【14】眩燿のサムズアップ [ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]
「あぁ、こっちは大丈夫だ。まかせとけ。ジュニアは大丈夫か?……そうか。そばにいてやってくれ。」
ダンカーは端末をポケットにしまうと、
そのポケットを強く握りしめた。
悔しさに支配されないように、
歯を食いしばって懸命に耐えた。
発電所修繕の初日の工程に終わりが見える中、
作業を中断させ、皆を集める。
「ジールが死んだ。」
ダンカーは一言だけ告げた。
全員がその可能性を脳裏に描いていた。
それを押し潰し噛み殺し働いていた。
逃れられない現実に皆が涙し、悲しみに包まれた。
バンナムという街で、彼に世話にならなかった人はいない。
静かに黙祷が捧げられた。
「少し、休憩をしよう。」
ダンカーは、蛇口を捻り顔を洗った。
泣いてなどいられない。
発電所を停止するのは3日が限界だ。
やり遂げなければならない。
夕日が空を染めていく中、彼は、静寂を割いた。
「俺は、この街が大好きだ!!でも、何も成し遂げられていない。ジールに甘えていた!!何も返せなかった!!おれは、悔しい!!」
洗ったはずの顔が、
涙と鼻水で台無しになっていく。
彼の真っ直ぐな言葉に、皆が俯いた。
「ジールは明日の夕方には帰ってくるんだ!でも、俺達は、ここを最後までやり遂げないとならねぇ。ジールはいつも無茶を言ってくる!今回もだ!」
必要以上の大声で話す。
まとまりの無い溢れる葛藤を、
皆静観していた。
「3日過ぎれば電力が途絶えちまう。けどよ、3日も働いたらジールに会えなくなる。」
ダンカーは汚れたタオルで顔を擦る。
油汚れを塗りつけ、再び顔が真っ黒になった。
「俺は今から、夜通しここで作業を続ける!!明日の昼には終わらせるんだ。ジールを迎えることができないまま、馬鹿なやつだと思われているなんて、俺は耐えられない!!」
“おい、本気で言ってるのか?!”“無茶言うなよ、ダンカー!”
そんな声が飛び交うだろう。
ダンカーは1人でもやるつもりだった。
成し遂げてジールを迎えたい。
自分のエゴをこんな時にばらまいて、
ダンカーは自分が惨めで涙が止まらなかった。
「ダンカー!!今回だけだぞ!!」
歯が3本しかない滑舌の悪いビリーが、
ダンカーに向けて大声を出した。
「ダンカー!!やってやろう!!俺達ならできる!!」
「ジールのためだ!!」
続けて2人、3人と作業員達が立ち上がった。
ダンカーはキョトンと目を丸くした。
「お前が言い出したんだろう!がっはっはっ!!」
自分にも何かが成し遂げられるかも知れない。
ダンカーは内側から熱いものが込み上げる。
「よぉぉーーしっ!!!!」
ダンカーは自分の頭を2度3度殴った。
剃りあげた地肌がみるみる赤みを帯びていく。
「残れるやつだけでいい!!動けなくなったやつぁ、帰って大丈夫だからな!!なんとか、明日までに、終わらせるぞ!!やってやる!!ジール!!見とけよ!!」
今までにない一番大きな声でダンカーは喜びと気合いを空にぶちまける。その姿に皆が大笑いした。
「悲しむのはやめだぁ!!あしたの夜は、ジールの前でカンパイをしてやろう!!」
その声に一同が声を上げた。
ダンカーの目は輝いていた。
「みんな、いいやつらだ。ジール、がんばるからな。」
発電所は深夜になっても男達の声が飛び交い、灯りを消すことはなかった。
若かりしジールの声が聞こえてくるようだった。
「俺達には仕事しかない。死ぬまで働くぞ。」
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【14】
眩燿のサムズアップ
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「デニス、おさらいだ」
市街地ユノールの昼下がり、
ブッカブッカの一番奥のテーブルには、
ブエンコークの瓶とオレンジジュースが並ぶ。
紙とペンで落書きのような絵を書きながら、
互いの認識が正しいのか、チェックが行われていた。
「惑星生成装置の仕組みからだ。」
デニスは試験官のモノマネをしながら、
腕組みをしてメガネを中指で上げる。
「聞かせてもらおう、ユダラ君。」
「オーケー。まず、惑星を仮想空間に作るための、惑星量子生成装置がある。」
紙に四角い箱を書き、惑星装置と書いた。
「この装置は、まっさらな何も無い仮想空間に、探索者の神経データ、脳波、人体データ、記憶の輪郭を惑星に変換して生成する役割がある。探索者の情報に対して、惑星の何になるのか瞬時に仕分けして量子サイズで仮想空間にばら撒くんだ。1年半かかって入力した、人間の心を惑星に分布させる膨大な色分けデータに沿って量子が作られる。」
仮想空間と書いた横に人の頭を書き、
矢印の先に惑星を書く。
子どもの書くような単純な絵で、
デニスにレクチャーするように続ける。
「コンピュータ内部の量子読み取り用のCPUが、量子をかき集めて瞬時に木や山を再現する。予め記憶させているバギーの形状と材質、ガイドの肉体のデータを、再現された惑星に流し込む。流し込む先が、いわゆる探索開始場所だ。」
ペン先で惑星の絵の上で2回叩く。
「ふむふむ、今のところ順調だ。どうやって探索者の情報を読み取るんだね?」
デニスは楽しそうに試験官を演じている。
「自作の“脳みそ読取装置”を使う。これは、医療用の脳波・神経データ取得のヘッドギアを改良したもの。特殊な数種類の微弱な磁気を与え、その反応から感情の変化を読み取って人格の骨組みも読み取れるようになってる。この特殊な磁気を発する機器は、MRIの応用で、近年開発されたものを流用した。肉体情報はヒアリングと測定値も含めて精度を上げる。」
店長のサンドは鼻歌を歌いながら、
ディナーの仕込みをしている。
骨付き肉を割る豪快な音が時折響いた。
「それで、どうやってそこへ探索者、バギー、ガイドを送るんだね?」
意地悪な顔をした試験官は身を乗り出した。
「ここからが肝心だね。偏光ガラスと光軸拡散フィルムを内壁全面に貼り付けた二重構造のドームに、探索者、バギー、ガイドが入る。二重構造の壁の中を一気に真空に近い状態にするんだ。その中に、赤外線を含む高出力の光線を放射する。超音波も微量だけど出力する予定。真空内で暴れ狂った光線の中から、“ノイズ”をノイズフィルターに通して保圧弁からドーム内にスプリンクラーのように拡散させる。光に似た光線がドーム内に充満して、おそらくドーム内は真っ白になる。その瞬間、この世界の物理法則がドーム内を認知できなくなるんだ。『宇宙を騙す』だね。仮想空間で出来上がった惑星と探索者達のデータをバギーの心臓部に転送し、ドーム内の真空をゆっくり解くと……。びっくり仰天、見失っていた情報を物理法則が見つけ、『あ、君達こっちにいなきゃおかしいよ!』と言わんばかりに慌てて俺達を仮想空間内に誤って送り込んでしまうんだ。気付けば我々は、惑星に到着だ。」
「だかしかし、帰って来れなくなるんじゃないのかね?」
「それはご安心を。ドーム内をノイズで満たして、宇宙が見失っている状態を作り、惑星にいる探索者とバギーとガイドのデータを量子生成装置でドーム内の土台中央の受信機に送る。ドームの真空を解くと、物理法則がその情報を見つけ、探索者達を元の世界に再現してしまう。」
「パーフェクトだ。ユダラ君、完璧だよ。」
デニスは手を叩いた。
補聴器で遮断していない拍手が聞こえ、
サンドは祝い事かと思い一緒になって手を叩いた。
サンドに向かってユダラはサムズアップする。
「で、ユダラ君、設備の手配は順調なの?」
ユダラが理論を把握しているのは、
デニスにとって、“当然”だった。
自分がいない時間も多く、不安の色を覗かせた。
「そうだね。惑星生成に強力な電力が必要なんだ。常に発電して、大きな蓄電池3発に充電させる。発電機周辺のパーツと、規定の真空圧を保つ為のコンプレッサー3台、極太ケーブル、あとは、装置の冷却に使う液体窒素のタンクと、細かい部品が揃えば設備はおしまいだね。」
「外注を分散しているんだよね?いつ頃届くの?」
「同じ日に全部手に入る。」
同じ日に届くと配送が重なって大変になるんじゃないか、デニスは強引な設定に心配になった。
「それならその日の前後休んで、僕も手伝いに行くよ。」
「うちに持って来てくれるわけじゃないんだ。大型トラックを手配してる。自分で取りに行くよ。」
デニスにはその意図がさっぱり分からなかった。
オレンジジュースを口に含み、思考をする。
試験官のような素振りで、
ユダラはデニスをじっと見つめた。
「なぜそんなことをするのか、君にわかるかい?」
意地悪な表情を浮かべ、
お返しと言わんばかりに質問をした。
「……わかりません。ユダラ君が考えることは、僕の想像を軽々と越えてきますから……。」
はっはっはっ、と誇らしげに笑うフリをする。
ニッコリ笑ってデニスを見つめる。
デニスはその顔を見て、理解した。
「まさか!!バンナムに帰るのかい?!」
ユダラはそれを聞いて、
満面の笑みでサムズアップをした。
「時は満ちた。デニス、俺は、皆に会いに行く。」
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夕日が辺りをオレンジに染めていた。
砂地で小さなフトアゴヒゲトカゲが腹を温めている。
転がるタイヤの振動に驚いて走り去っていった。
霊柩車がバンナムにゆっくりと入っていく。
ベルアントは、帰ってきた。
「みんな……っ。……ありがとう……。」
通りには、人がずらりと並んでいた。
手を胸に当て、静かに俯き、
“バンナムの父”を皆が迎えていた。
夕日に照らされたその光景に、
改めてジールの影響力を痛感した。
「……あっ。」
全員が顔を揃えていた。
発電所で作業を志願した者達だった。
ダンカーの姿に思わず車を止めた。
「ダンカーさん!!発電所は?!」
窓を開けて言い放つその言葉に、
ダンカーは大声を出した。
「終わらせたぞ!!ジール!!待っていたぞ!!」
涙を溜めて吐かれた言葉を聞いて、
涙を再び抑えられなくなった。
「ダンカーさん。……ありがとう。」
霊柩車はバンナムを巡回した。
その間も迎える人は途切れることはなかった。
ジールを乗せた車は小さな集会所で停車する。
「……これは……みんな……。」
ベルアントは大粒の涙を流した。
備えられた献花台を白いユリが埋め尽くしていた。
夕日が真っ直ぐにその花を染めている。
目を絞らずにいられないほど眩しかった。
光り輝くオレンジの献花台。
ベルアントはその景色を生涯忘れることはない。
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