第31話 枕返しの大作戦
「状況を整理する」
俺は草むらに膝をついて、地面に図を描いた。悔しいが、切り替えは速いほうだ。RTAは執着した瞬間に記録が死ぬ。
「目標は寝台まで枕を届けること。だが悪夢の群れは『枕を探して』徘徊してる。つまり枕を持ってる俺は、群れにとって最優先の追跡対象になる」
「囮と本命を分ける、ってことね」詩織が図に線を足した。「枕を持った律が動けば、群れは律に集中する。その隙に別動隊が道を作る」
「逆だ。俺が囮になって、枕は別の奴が運ぶ――と言いたいところだが、接続点と同じで、たぶん俺が持ってないと寝台の結界を越えられない。鍵だからな」
「じゃあ、りっちゃんが枕持って本命で、あたしたちが囮?」
「それも違う。囮が食われたら意味がない。……全員で本命、全員で囮だ。役割を固定しない。線を、走りながら描き換え続ける」
大和がにやりとした。
「つまり、いつものやつだな!」
「いつものやつだ。ただし規模は過去最大。……あと、開幕に切り札を切る。石、全部だ」
俺は残りのガチャ石を、一息に注ぎ込んだ。天井到達。確定演出。夢の空に、虹色の渦が巻く。
――SSR『おやすみの子守歌』を獲得しました。
「……ガチャの神様、完全にこっちの事情を分かってて出してきてるだろ」
「ありがたいじゃない。効果は?」
「『範囲内の敵性存在の動きを緩慢にする。眠気を誘う音色』。……悪夢に眠気が効くのかは、知らん。試すしかない」
▽
作戦開始。
オルゴールの蓋を開けると、澄んだ音色が草原に流れた。効果は劇的だった。近くの悪夢たちの動きが、明らかに鈍る。とろん、とした足取りになる。
「効いてる! 悪夢も眠いんだ!」
「夢の中の住人だからでしょうね!」
大和が先頭で群れの薄い箇所をこじ開け、詩織が三秒先の湧きを読み上げ、陽菜が全員の消耗を癒やし続ける。俺は枕を抱えて、四人ぶんの線を描き換え続けた。右へ、左へ、鈍った群れの隙間を縫って、二キロの草原を駆ける。
残り四百メートル。端末が震えた。如月からだ。
『周期急変! 覚醒まで、推定十分を切った! 上も揺れが酷い! 急げ!』
「十分!」
寝台を囲む最後の防衛線――ひときわ巨大な悪夢が三体、立ちはだかった。オルゴールの音色でも鈍らない、姉さんの不安の核みたいな、真っ黒な巨体。
――警告:大型形成体。推奨:回避。回避ルート:なし。
「回避ルートなしなら――」
俺は枕を、陽菜に投げた。
「え!?」
「結界は俺が触れて開ける! 開けた瞬間、陽菜が枕を置け! 大和、詩織、三十秒だけ三体を引きつけろ! 死ぬな!」
「「了解!!」」
最後の三十秒が、始まった。




