第34話 宙ぶらりんの王冠
地上に出ると、夕方だった。
大空洞は避難で無人――かと思いきや、スタンドには観客がほぼ全員戻っていた。協会が「揺れの原因は解消された」と発表した途端、みんな席に帰ってきたらしい。日本人、たくましい。
そして俺たちが王の間の縦穴からぞろぞろ出てきた瞬間、場内は爆発した。
『もっ、戻ってきたぁぁ!! あおば高校、謎の縦穴から生還んんん!!』
実況、元気だな。
王の間には、如月たち聖鐘学園と、協会の管理官が待っていた。そして問題の竜骨の王冠は、金の台座の上に、置かれたままだった。
「……で、この決勝、どう決着つけるんですか」
俺の問いに、管理官が咳払いした。
「協議の結果を伝える。競技は災害対応により中断。規定では『中断時点の進行度』で判定するが――両校とも、王冠に触れていない。進行度は同着。よって」
管理官は、王冠を指した。
「今この場で、最終決着を行う。ルールは単純。この王の間の入口から台座まで、約五十メートル。両校代表一名ずつの、同時スタートの徒競走。先に王冠に触れた側の優勝とする」
「「「徒競走!?」」」
「全国大会の決着がかけっこ!?」陽菜が叫んだ。
「災害対応で競技エリアの大半が損傷した。安全に決着できる形が、これしかない」
場内は逆に大盛り上がりだった。分かりやすさは正義らしい。
聖鐘の代表は、当然のように如月。うちの代表は――全員の視線が、俺に集まった。
「……大和のほうが足速いだろ」
「馬鹿言うな。あいつの目とお前の目の勝負なんだろ、これは。行ってこい」
大和が、俺の背中を叩いた。
▽
スタートラインに、如月と並んだ。
「よう。預けてた勝負だ」
「五十メートルの徒競走が、か」
「五十メートルもあれば十分だろ。……お前の線と、俺の千里眼。最短を視る目同士の、最短の勝負だ」
如月の目が、すっと細くなった。冗談の気配が消える。
「言っとくが、俺は本気だ。お前が下で島を救ってる間、俺は上で、自分の目の使い道を考えてた。観測して、記録して、報告する。うちの家系の目は、ずっとそれだけだった。……けど、お前は目で、道を作ってた。俺は、それが」
如月は言葉を切って、前を向いた。
「――羨ましかったんだよ。だから、せめて速さでは負けたくない」
「……そうかよ」
俺も前を向いた。五十メートル先の王冠。RTAの線が、床の上に一本、まっすぐ引かれる。
でも俺には視えていた。まっすぐの床の、三箇所。災害の揺れで生まれたばかりの、髪の毛ほどの亀裂。踏むとコンマ数秒、確実に沈む脆い箇所が。
線を、描き直す。まっすぐじゃない、三回だけ小さく揺れる、俺だけの最短を。
『両者、位置についてぇ……』
場内が静まり返る。
『よーい――』
号砲。




