第35話 50メートルの全国決勝
同時に飛び出した。
初速は互角。いや、わずかに如月が前だ。千里眼は自分の身体の使い方まで視えるのか、フォームに一切の無駄がない。速い。純粋に、速い。
十メートル。二十メートル。俺の一歩後ろ足が、一つ目の亀裂の手前で、半歩分だけ외に逃げる。如月は――まっすぐ踏んだ。
こつん、と小さな音。如月の足元が、ほんのわずかに沈む。コンマ二秒。
「っ!?」
「言ったろ」
俺は二つ目、三つ目の亀裂を躱しながら、並んだ。
「人間の作為はパターンだ。でも、災害はパターンの外なんだよ。お前の千里眼は完成された地図を視る目だ。俺のは――たった今壊れた道を、引き直す目だ」
四十メートル。完全に並走。台座まで、あと十。
如月が笑った。負け惜しみじゃない、心底楽しそうな顔で。
「――ああ、くそ。いい目だ!」
最後の一歩。二人同時に、腕を伸ばした。
▽
『しゃ、写真判定ぇぇぇ!!』
場内のモニターに、超スロー映像が映し出された。
二本の腕。二つの指先。王冠までの、最後の数センチ。
俺の指が、わずかに――わずかに、先に触れて。
その勢いのまま王冠が台座から転がり落ちて、床でバウンドして、追いすがった如月の額に、ごいんと直撃した。
『優勝ぅぅぅ!! あおば高校ぉぉぉ!! なお如月選手は王冠の直撃を受けた模様ぉぉ!!』
場内、大爆笑と大歓声。額を押さえてうずくまる如月に、俺は手を差し出した。
「悪い。最後、雑だった」
「……っは、はは。いいさ。負けは負けだ。……ちゃんと、指先で負けた。悔いはねえよ。次は勝つけどな」
如月が俺の手を取って立ち上がる。スタンドの大歓声の中、大和と陽菜と詩織が駆け寄ってきて、俺は三人にまとめて揉みくちゃにされた。
「優勝!! 全国優勝だぞ律ぅ!!」
「りっちゃんが走って勝つとか、一番びっくりだよ!!」
「賞金三百万。……ソファ、買えるわね」
「あ」
そうだった。忘れてた。
優先度三位に切り捨てたはずの優勝が、最後に勝手に転がり込んできた。ガチャの神様は、たまにこういう帳尻の合わせ方をする。




