【12】覚悟 [ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]
「ユダラ君、これ、全て一人で作ったの?」
デニスは2ヶ月ぶりに訪れたユダラの作業場で、持っていたサンドイッチの入った袋を落とした。
「そうだよ。設計はもうほぼ終わってるし、部品は注文しているから、どんどん作っていくだけだね。」
デニスは開いた口が塞がらない。
「君は一体何者なの。」
「ははっ、デニス、テクニカルフィールドに真空系の部品は3Dプリンターで作成を外注していたから、俺が作ったのは、量子生成のコンピュータと、このノイズ発生機の物理ジョイント周辺と、プログラム入力、あとこの“人間脳みそ読み取り装置”、ドームの補強と、あと……」
「待って待って!!外注したのこのドームの皮だけなの?!」
「そりゃもちろんコンピュータのパーツは作ってないよ。惑星生成装置のほとんどは、購入したものを、組み上げているだけだ。」
「組み上げたものを購入する方が早くない?」
デニスは自分でここまで作る理由がわからなかった。当たり前の顔をして飄々と説明してくる製作者が、“変人”にしか見えなかった。
「自分で作ると、直しやすいんだ。あえて原始的な構造を残したり、取り出しやすい順序で組んだり、自分で組み上げると圧倒的にメンテナンス性が高い。それに、装置自体を外注したら、このプロジェクトで何をしようとしているのか、予測できてしまう。外注先を細かく分散して、リスクを避けてる。」
その観点がまるでなかった。デニスは目に入るもの全てに質問したくなっていた。サンドイッチを拾い上げ、椅子に力無く腰掛ける。
「ごめんよ、ユダラ君のこと、見くびってたよ……。」
友人として10年近く関係はあったものの、実際に何かを作り上げるという共同作業をしたことがなかったデニスは、目の前の光景に、ただただ感嘆した。
サンドイッチを一切れ取り出し、
味わうことなく口に放り込む。
パンと野菜を咀嚼し、
空腹で縮こまった胃にゴクリと流し込む。
「君がいたら、本当に実現できてしまうんだ……。」
それを聞いてユダラは大笑いをした。
「デニス、俺が君をこのプロジェクトに誘ったんだ。」
そう言って溶接機の電源を落とし、
請求書をまとめたファイルを手にして、
デニスの前に立ってそれを差し出した。
手を伸ばし彼は受け取ろうとした。
ところが、受け取る寸前にファイルをひらりと翻し、
差し出された手を、ユダラはがっちりと握った。
「俺にはなぁ、デニス。」
「君の人生を巻き込む覚悟があるんだ。」
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【12】
覚悟
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「オーライ!!オーライ!!ストップッッ!!」
バンナムの最北端にある火力発電所に、およそ25名の作業員達が集まった。青い塗装があちこち剥がれた大型トラックが搬入され、軽々と飛び乗って足元を見渡した。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう!事前に話した通り、老朽化に伴ってタービンと発電装置を交換します!バンナムの電力の安定供給のために、力を合わせて3日間でなんとか終わらせよう!重機の用意、タービンの製造、発電装置の製造に関わってくれたバンナムの職人達に心から感謝します!」
拡声器を使って挨拶をすると、集まった男達は腕捲りをして声を出した。
「工程と指揮は僕が取ります!言う事を聞いてくれない人は、尻を蹴りあげる!よろしくお願いします!」
わははは、と場が湧く。
1人の若者が始めた小さな再建活動の輪は、
2年の歳月をかけて、
大きなひとつの輪となりつつあった。
「ジュニア!お前のその足じゃ、痛くも痒くもないぞ!!」
「ビリーおじさん!若かりし頃の悪事を奥様に話した方がちゃんと働いてくれるかい?」
「おーい!!それは勘弁してくれぇ~!!」
笑い声が何度も空高く打ち上げられる。
発電所からの依頼は切実だった。
稼働の燃料費が上昇傾向にある中、
バンナムの住人から徴収する料金は据え置き、
従業員に支払って残る利益はほぼ無かった。
老朽化に伴って大規模な修繕が必要になったにもかかわらず、予算はどこにもなかったのだ。
ジュニアは相談を受け、走り回って支援を呼びかけた。繰り返し話し合い、何とかここまでこじつけた。残暑も消えたこの上ない秋空。
一層気合いが入る。
「危険を伴う作業ばかりです!落下物、重量物の吊り上げ、高所作業。絶対に事故を起こさないように慎重に作業をして欲しい!この3日間で誰も怪我せずに終わることも、目標にしてください!」
職人達も真剣な表情に変わる。
「よし、トラックの積荷を下ろして、作業を開始しよう!!みんな!!よろしくお願いします!!」
バンナムでは、窃盗も強盗も起きない。
逃げる場所なんて、どこにもないからだ。
でも、助け合うこともできなかった。
貧しさを、共有していた。
「よーし、それを吊り上げてここに降ろしてくれ!!」
何かが変わろうとしている気がした。
バンナムは忘れ去られた桃源郷から、
消えることのないものを生み出そうとしている。
「ゆっくり上げてくれ!ゆっくりだ!」
皆の声が飛び交う。
その姿を目の当たりにし、
ようやく理解した。
「なんだ、きっかけを待ってただけだったんだ。」
活気に溢れた職人達の顔は、
運ばれた種がようやく身を置く場所を見つけたような、
美しい光景だった。
バンナムはきっと……。
「……ニア」
「…………ュニア!」
「ジュニア!!おい!!聞こえてるのか!!」
肩を強く叩かれて、現実に引き戻された。
「あ、ごめん!どうかした?」
それは、今日来るはずのないカイトの顔だった。
「カイトさん!」
ジュニアは駆けつけてくれたカイトに礼を言おうと、息を吸い込み笑顔で答え
「ジールさんが倒れた!!早く来い!!」
「えっ?」
「行くぞ!!早く!!車に乗れ!!」
「だって、今日から3日間ここで、発電装置の」
「こっちを見ろ!ジュニア!!」
カイトはジュニアの両肩を強く掴み、状況が理解させることで精一杯だった。
「だめだ!僕はここに残ってやり遂げなければならないことがあるんだ!ジーも、っ、ジーもわかってくれる!」
その時、大きな分厚い手が、
ジュニアの横面を強く張った。
「……っ!!」
「ジュニア、早く行けっ。おれがここを、お前のぶんも、ちゃんと見といてやる。行かないと、お前をゆるさない。」
そこに立っていたのは、目元を真っ赤に腫らし、汗を滲ませ、涙と鼻水を垂れ流しながら、肩を揺らしているダンカーだった。
「お前に一番会いたいのは、ジールだ。早くいけ!!」
ジュニアの背中を屈強な腕が容赦なく突き飛ばす。
「カイト!いそげ!」
カイトに両肩を掴まれたままジュニアは走った。中身の抜け落ちた操り人形のように、車の助手席に押し込まれ、カイトは運転席に飛び乗ると、急発進する。
「倒れているのをエミリが見つけた。彼女が一緒に救急車に乗っている。吐血して気を失っていた。センドール医療センターに向かう。おい!ジュニア!聞いているのか!!」
ジュニアは窓の外を見ていた。
自分が車内にいること、
ジールが倒れたということ、
発電所はダンカーが代わりを務めてくれること、
カイトがスピードを出しすぎていること、
ひとつずつ確認をする。
いつかはこの日が来てしまうこと。
それには抗えないということ。
全てを理解しているつもりでいた。
「カイトさん、どうしよう。耐えられない。」
振りほどこうとすればするほど、
ジールとの日々が網膜に映し出されていく。
窓の外を凝視しているというのに、
濁流のように何も見えない。
込み上げる動揺を抑え込むのに、
発電所の作業工程を確認しようとする。
何ひとつ、覚悟なんてできていなかった。
溢れ出てくるものを抑えようと手で口を塞ぐ。
口を塞いでしまったせいで、
目からとめどなく想いが溢れ出ていく。
「ジュニア、耐えられなくて当然なんだ。」
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「坊主、文字を教えてやろう。」
「もじ?」
「ああ。文字が書けるようになればもっと色んな方法で言葉を伝えられるようになる。それに、これを見てごらん。本だ。本が読めるようになるぞ。」
「わぁ、このおはなしは、おもしろいの?」
「それは、お前が読んで自分で確かめるんだ。今日から1文字ずつ毎日練習するぞ。いいな?」
「うん。ほんよみたい!」
「よし、それじゃ、早速今日の文字は……」
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「着いたぞ!」
センドール医療センターの文字を見つけ、正面玄関のロータリーに車を停めた。
「ジュニア、緊急の窓口が入って左側にある。お前は先に行くんだ。車を置いて俺もすぐに行く。」
「わかった。」
ジュニアは車を降りて正面入口に走る。自動ドアを抜け左を見る。緊急と救急の文字を見つけ走る。
「すみません!ジール、という人がここに運ばれてきてませんか?!」
窓口に座る中年男性に右も左も分からずに聞く。
「え~っと、さっき急患で来た人かな?待って。」
インターホンを手に取り、連絡を取る。はい、はい、ご身内の方かと、はい。インターホンを置くと男性は3階に行ってください、と指を差す。
「はい!ありがとうございます!」
とにかく廊下に飛び出し、指差した方へ向かう。
「ジュニア!ジールさんはどこかわかったか?」
車を置いたカイトが走ってくる。
「3階!3階だって!」
「こっちだ!」
エレベーターの上りのボタンを押すと右側の扉が開いた。乗り込んで『3』を押す。2人の焦る呼吸が個室の中に充満する。扉の上に表示された数字が、のんびりと1、2、と進む。カイトは手を腰に当て苛立ちを見せた。『3』と表示され、扉がゆっくりと開いた。カイトは扉を押し広げるように外に出る。2人の慌ただしい足音が廊下に響き渡った。
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「坊主、これとこれを持ってごらん。」
「これは?なにをするの?」
「よし、思いっきり何回もフライパンを叩け。」
「いいの?こわれない?」
「壊れるぐらい叩いていい。音を鳴らすんだ。」
「えい、えい、」
「そんなんじゃだめだ。皆に聞こえるように鐘を鳴らすんだ。」
「よし、えいっ!!えいっ!!」
「その調子だ。叩きながら、お昼ご飯ですと大きな声で叫んで皆に知らせておいで。」
「うん、やってみるっ!!」
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通路に置かれた灰色の長椅子に、
エミリがポツンと座っていた。
「エミリ!」
カイトが駆け寄る。ジュニアはその後ろで息を切らした。
「カイト、ジュニちゃん……。」
エミリは顔をくしゃくしゃにして、ラベンダーのあしらわれたハンドタオルを顔に押し付け、大声を出して泣いた。
「……容態は……」
首をゆっくりと、横に振った。
「そんな……。」
カイトはその場で膝を着いた。
「いま、緊急生命維持装置を、取り付け、て、くれ、てるの。意識が、戻ったら、呼んでくれる。」
ジュニアは下を向き、
歯を食いしばっていた。
感覚が無くなるほど、
拳は強く握られていた。
もう、ジールは助からない。
何度も何度も自分に解らせようとする。
悔しさが全身を支配する。
「まだ。まだ、なんにもできていないんだ。」
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「こっちへおいで。」
「じー、まってよ。」
「ほら、もうすぐ頂上だ。」
「つかれたよ~。」
「もう着いた。顔を上げてこっちへ来い。」
「わぁーーーー!すごい!!」
「凄いだろ。これがお前の生きている世界だ。」
「じー、おうちはあそこ?」
「ははは、そうだ、よく見つけたな。」
「ちっちゃいねぇ。あそこがバンナモメタル?」
「そうだ。“バンナモメタル”だ。」
「すごいねぇ。」
「よし、下りるのも大変だ。ゆっくり帰ろう。」
「かえったらエミーのところにいってアイスたべる。」
「そうだな。帰ろう。」
「じー。かえろー。」
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心臓の代用ポンプが、
頸動脈に接続され、
残された血液を脳へ運んでいく。
大量に流し込まれる鎮痛剤。
血中の酸素が無くなるまで、
その意識を戻してくれる。
手術室のランプが消え、ドアが開いた。
「準備ができました。こちらへ。」




