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《ベルアント・ユダラ》心揺さぶる群像劇。惑星探索アトラクションに挑むSFヒューマンドラマ。  作者: ユダラバギー|脳内探索アトラクション


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25/25

【25】絶対に忘れない [ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]




約束の時間が近づいていた。

フォーマルな服を着た2人は、

事務所に設置された真新しいテーブルの前で、

落ち着かず立っていた。


「いいか、デニス。今日は大事な日だ。俺が全て受け答えをする。君は笑顔でやりすごすんだ。俺が何を言っても動揺するなよ。いいね?」


「来るのは男の人?女の人?優しい?恐い?」


人見知りのデニスは、

国の事業認定の査察よりも、

見知らぬ人との接触に不安を覗かせた。


「怒られるわけじゃないよっ。はははっ。前にも言ったけど、プロジェクトに使う装置は、悪用もできてしまう。認定を受ければ、それがこのプロジェクト自体を守ってくれることになるんだ。君はニコニコペコペコしてくれてたらそれでいい。」


デニスは引き攣った笑顔で、

硬直した体をカクカクと折り曲げた。


「そんなんじゃ、余計に怪しいよデニスっ。大丈夫だ。」


その時、1台の白いセダンがゆっくりと入ってきた。真新しいアスファルトに引かれたラインに合わせ、丁寧に駐車される。


「ユダラ君。来たね。どんな人?怖そう?」


「わかんないよまだ。落ち着いて。」


スーツ姿の男性と女性が車から降りる。

女性はファイルを持ち、

男性は大きめの黒いバックを持っている。

ベルアントは2人が近付いてくるのを見て、

先にドアノブに手をかけた。


「初めまして!今日はよろしくお願いします!」


「初めまして。本日はよろしくお願いします。失礼します。」


2人は明るい笑顔を見せてくれた。

辺りを見渡し「素敵なログハウスですね」と、

女性職員は柔らかい口調で話した。

首から下げたIDを持ち上げる。






「私、国家民間事業査察担当の、ミナザキ、と言います。早速ですが、ユダラバギー様の事業開始に伴う、事業認定査察、および法定安全規則遵守証の認定査察を行います。」






___________


【25】


絶対に忘れない


___________






「僕の最高傑作だ。」


デニスは自室でそのマザーボードを撫でた。エムエイチテックk8600-skn-M2。プロトタイプの複合型単一性思考装置は、回路を無限に増やす拡張型でありながら、2世代前のマザーボードに組み込まれた。


「君は“特別”だったんだね。設置できるボードを探すのにとても苦労したよ。エフエイチテックが善意でくれたマザーボードには、発信機以外にも隠された回路がいくつか存在していた。言われるがまま導入していたら、何かしらコントロールされてしまっていたかもしれないね。でも、そのおかげで回路を隠す方法が分かったよ。」


デニスはエスプレッソに口をつける。

湯気がレンズを曇らせ、視界が霞む。


「でも、君を起動するのは、しばらく先になりそうだ。」




_____




「ユダラ君、探索中に君のサポートするAIを導入した方が、トラブルの回避や安定に役立つと思うんだけど、どう思う?」




「そうだね。今やAIはあらゆるものに搭載されているからね。でも、俺には必要ないよ。」




「それは、どうして?」




「俺には、君というAIよりも優れた友達がいるからだ。」




_____




「君の育ての親になる人は、まだ君を必要とはしていないかもしれないね。」



デニスは頬を緩める。



「ミリアン。僕は研究所を辞める。ユダラ君とのプロジェクトに専念するよ。初めて転送装置を動かした時、僕は感じたんだ。ここが僕の居場所なんだって。」




窓からの夜風が首をくすぐるように通り抜けていく。

デニスは目を少し細め「いい風だね」と呟く。




「僕にはわからない事だらけなんだ。」




_____




「その、プロジェクトというのは、成功する確証はあるのか?」




「確証はもちろんありません。しばらくは、研究所の活動を制限して、そちらに専念しようと思います。」




「プロジェクトの提案者は、科学者なのかい?」




「いいえ。僕の友達です。」




「あっはっはっ。何ができるんだその“お友達”に。君はきっと騙されているよ。君の技術や脳を利用しようとしているんだろう。君と釣り合うはずがない。まともなプロジェクトには思えない。辞退した方が賢明だ。詐欺かも知れない。」




「……。室長。彼を馬鹿にしないでもらいたい。」




「人の脳を惑星に変換して探索をする?バギーに乗って?そんな馬鹿げたプロジェクト、誰が信用すると思うんだ。そんなお友達とは、縁を切った方がいい。君が活躍できる環境は、ここにあるんだから。」




「それを聞いてはっきりしました。ありがとうございます。失礼します。」




「おい、ワイザー君、話は終わっていないぞ。」




「話は終わりました。僕はここを辞めます。失礼します。」




「おい!ちょっと待て!おい!」





_____






デニスは立ち上がって、金庫に向かった。

解錠し、奥に手を伸ばす。

片手でなんとか持てるほどの黒いボックスを、

ミリアンの前にそっと置いた。


「ミリアン、人格の元となるノイズを、君のセキュリティウェアに入れておいたよ。君は、回路を増やしていく中で、いつか感情を持つだろう。そう、人間のように。」


そのボックスを軽く指で叩く。


「これは、君が成熟するまでの間の救済プログラムだ。ユダラ君は無茶をする。本当に心配なんだ。僕がいなくても、このプログラムと君の成長が、きっと彼の助けになってくれる。」




デニスはミリアンに柔らかい布をかける。

その上にそっと、一通の手紙を置いた。





「それまでおやすみ。いつか、会えるといいね。」







…………………………




カン、カン、カン、カン、


カン、カン、カン、カン、


ゆっくりと階段を降りていく。

金属製のフレームが、4人の足音を反響させていた。


「ボナハートにこれほどまでの地下施設を作ったのは、あなた達が初めてです。驚いています。一体どのような工程でこの地下を?」


査察員のミナザキに同行していた、国家科学連盟認定員のフリードは、興奮のあまりに社会見学の学生のようだった。


「バンナムに、すごい穴掘り屋がいるんですよ。その人にお願いしました。」


「ほう……。バンナムですか。バンナムには、素晴らしい技術があると、聞いた事があります。」


「バンナム、面白いですよ。今一度そちらで視察なさってみてください。このプロジェクトの設備の多くはバンナムの職人達の技術で生まれています。」


ベルアントの後ろを、背筋が伸びきったデニスが、ピッタリと付いて歩いていた。誰かが話す度に、笑顔で首を機械的に曲げる。両手が伸びきって体側に固定され、首から上と足しか動いていない。まるで“ニワトリロボット”だった。踊り場に着くと、ハンドルの付いた重厚な水密扉が姿を現した。


「この扉は水密扉ですね。どうしてですか?」


ミナザキは配置図をファイルで確認しながら、タブレット端末に随時なにかを記していく。


「水害や水道管の破裂によって地下施設が浸水しないための予防策として採用しました。この上には、水道管がありますから。あと、発電機や装置の音がするので、防音も兼ねています。なによりも、見た目がかっこいいからです。」


ベルアントは力強くハンドルを回した。


「どうぞ、ここがメインの“コンピュータ室”です。」


査察員達がゆっくりと入り装置を眺める。デニスは踊り場で一段と背筋を伸ばしていた。首を30度左に傾け、飛び出しそうになるほど目をかっ開いた。“量子生成装置室”ではないのか、無言でベルアントを穴が空くほど見つめる。ベルアントは、目を細めデニスを見る。

ほんの僅かに舌先を出した。


「これは、非常に大きなコンピュータですね。中を見ることは可能でしょうか?」


フリードは見た事のない装置に目を輝かせていた。「もちろんいいですよ」そう言って笑顔でベルアントは側面のカバーをひとつずつ丁寧に外していく。


「4つのコンピュータをひとつにしているような形状ですね。非常に高度な技術です。こちらはご自身で制作を?」


「そうですね。パーツを取寄せて自分達で組み上げました。」


「素晴らしい技術をお持ちです。この一番前のコンピュータは何を行っているのでしょうか。」


量子生成の膨大なデータが詰め込まれた、最も大きなコンピュータを指差した。


「これは、探索者のデータを惑星として映像化する、AIが稼働しているコンピュータです。この多くのメモリスティックには、惑星の材料が記録されています。」


「なるほど、AIを使用して映像化しているのですね。これは面白い。AIはどこのものを使用しているのですか?」


「AIは……、えーと、ウィンネルのAIを、使用しています。」


「ウィンネルですか。渋いですね。」


ベルアントの視界の端に、ニワトリロボットが、微かに見えていた。体を装置に向け、首だけをこちらに向けている。目が乾かないのが不思議なほど開いている。装置、ベルアント、装置、ベルアント、穴が開くほどこめかみが凝視されていた。ベルアントは左手を一瞬上げ視界を払う。


「この、隣のコンピュータは何を?」


2歩横に進んで、説明を始める。

ニワトリロボットはその幅を6歩使って付いてくる。


「この装置は、探索者のデータを予め入力し、惑星の地形などに変換するためのコンピュータです。AIが全てを処理すると、負荷が多いので、それを補助するような役目になっています。」


ベルアントは、コンピュータの部品を指差しながら、ひとつひとつ丁寧に、虚偽の説明をしている。相手は、国家事業査察員だ。目の前で繰り広げられる恐ろしい行為に、ニワトリロボットはショート寸前だった。まさか、本当にAIの映像だったのか?あまりにも流暢なベルアントの説明に、信用してしまいそうになっていた。

硬直したまま首を強く振った。


「ワイザーさん、大丈夫ですか?」


ミナザキがデニスの様子を気遣って、

心配そうに声をかける。


「あー、彼は緊張しているだけです。なぁ?デニス。」


ベルアントがデニスの背中を叩いた。




「パイッ!!!!」




頭の中を暴れていた思考が、突然走った背中への衝撃に声となって飛び出した。


「パイってなんだよっ。はははっ。落ち着いて。」


「ミナザキサン、オキヅカイ、アリガト、ゴザマス。」


「肩の力を抜け、デニス。2人ともとても優しい方々だよ。緊張しなくていい。」


「あの、気になっていたんですが、デニス・ワイザーさんって、あの、デニス・ワイザーさんですか?」


フリードは妙に腰を下げ、聞いた。


「すみません、あのデニス・ワイザーとは、どのデニス・ワイザーでしょうか?」


少しずつ解れていく緊張の中、フリードの質問に、しっかりと目を合わせた。


「量子力学者。“宇宙騙しの箱理論”を打ち出した、あのデニス・ワイザーです。」


フリードは質問をしながら、背筋を硬直させていく。

その質問にデニスは大笑いをした。


「あっはっはっ。それ、僕です!!なんで知ってるんですか??」


それ聞いたフリードは目を大きく開いた。両手を体側に真っ直ぐに揃え、背中をピンと張る。


「大変失礼しました!!」


突然大きな声でフリードはデニスに頭を下げた。


「なぜ!フリードさん。失礼なことなんて何もしてませんよ、やめてください。」


デニスは頭を下げられて再び背筋を硬直させる。2人とも目を見開き、互いにカクカクと体を折り曲げた。


「はははっ!!デニスが増えた!!」


ミナザキは頬を緩めながらも、軽く咳払いをした。


「フリード、査察の続きをしましょう。それほど長くはかかりません。お二人とも、ご協力の程よろしくお願いいたします。」


「はい!よろしくお願いします!」




ボナハートの地下に声が響く。

発電機の真空圧が下がり、

コンプレッサーが起動する。

蓄電池の数値計は、またひとつ目盛りを上げた。



____




リフトが規定位置で停止した。




転送ドームの蓋が油圧で密閉される。




汽車が走り出すようなエアー音が外に響く。




突然高音がしたかと思うと、




雨のように不安定な光が降りそそぐ。




一瞬にして辺り一面が光に埋め尽くされた。




外で空気の漏れるような音が一瞬聞こえた。




次の瞬間、目の前の光が四方に飛び散る。




どこかに吸い込まれるように重力がかかり、




肉体が粉々になるような感覚が脳を埋め尽くす。





「……んん……。」





風に揺れる葉の音が聞こえる。




頭にかかっていた装置の重みがない。




デニスの声も聞こえない。




無機質なガレージの匂いがしない。




「……ん?ここは……。」




目を開けた彼はバギーに座ったままだった。




眠りに落ちた、そして、……ここは……。




「着いたか!着いた!!デニス!!やった!!」




彼はバギーの扉を開け、飛び降りる。




目の前に広がった光景に言葉を失う。




いくつもの切り立った崖。


大きな森。


どこかで流れる大きな川の音。


遠くに見える湖。




風が吹く。




「なんて、なんて美しいんだ……。」




何かが爆発するように内側で蠢いた。


それが胸を焼くように熱くさせる。


首筋がじりじりと痛むほど緊張し、


目の奥が次第に脈を打つように熱を帯びる。




「俺の心、凄いことになってる!ジーッ!エミーッ!」




叫んだ声が崖に木霊する。




涙が溢れ続けていても何も気にしなかった。




無我夢中でバギーに飛び乗る。




「テストだ。走ろう、相棒。」




シートベルトを締め、




ギアをハイパワーに合わせる。




「デニス!見えてるか!すぐ戻る!」




踏み込まれたアクセルが地を滑る。




目の前の障害物を避けながら突っ切る。




「運転が下手くそだ。これじゃダメだ。」




ベルアントは、無我夢中になった。




生まれて初めての感覚だった。




心に仕えていたものが解けていく。






「さぁ、惑星の探索を始めよう、ベルアント。」






____






「ユダラバギー様の査察は以上となります。本日は、ありがとうございました。」


「こちらこそ、ありがとうございました。」


「審査、認定が降りるまで、約2週間程かかります。ご希望に添えない場合もございます。あらかじめご了承ください。」


「はい。楽しみに待っています。」


「では、この申請書の1番下に、申請者のサインをよろしくお願いします。」


ベルアントはデニスを見る。彼は柔らかい笑顔でベルアントを見ていた。ペンを手に取り、インクを走らせる。





「デニス。俺達のプロジェクトはこれで完成だ。」





ベルアントはペンを止め、


鼻から息を抜くようにして微笑んだ。




____




『では、この土地の購入者の名前をこちらへ。』


『ありがとうございました!こちらにサインを。』


『受け取りのサインをお願いします。』


『免許の情報を確認し、こちらにサインを。』


『こちらに、入居者の名前を記入ください。』


『ジュニア、基金の出資者の名前をここに。』


『掘ってもいいんだな?同意書にサインしてくれ。』


『納品は以上です。ここにサインを。』


『おい、ここにバギーの名義人を書いてくれ。』


『ユダラ君、ここに、名前書いて。』




____




「ジュニちゃん。ここに、あなたが書いて。」




「あはは。これはこれは、大仕事だ。」




ベルアントはペンを握りしめた。




丁寧に、慎重に、紙にインクを落としていく。




「どうしたの?」




ペンの先を僅かにあげてベルアントは笑う。




「エミー。俺がこの世に誕生する。ジー。ちゃんと見といてくれよ。」




残りの名前をゆっくりと書いていく。




「ジュニちゃん……あなた……っ!!」




エミーはハンカチを目に当て、


声を上げて涙した。





「ジー。俺の名前は、俺が付ける。あなたの恥じたその名を。そして、あなたを。俺は、絶対に忘れない。」





ペンが最後の文字を書き終え、


ゆっくりと持ち上げられる。




「エミー。」




エミリは深く一度だけ頷いた。


申請者の1番下に大きく書かれていた。








ジールが、笑っている気がした。








[出生証明を取得する者の氏名]










《 ベルアント・ユダラ 》










[ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]

《ベルアント・ユダラ》


【完】




[ユダラバギー|脳内探索アトラクション]


https://note.com/yudala_buggy/n/n20c6cd545bf3






最後までお読みいただきありがとうございました。

本編はnoteのみの作品となっております。

読んでいただけるととても嬉しいです。



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