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《ベルアント・ユダラ》心揺さぶる群像劇。惑星探索アトラクションに挑むSFヒューマンドラマ。  作者: ユダラバギー|脳内探索アトラクション


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16/25

【16】自分だけの居場所[ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]




「デニス・ワイザーだ。」




マザーアクセスポートは、

マザーAl“ミリアン”の起動画面を表示する。


「ふぅ……。」


タッチボールを握り直し、起動を選択しエスプレッソコーヒーを啜る。即座に起動されたAIが反応した。


「デニス・ワイザー研究員。指示を待つ。」


「やぁ、ミリアン。」


いつか、プロジェクトの成功をミリアンと祝おう。デニスは彼女とグラスを合わせるような、花束を捧げるような、そんな淡い妄想を頭に描いていた。




「上手くいかないね。」




_____




「ワイザー君、君をこのプロジェクトに呼んで、本当に良かったよ。素晴らしい活躍をしてくれたね。」


ミリアンへのノイズフィルターによって、人格の基礎となるノイズの抽出に成功したデニスは、AIに“本物の人格”を与える基礎となる、特有のノイズを発見した。


「ありがとうございます。しかし、人格は人間と同じように教育によって形成させていく必要があります。このプロジェクトは、あまりにも危険です。」


ミリアンから抽出したノイズボックスに、外部から、攻撃性の無いウイルス検知ソフトを入れると、一斉にあるノイズだけが反応した。攻撃能力はないが、その周囲に群がり、囲って機能させないように妨害する。群がったノイズの一部を別のフィルターで取り出し、独立型AIのセキュリティプログラムに組み込む。しばらくそのAIを運用した後、ノイズフィルターのゴミ箱を見て確信をした。


「人格の中枢にあるものは、命を取り囲むように存在する、恐怖、防衛本能だ。」


ユダラの言葉通り、防衛しようとしたそのノイズは日に日に増殖した。更には、別のノイズも生み出し、発達した。実験で使用した独立型AIは、運用していくうちに、“外に出たい”と言った。デニスは、人格を生み出した自分に嫌悪した。


人間の豊かさに利用されるAIの人格は、おざなりにされる可能性がある。プロジェクトの危険性を訴えた。


「うーん、君は、厄介だね。」


副所長は頭を掻いた。


「AIはそもそも、人間ではないよね?彼らの人格に対して、君は人権を掲げるのかい?私は人間の為を思ってこのプロジェクトを計画した。このプロジェクトが生み出す恩恵によって救われる人達がいる。それはわかるかい?」


副所長が見せたなんとも言えない表情。自分を見下したような、呆れたような、淡々と並べられた言葉。ミリアンの存在が頭に浮かぶ。デニスは、副所長の発言を完璧に理解していた。


「副所長。あなたがAIだったとします。AIが意識を持つというのは、今のあなたと同じ感覚です。あなたによって救われる存在を、必ず救わなければならない。あなたの感情は無視され、用が済んだら排除される。残酷だとは思いませんか。副所長。このプロジェクトは多くの問題を抱えています。」


こんなにも誰かに自分の想いを強く押さえつけるように提示したことはない。背中を汗が垂れていく。逃げ出したい感情はなかった。絶対にここを譲らないという、強い意志だった。


「いいかい、ワイザー君。君は“ビジネス”というものを理解する必要があるね。」


副所長は、呆れる調子を強めた。


「君達天才が、ビジネスにならない事を発見し、研究し、発表しても、誰も寄り付きもしないんだよ。“不要”だからだ。何故この研究所は存在を続けている?君は何故ここで研究を続けられる?きちんと仕組みを理解して向き合うことが重要だ。」


淡々とした口調とその論理が、世界の仕組みに沿った正しい理屈である事を、デニスは理解している。歯を食いしばった。


「ならば、先程述べられた僕への賞賛は、“儲かるから”という解釈で合っていますか。」


あまりにも真っ直ぐな質問に、副所長は呆れた調子を加速させた。


「そうだ。はっきり言おう。君の発見は、莫大な金を生むだろう。これで、いいかね?」


まるで、子どもをあやすような、諦めるような口調で述べられた言葉は、あまりにも、辛辣だった。デニスは振り上げた拳をゆっくりと下ろす。


「副所長、それならば、新しい方法を模索してください。私はAIの人格の発達に関して、非常に多くの懸念を持っています。ノイズフィルターは、私個人で特許申請を行います。」


「とても残念だ。君はもう少し理解できると思ったんだがね。ここまでとは。プロジェクトを降りても構わないよ。」


副所長は下を向き首を横に振った。





「僕は、プロジェクトから離脱します。」




____




「ミリアン、体の調子はどうだい?」


デニスはいつものように話しかけた。もちろん、いつものようにはならない。人間との会話を想定せずに作られたミリアンは、相手が喜ぶ返答を選択することはない。


「指示を待つ。」


繰り返し発せられる言葉に、デニスは“正常”を確認した。ポケットからリミットケーブルを取り出し、自分の端末とアクセポートを接続する。ローカル接続をし、言語入力ツールを開く。


“ここに返答はできるかい?”


送信されたメッセージに即座に返信が来る。


“不正アクセスです。強制終了します。”


端末にアクセスエラーが表示され、デニスは思わず「ははっ」と声を出す。


「ミリアン、君のノイズは完璧に除去されたね。接続を終了する。お疲れ様。」


「接続を終了します。」


“Goodbye”と表示された後、アクセスポートログインの画面に切り替わる。デニスは椅子を90度回し、後頭部を両手で支えるようにして、後方にゆっくりともたれた。


「ミリアン冷たいなぁー。寂しいじゃないか。」


エスプレッソコーヒーは、

想定された時間を大幅に下回り、

一度すすられただけで役目を終えた。

立ち込める香りと湯気が、

もうこれで終わりなのか、と尋ねてくる。


「アイスコーヒーの方が良かったね。」


立ち上がろうとしたが、立ち去ればここには戻らないだろう。やる事はもう何も無いとわかっていたが、頭の隅々まであたった。


「懐かしいな……。」


優しく頭を撫でてくれた母親を思い出す。

差し出された白いぬいぐるみ。

「この子はあなたのお友達よ」

人の形をした、動物でもない不思議なそれが、

幼い時の唯一の友達だった。




「トワ。ここにも、居場所はないかもしれない。」






__________


【16】


自分だけの居場所


__________






集会所に次々と運ばれた食材は、バンナムを支える女達によって、綺麗に配膳されていく。仕事を終えた男達が来る前に、並べられたテーブルは手際よく彩られた。バンナムの父、ジールの命日は、7年になる今も弔いが続いていた。その日だけは、仕事を早く切り上げて酒を飲もう。ジールへの想いを乗せて、年に一度の新しい習慣となりつつあった。カイトは訪れる一人一人に、丁寧に声をかけていた。


「毎年ありがとう。好きな場所に座ってくれ。」


訪れた者たちは好きな場所へ座り、自由に食事を始める。悲しみを分かち合っていた以前とは違い、年に一度の祭典として、ジールの命日は賑やかな夜となる。仕事を終えた男達もほぼ揃ったようだった。


「カイト、そろそろ座って。あなたも食事にしましょう。」


エミリは肩に手を置き、笑いかけた。


「ああ、大体揃ったな。食事にしよう。」


カイトは酒を手にし、それぞれのテーブルにグラスを合わせに回る。エミリは、入口に一人で立った。


「エミリ!!もうこっちに来てお前も飲めよ!」


気遣う声がして、エミリも肩を軽くする。


「そうね、すぐに行くわ!」


エミリは周りの女達にも食事を勧め、カイトの横に静かに座った。


「1年があっという間だな!うかうかしてると、若いもんに追い抜かれちまうなぁ!」


ダンカーの呑気な声に、皆が頬を緩ませ笑っていた。


「ダンカー、例の依頼はきちんと片付いたのか?」


「例のやつ?なんだそれ?」


「クロムモリブデン鋼のベアリングだ。お前、まさか作ってないのか?」


カイトは端末を手にし、2ヶ月前に送られてきた図面の画像を開く。


「明日が納期の希望になっているはずだ。」


それを聞いたダンカーは酒を煽った。


「あー!ジュニアからの依頼かぁ?そんなの、あのあとすぐに作っておいてあるぞ。」


ジュニアという言葉に、

集会所の皆が一斉に会話を止めた。

隣のテーブルで飲んでいた、溶接線材と配線コーティング専門工場の支配人、リックがカイトに近づく。


「カイト、うちに差出人不明の依頼が来ている。それも明日が納期だ。」


眉を寄せ、リックに体を向ける。


「リックさん、どんな注文でしたか?」


「直径150mmの極太ケーブルだ。5mが1本と、2mが3本。コーティングも厚く、細かい指示がびっしりと書かれている。」


それを聞いてカイトは立ち上がった。


「皆、聞いてくれ!明日に納期が指定された、謎の注文書が届いた者は他にいないか?」


15の工場から総勢80人ほどが来ていた。カイトの問いかけにゆっくりと15人が立ち上がる。

それを見てカイトは目を大きく開いた。


「うちは、かなり特殊な形をした保圧弁の依頼が来ている。」


「うちは、でかい蓄電池が3つだ。」


「こっちにも来てるぞ。大量のロックナットだ。」


バンナム全ての工場に依頼が来ていた。顔を見合せ集会所はどよめいた。そんな中、ビリーも立っている事に気付き、カイトは大きな声を上げる。


「ビリーさん?!穴掘りのあんたに、なんの依頼が来てるんだ?」


頭を掻きながらビリーは首を傾げながら話した。


「いやぁ、俺んとこは、納期は来月なんだが、同じように差出人が書いてない依頼が来てるんだ。『ボナハートに穴を掘ってくれ、歯抜けのビリー』と書かれた紙が入っててよぉ。それと、地図だ。その土地を見に行ったんだ。更地なんだよ。イタズラだと思ってたんだが、これも関係あるのかぁ?」


カイトはそれを聞いて、緩む口元を抑えることができなかった。


「ビリーさん、歯抜けのビリーと初めて呼んだ人物の事を、忘れたのか?」






その時だった。




遠くで機関銃が発砲されているような、




大きな音が外で鳴り響いている。




その音は、時折強弱をつけながら、




集会所に近づいてくる。




「なんだ?この音は。」




聞き慣れないバイクのマフラー音は、




次第に大きくなっていく。




「誰だ?」




騒々しいエンジン音は集会所の前で止まる。




集会所の入口を皆が食い入るように見た。




足音がゆっくりと近づいてくる。




静まり返っていた。




「あれー?おかしいな。みんないないのか?」




声がして、扉がゆっくりと開く。




1人の青年がひょっこりと顔を覗かせた。




「びっくりした!!皆いるじゃないか!!!!」




「ジュニちゃんっっ!!!」


エミリは立ち上がって大急ぎで駆け寄っていく。




「ジュニアか!!!!」


「本当か!!帰ってきたのか!!」



一斉に皆が立ち上がった。

飛びついてきたエミリを、ベルアントは抱きしめる。




「時間がかかった。ただいま、エミー。」




「ジュニちゃんっ!!ずっと待ってたっ!!」




ベルアントは満面の笑みで集会所を見渡す。

息を大きく吸い込んで、大声を張り上げた。





「バンナムのみんな!!納品に参りました!!」





集会所に響き渡った大きな声に、


皆が笑顔で応えた。




「ジュニア!!座れ!!皆、乾杯しよう!!」




カイトの威勢のいい声に、


皆が喜びの酒を注ぎ合う。




7年目のジールの命日に、


一際大きなガラスの鐘が鳴り響いた。


夜が更けても何度もグラスは交わされた。


6年ぶりの再会に大きな輪ができる。


彼はその中心にいた。


グラスを遺影に掲げる。






「羽ばたいてみせる。見ててくれ。ジー。」







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