第36話 凱旋、新しいソファ、いつもの部室
島からの帰り、フェリーの甲板で如月と連絡先を交換した。
「試練場、あと五つなんだろ。うちの家の観測網、使えるはずだ。場所の目星がついたら共有する」
「頼んだ。……でも急ぎじゃなくていい。姉さんも『いつか』としか言ってなかったし、俺は当面、学生生活を最適化したい」
「最適化の中身、九割寝ることだろ」
「十割だが?」
「開き直んな」
▽
二学期。あおば高校ダンジョン部の部室には、革張りの最高級三人掛けソファが鎮座していた。遮光カーテンも、加湿器も、詩織専用の茶器棚も、大和の素振りスペースのマットも揃った。全国優勝の賞金の、正しい使い道だ。
壁には、優勝トロフィーと、竜骨の王冠のレプリカ。本物は協会預かりになったが、正直レプリカで十分だ。あれは人の額にぶつかるものだと学んだ。
部員も増えた。あの大会の中継を見た新入部員が五人。教えるのは主に大和と詩織で、陽菜が全体をまとめて、俺は――
「部長。新入生に、例の『最短ルートの見つけ方講座』やってくださいよ」
「今いいところなんだ」
「寝てるだけでしょ!」
ソファの上で、俺は薄目を開けた。窓から秋の西日。誰かの淹れた紅茶の匂い。素振りの風切り音。新入生の笑い声。
――アナタハ、何ニモ求メテイナイ、と姉さんは言った。
違うんだよな。俺はけっこう、欲張りだ。この部室の、この午後が、ずっと続けばいいと思ってる。世界のどこかで厄災が目を覚まし始めてるなら、なおさらだ。守りたい昼寝が、ここにはある。
「……三十分だけ寝る。起きたら講座やる」
「やった! 約束ですよ部長!」
目を閉じる。視界の隅で、相棒が今日も律儀に計測を始めた。
――『RTA』:昼寝開始。目標:いい夢。
任せろ。それだけは、誰にも負けない。
〈第3章・了〉




