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《ベルアント・ユダラ》心揺さぶる群像劇。惑星探索アトラクションに挑むSFヒューマンドラマ。  作者: ユダラバギー|脳内探索アトラクション


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24/25

【24】史上初の探索者 [ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]





茫漠とした乾燥地帯に、

新築のログハウスが建っている。

定評のあるボナハートの太い赤松が、

幾重にも積み上げられ、

大きなアガベが玄関口でその葉を伸ばしている。

室内には木材の香りが漂い、

時折パキッ、と梁が馴染む音がした。

オークの床を踏みしめ、

ベルアントは壁の丸太に触れる。


「想定以上にいい木材だ。これは長持ちするな。」


「ねぇユダラ君、そろそろやる?」


「あぁ、そうだね。バギーを持ってくるから、一番奥のシャッターを開けて待ってて。」


デニスは子どものように小走りで廊下を進む。前日の設備点検は深夜まで続いた。カフェインでこじ開けた睡魔は、アドレナリンによって完全に姿を消した。


「一番奥の右だよー!」


「はーーい!」


何も無い空間に2人の声が響く。ベルアントはバギーを裏に回すため、真新しいドアノブに手をかける。


「お客さんが来た時のために、センサーブザーを付けた方がいいかもね。」量子生成マーキングフィルムを施した、“惑星専用バギー”に乗り込みシートベルトを締める。キーを読み込んだ車体は、スタートスイッチを点灯させた。


「さぁ、ガレージに入ろう。相棒。」


スイッチを押し込みエンジンがかかる。ハンドシャフトを捻りパーキングブレーキを解除した。パーキングからバックギア、そしてハイパワーギアを通過させ、レバーを走行ギアに合わせる。踏み込まれたアクセルにエンジンが低い音を立てる。タイヤに接した小石が摩擦でガリガリと鳴いた。小さな砂埃を立て、裏口へ転がしていく。

シルバーに輝くシャッターが、

軋む事なく収納された。

転送ガレージが姿を現す。


「ワクワクが止まらないね!!ユダラ君!!」


バギーをその中へゆっくりと侵入させ、リフト中央に引かれたラインに合わせ停車した。バギーの扉をゆっくりと開く。


「デニス。ご苦労。電源を入れよう。」


ベルアントは可憐に飛び降りた。

亜鉛メッキの台座に着地すると、靴底が鳴らした金属の硬い音が地下をなぞっていく。デニスはメインブレーカーをよろめきながら持ち上げた。


「シャッターを閉めたまえ。ワイザー君。」


「はっ、ただいま。」


シャッターが下ろされるのを確認し、

ベルアントは四角い電源スイッチを押した。


コンピュータの電源が立ち上がり、

ファンが運転を始める。


タッチパネルを操作し、

次々と装置の表示は緑から黄色へ移行した。


地下で発電機が回転を始める。

足元に微かな重低音が伝わった。


デニスはコントロールパネルに指を沿わせる。


「大丈夫そう?デニス。」


デニスは頷き、笑顔になった。




「今日は量子生成装置の初テストだ。これが上手くいかなければ、このプロジェクトは白紙になる。4年かかった。俺と君の全てを、ここで答え合わせしよう。」




ベルアントはポケットからビニール製の小さなアヒルを取り出し、指で摘んだ。底部に付いた笛が、滑稽な音を出す。アヒルは横に潰れたまま、デニスを真っ直ぐに見ている。


「紹介しよう。初めて惑星探索に出かけるガーガーちゃんだ。」


ベルアントが指を離すと、アヒルのガーガーちゃんは形を戻しながら、再び大きな鳴き声をあげた。

デニスが敬礼する。


「ガーガーちゃん、お願いします。」


脳みそ読み取り装置をそっと持ち上げ、

ベルアントは慎重に頭に装着する。

アヒルを助手席にそっと置き、頭を撫でた。






「デニス。録音を開始。俺の惑星を生成しよう。」






_________


【24】


史上初の探索者


_________






「ユダラ君、おさらいするね。まず、1回目はバギーとガーガーちゃんの転送のみ。蓄電池の容量の関係で、連続の転送と帰還は4回。蓄電池の耐久テストも兼ねて、想定の限界、4回テストする。」


折りたたみ椅子に座ったユダラは、こめかみ辺りにある装置の電源を長押しする。待機状態を示す緑のライトが点滅した。


「オーケー、まず、俺の脳内をハッキングしてくれ。」


「異常があったら知らせてね。では、ハッキング開始。」


デニスの操作によって、脳みそ読取装置が起動した。小さなモスキート音のような高い音と、装置に施されたダイオードがオレンジに光る。


「どう?来てる?」


ベルアントはデニスの方を見ながら、返事を待っていた。


「えーと、あ、来てる来てる、すごい!映像化されてる!いい感じ!…………あれ?ユダラ君?!」


顔を上げると、

ユダラは椅子にもたれ傾いていた。

両手をだらりと下げ、

今にも椅子から落ちそうになっている。


「え?!ユダラ君!!なんだ?解除!解除……!!」


読取装置のダイオードが光を失う。デニスは急いで駆け寄って体を椅子に起こした。肩を揺すり声をかける。


「ユダラ君!」


慌てて手首に指を当て脈を見る。

呼吸を確認し、もう一度肩を揺らす。


「…………んん……。」


「ユダラ君!大丈夫??」


「……んー、……えっ?!…は…?なんだ?」


目を覚ましたベルアントは辺りを見渡す。状況を把握するのに戸惑った様子だったが、デニスの顔を見て、我に戻った。


「どこも異常はない?何が起こったか覚えてる?」


「……何ともない。ただ、装置を起動した後、強烈な眠気が来たよ。情報を収集されすぎて、脳が体をシャットダウンしたかも知れないね。」


「あー、それ、ユダラ君が最初に言ってたよね。もしかしたら気を失うんじゃないか?って!それかな?」


「でも、気を失う感じじゃないよ。すごく眠くなる感じ。起きてられないよこれは。ちょっと待って。」


ベルアントは装置を外し、立ち上がって飛び跳ねたり歩いたりした。首を回し、辺りを見渡し、「何ともない」と口角を上げる。


「デニス、もう1回やろう。装置をつけて椅子に座ったら、そこにあるベルトで背もたれに俺を縛って。そうだ、映像はきちんと出てた?」


「大丈夫かな?少し心配だよ。映像は鮮明に出てた。すごい速さで生成されてたよ。」


「再現範囲が大きすぎるのかも。探索できる範囲に絞って再現する方が節電にもなる。今回は動かないし、とりあえず半径2kmにしよう。」


「それなら負荷が減らせるかもしれないね。」


「よし、デニス、縛ってくれ。」


装置を被って再び椅子に座ったベルアントを、

デニスは優しくベルトで縛る。


「もっときつくしていい。起きて大きなたんこぶができていたら嫌だからね。今度から、横になれる椅子を持ってくるよ。」


「よっ!!これでいい?」


装置を身につけ、椅子に縛られているベルアントを見て、デニスは脇腹を少しくすぐりたいと思った。


「よし!デニス、もう一度だ。」


ベルアントの声に、デニスは「はい!」と返事をし、モニターに向かう。


「ユダラ君、読み取りを開始するよ。」


「俺が寝たら、リフトを下げて。蓋は自動で閉じる。眠ってしまうと、何も出来ない。問題が発生したら、躊躇なく右端の強制終了を押していい。君にほぼ全て任せることになってしまった。いつでもスタートしていいよ。」


「やってしまおう。ユダラ君、なんとか頑張るよ。」


「いい夢でも見てるよ。頼む。」


「では、おやすみ。」


デニスは再び読み取り装置を起動する。オレンジに光り、再びモスキート音が鳴る。


「ううう、眠っ、駄目だ………。」


ベルアントは再び一瞬にして眠りに落ちた。モニターには、森と崖が映し出されていく。


「すごい……。凄すぎる。情報がかなり細かい。君はすごいよユダラ君。」


1年半かかって入力された膨大な色分けデータが、ベルアントの神経データと脳波、微弱の電力への反応により、惑星の一部が映像化されていく。


「よし、97%再現できてる。リフトを下げます。」


モニターの裏に小走りで回り、地下へ導く無骨なレバーを、両手で一気に引き下げる。バギーとアヒルを乗せたリフトの天板が、ガクッと揺れ、動き出す。動力制御システムを搭載した大型のローラーが、レールを挟み込んで静かに降下していく。予備のワイヤーは適度な張りを維持したまま、順調に引き出されていった。


「降下はスムーズに行われています。」


音声記録を意識しながら、デニスは出入りと、シャッターのロックがかかっているのを確認した。地下10mに位置する巨大な“宇宙騙しの箱”に向かって、リフトは角度60度のレールに沿って暗闇に飲み込まれていく。


「自動ロックのシステムも正常です。降下中のトンネルが暗すぎます。明かりを追加した方がいい。」


モニター越しに身を乗り出し、地下を覗き込む。レールの先でパトランプが静かに回る。深い闇へ続く地下深くの冷たい空気が、地上に吹き上げていた。油圧シャフトの起動音が地下から聞こえる。鈍い金属音が響いた後、転送ドームの密封を示す赤文字の表示が出る。


「えーと、安全装置解除。」


キーを捻りながら足元のレバーを踏む。そのまま赤文字を指でスライドさせた。


「転送ドームを起動します。」


大きな起動音が地下から鳴り響く。2台のコンプレッサーが転送ドームの2重壁内部の空気を抜き始めた。汽車が走り出すようなリズミカルなエアーの音が加速していく。真空圧を示すメーターを見ながら、デニスは惑星の転送地点を設定し始めた。


「平地がひとつも無い。森の中だと観測しにくいので、崖の上に転送します。」


転送地点をできるだけ平坦な崖に合わせる。ベルアント作成のマニュアルを捲りながら、デニスは鼻先に汗を滲ませていた。


「地点設定が難しい。表示が23だから、地盤の厚みから逆算して、17.85……で、」


真空圧を示すメーターが、規定内に到達し、モニターにご機嫌なスマイルのマークが表示される。


「あはは。ユダラ君。いいね、スマイル。」


ベルアントの姿を横目で確認した。


「あ!!倒れてる!!」


手元に集中して気付かなかった。ベルアントは縛られた椅子と共に、ガレージの床に横向きに倒れていた。


「起こせないからこのまま行くね!ユダラ君!!人類史上初のテスト!!ガーガーちゃん、ユダラ惑星への探査を開始します!!」


スマイルマークを、掌で叩くようにベッタリと押す。スマイルマークが赤く点滅を開始した。


光源発生機の高音が地下で一斉に響いた。


ドームの2重壁の中を大量の光線が埋め尽くす。


超音波発生機が強く振動を始める。


放たれた光線が光軸拡散フィルムに衝突し、


飛び散るように乱反射した。


暴れ狂う光線が漆黒の壁に次々と激突する。





「もうノイズはできてるはずだ。どうなってるんだ!!」




モニターに映し出されたノイズフィルターの数値は、


全てが999999.99のまま動かない。




「観測できてないのか?上手くいってるのかな?」




表示されたスマイルのマークが、



大きな通知音と共に惑星のマークに変わった。



ドーム内の小型カメラは白で埋め尽くされた。



音声が、失われたように消えた。




「よし!!ノイズで満たされてる!!宇宙が見失った!!真空を弱めるよ!!」




右上のカバーを開け、中のレバーに手をかける。




「ガーガーちゃん、健闘を祈る。」




デニスはその手を強く引いた。




ガコン、という音とともに、


2重壁の安全弁からエアーが抜けていく。




「さぁ、宇宙よ、勘違いしてくれ。」




デニスはモニターを見つめる。






ボゥゥオォンッ!!






短い音が突然鳴り響いた。




周囲の空気が大きく揺れる。




金属製の建造物が歪むような不協和音に、




巨大な怪物が唸るような厚い音が混ざっていた。




地下で爆ぜたその音はガレージを揺らす。






「何の音?!きたか?!」






デニスはモニターに映し出される崖を見る。






タッチボールを操り、慎重に拡大した。






「あった!!バギーがある!!ユダラ君!!上手くいった!!!!」






更に拡大し、その画像を記録した。




デニスは額の汗を拭い、




人生史上一番の笑みを浮かべた。




「ガーガーちゃんを確認!!テストは大成功!!」




デニスは大きな拍手をした。




「ユダラ君!!上手くいった!!君は天才だ!!」


床に倒れたままのベルアントに、賞賛の喝采が降り注ぐ。


「ガーガーちゃん、痛くなかったかい?」


バギーのスキャニング装置から、

地形と高度、地盤強度などの観測データが、

次々に送信されてくる。

ビリーの支柱に使用されていた技術が、

その性能の高さを発揮していた。


「少し雨が降っているね。ユダラ君、不安だったりしたのかな。ガーガーちゃんが風邪をひくね。帰還しよう。」


惑星のマークに左手を乗せ5秒待機する。右手でレバーを元の位置まで押し込んだ。起動音が鳴る。惑星のマークがスマイルマークの赤い点滅に代わり、真空圧を高めるエアー音がリズムを刻み出した。


「生きと帰りのマークを変更しないと分からなくなりそうだ。一連の動作も多い。連動と自動化を増やして、ケアレスミスの対策をした方が良さそうだ。」


規定圧力に達し、スマイルマークが緑色に点灯する。


「よし、ノイズ生成!!」


掌でマークを押す。

再び光源発生装置の高音が響いた。

ノイズフィルターの数値がみるみる上がる。


「惑星のガーガーちゃんとバギーの情報を、えーと、ドーム床の受信機……あ、これか。地点設定を、ここに、」


ノイズフィルターの数値が999999.99を示した。


「よし、空気を抜きます!ガーガーちゃん!帰っておいで!!」


デニスはレバーを強く引いた。エアーの抜ける音が響く。




「来るか?どうだ??」




これで上手くいけば、成功に大きく近づく。デニスはモニターの縁に両手を着き、固唾を飲んで見守っていた。








ボゥゥオォンッ!!






再び大きな衝撃音が鳴り響いた。




「またこの音だ!!帰ってきたか?!」




ドーム内のカメラを見守る。




白い空間が霧が晴れるように消えていく。




バギーの姿がそこに映し出されていた。




「やった!!成功だ!!ユダラ君!!僕達はとんでもないものを作ってしまった!!ユダラ君!!」




脳みそ読取装置の接続を解除させ、

モニターの裏へ回り、

リフトのレバーを上に押し上げる。

ワイヤーの巻き取りが始まった。

ローラーのモーター音が地下から近付いてくる。

デニスはベルアントに駆け寄った。


「ユダラ君!!起きて!!起きて!!」


デニスはベルアントの脇腹を、

これでもかと、くすぐった。


「……ん……っっ!!ははっっ!!なに!ははっっ!!やめろ!!くすぐったい!やめて!!ははははっっ!」


「成功した!!バギーが帰ってくるよ!!」


デニスは喜びのあまりに、

脇腹をくすぐり続ける。

椅子にきつく縛られ、

ベルアントは涙を流して足をバタつかせた。


「やめて!!死んでしまうっ!!やめっっ!はははっっっ!!!!」


ユダラの笑い声がガレージに響き渡った。

デニスは満足したのか、

手を止めて静かに言葉を落とした。


「君はすごい人だ。ユダラ君。」


体を縛っていたベルトが緩められる。


「ひーっ、やっと解放されたっ。地獄だったっ。やめてくれよデニス。……あれ?なぜ倒れてるの?!」


「モニターに夢中で、気付かなかったんだ。いつの間にか倒れてたよ。あははっ。」


「肩が痛い……。こりゃ痣になるよ。痛ぇ……。あっ!帰ってきたっ。」


デニスの肩越しにバギーが上がってくるのが見えた。雨に濡れ、タイヤには土が僅かに付いている。ベルアントは立ち上がって助手席を見た。


「ガーガーちゃんが、帰還した!デニス、うまくやったね。君のおかげだ。」


ユダラは水滴の付いたアヒルをそっと手に取ると、デニスにそっと渡す。


「ユダラ君、雨が観測されていたんだ。タイヤに土も着いてるよ。惑星の情報をそのままこっちに送り込むから、惑星で起きたことが再現されるんだね、やっぱり。予想通りだ。」


アヒルの体を服で優しく拭き取り、顔の前に持ち上げ話しかけた。


「お疲れ様でした。ガーガーちゃん。君は史上初の探索者だ。」


ベルアントは仁王立ちで満面の笑みだった。


デニスの手からアヒルを受け取ると、


指で摘んで、音を出させた。


潰れたアヒルをデニスに向け、


指を広げ再び滑稽な音がガレージに響く。






「デニス。次は、俺とバギーを転送してくれ。」







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