改造といっても、いろいろなパターンが存在する。
武器の特徴にもよるが、性能を重視したり、見た目に気を使ったり、その人の装備が使い手の性格まで表されるほど、武器の改造には個性がある。
無論、使い手本人が改造する訳ではないため、技術者の腕も当然間に入ってくるが、装備改造の主要は、魔法使いの好みが目立つ。
以前、エリア踏破最前線を戦ってきた魔法使い、六道六花が重視するのは、信頼して命を預けることができる装備であること。この一点につきる。
単純な言葉では表せても、武器を造る技術者たちにとっては最も難しい永遠のテーマだ。
「たしか、水嶋さんは『敏捷値』重視のスタイルだったね……」
和希の『メルティー・ダガー』を手にしたまま六花が口を開くと、そのまま奥の方へ行ってしまった。
「え、あの……」
「え~、この娘からやるの?」
「まぁ、【SSR】より『メルティー』の方が、使ってるコアの魔法式が単純だからね」
それに、と六花は手の中の短剣を見て、表情をしかめた。
「武器をくたびれた状態には、あまりしておきたくないから……」
六花は短剣の柄尻に手を添え、トン、と軽く叩くと、コツを掴んでるのか簡単に底が外れて柄と同じ長さの円柱が出てきた。青紫色の輝き、武器の心臓―――コアだ。
この『メルティー・ダガー』に用いられているコアは『セブンスター【F66】』。【色】、【属性】などといった系統魔法式を最大7つまで許容できるもので、一般的に市販されているコアの平均許容量5~6に比べてそこまで大差はない。
だが、コアの持つ性能―――【F66】のシステムは、魔法発動をより潤滑にするために適正魔力を魔法式に通す際の補助機能がついている。
魔法の発動は本来、発動前に魔力を指定し、それを言霊によって魔法式に流し込み現象化する、というものなのだが、決められた魔力量をきっちり決められた通りに流すというのは中々にシビア過ぎて難しい。それが戦闘中ともなれば尚更だ。
魔力が多かったり少なかったりでも魔法が発動しないことはないが、発動までの時間をロスしたり、術者に負担をかけたり、コアに負担をかけたりと、少し前からエリア踏破の中で問題が生じていた。
それを解消するために造られたシステムが、この【F66】だった。
常時、適正魔力で魔法を発動できる【F66】搭載の『メルティーシリーズ』が世間に出回り、現代の魔法武器は一気に十年の進化をとげたとも言われたが。四年前、何故か『メルティーシリーズ』は生産中止。ここ最近は《フラワー》メーカーの出す武器は【SSR】を主軸にしていた。
そんなこんなで、今では中々手に入れるのが難しい『メルティー・ダガー』だったが、主要コアを小さめに、魔法式の許容量も平均的に抑えているため、改造の手間はあまりかからないのだ。
CPUモニターに連動した寝台のような所に短剣を置き、コアはその横にあるカプセルへ入れる。そして自身はモニター前の椅子に着席した。
「取り敢えず外装の補正と魔法式構成の組み直しをするから、何か武器に希望があれば言って……」
「希望、ですか……」
「どの数値を重視してどれに妥協するのか、それをはっきりさせておかないと。明確な目的のない魔法武器の改造はバランスを悪くするだけだよ……」
「六花は武器のいろんな所を触れるから、取り敢えず求めるものを何でも言ってみたら?」
口元に手を添え悩みだした和希に、久菜が言葉を促す。
「そう言われても、私は武装改造の知識についてはからっきしで……敏捷値を重視してあとはバランス良くしていただければ……」
「だってさ……要望に合えば、あとは六花が自由にしていいんじゃない? とびっきりのスーパーハイスペック装備………造ってあげたら?」
「………まぁ、水嶋さんは最初だからね。武装改造は、技師のやり方によって適正するかどうかがあるし、程々で仕上げるよ」
それでいいかな? という視線を和希に送ると、彼女は控え目に頷いた。
大型のCPUモニターに目を戻した六花は、その薄い眼鏡を輝らせる。
カタカタとキーを打ちはじめ、モニターに文字の羅列や、装備パラメーターをグラフ化したもの。コアに掛けられた魔法式の構成から外装の設計図まで、次から次へとモニターが移り変わる。
コアと外装の同時改造。
技術者たちの武器の改造は、内部と外部は別々に行うのが一般的だ。というより、内部の改造と外部の改造ではやるべき要点がまるで違う。故に、ながら作業、片手間になってしまうため、メーカー所属の技師たちには手抜きやいい加減な作業に見られる。
事実、二つの仕事に意識を向けなければならないため、入念に造られる一つには見劣りして当然、なのだが。
六花の独自に作り上げてきた武装改造では、内部の構造と外部の構造を完璧に同調させるために平行作業で状態を見ていくようにしていた。
ながら作業、というより内部をここまでやったから外部をここまでやるというやり方。普通の仕事としてみるなら効率が悪くなる方法かもしれないが、一から十まで造り込む仮定で二つの物を合致させるというのは中々難しい。形を設計して合わせる物理的なものなら簡単だが、魔法装備の内部―――魔法式と、外部―――器を合わせるのは、感覚的な要素が含まれる。
様々な個性、様々な変化をもつ人間の手にジャストフィットした感触を与えるような、内部と外部の状態合わせ。それに完璧というものを求めるのは困難を極めることだった。
内部と外部で仕分けした造り込みで完璧を求めて、それが完璧に感じられたとしても、そこには数十パーセントの単位でズレが生じている。
そして現在の魔法装備の製作や改造では、武器に求めるフィーリングよりも、装備のもつスペックを引き上げることに重点をおいている。
製造の手間や時間、効率の良さを考えると、どうしても受注と生産の仮定で妥協することになるのだ。
品質は重視している。それでもクリアすべきラインを超えて、なお上を求めるだけの余裕と技術は、現代技術者には無かった。
だが、そんな妥協を六花は許さない。
彼女がキーボードを叩くごとに、カプセルの中に納められたコアが様々な光を放ち、無数の文字で架かれた魔法式を吸い込んでいく。
そうかと思えばもう片方。台の上に置かれた短剣が、加熱や研磨、魔法による錬成を受けて火花を散らしていた。
何がどうなってるのか、和希には全く分からない。ただ、何か凄いものを見ていることだけは理解出来た。
固定画面のモニターに映し出されている『メルティー・ダガー』の数値が、次々に変化していく。
攻撃値:375→540
魔法攻撃値:520→710
防御値:170→390
魔法防御値:300→460
敏捷値:650→825
耐久値:110→550
魔力出力:450→680
【白】魔法適正値:330→530
さらに備え付けられた魔法システム―――『マジック・ブースター』。
シングルブーストであるため指定された一つの魔法―――この武器の場合は【白】魔法―――にしか作用しないが、発動する魔法の威力を増幅させる効果がある。
「へぇ~、さすが六花。それに、『メルティー・ダガー』……… ちゃんと魔法式と外装を造れば、こんなに数値が上がるんだ。敏捷値で800オーバーなんてそう簡単に出ないよ?」
久菜にも多少は武装改造の知識があるのか、感嘆したように言った。
「ん~、こんなところかな……」
「終わり?」
「一応。水嶋さん、ちょっと魔法発動で慣らしをして……」
カタン、とキーボードを打つ手が止まり、六花が立ち上がる。
カプセル内からコアを、台から短剣を取って元通りに組み直すと、和希に差し出した。
「あ、はい……」
手にした瞬間、何もかもが違うことに和希は気が付いた。
握った柄から伝わる手に吸い付くような感触も、刀身から漂う異様な迫力も、この『メルティー・ダガー』の心臓から感じられる力強さも。
全てが、まるで別物になったようだ。
たがしかし、この自分の奥底にまで伝わってくる優しい想いはなんだろう。
自然と、自分の心が受け入れる。本能にまで訴えかけてくるような感覚を感じながら。
水嶋和希は六道六花が造り上げた『メルティー・ダガー』を手にしていた。




