第29話 王の間の床の下
尖塔の内部は螺旋階段だった。競技用に整備されたトラップを、詩織の解析で片っ端から無効化しながら駆け上がる。揺れは断続的に続いていて、階段の壁に亀裂が走り始めていた。
頂上、王の間。金の台座の上に、竜骨の王冠が鎮座していた。優勝の証。三百万円。最高級ソファ。
その真下の床に、俺には視えていた。淡く光る、円形の紋様が。
――接続点:検出。鍵の使用で開放可能。
「王冠、どうする? 一応取っとく?」大和が台座に手を伸ばしかけた。
「触るな。それ多分、取ると帰還判定でゲートが開いて競技終了扱いになる。今この空洞の管理権限は競技システムが握ってる。終了すると照明も含めて色々止まるかもしれん。避難の邪魔になる」
「細かいとこまで考えてんなあ!」
「RTAは仕様の把握が九割だ」
俺は紋様の中央に立った。スキルに意識を沈める。ガチャとRTA、二つ同時に。妹のときに一度やったから、感覚は覚えている。鍵を回すのは、二つで一つだ。
――鍵ヲ確認。開廊シマス。
床の紋様が光り、円形にすっと消えた。下に、闇へ落ちる縦穴と、壁面に刻まれた螺旋の降り階段が現れる。冷たい風が吹き上げてきた。深い。RTAの計測が、深度表示を諦めてエラーを吐いた。
▽
「よし、行くぞ――」
「待ちなさい」
背後から声。振り向くと、階段を上がってきたのは如月と、聖鐘のメンバー、それに協会の腕章をつけた男が二人。
「協会の危機管理官だ。如月くんの報告は受けた。観客の避難は開始した。……で、君たちは今、何を開けた」
「地下への道です。下で寝てる管理者を、寝かしつけてきます」
「寝かしつけ……? 待ちたまえ、未確認領域への突入は許可できない。専門チームの到着を――」
「四十分後に完全覚醒するのに、チームは何分で来るんですか」
管理官が詰まった。如月が横から、疲れたような顔で言った。
「危機管理官どの。こいつら、これで前科一犯です。深層接続、四人で解決した実績がある。……正直、今この島で一番の専門チームは、こいつらですよ」
「し、しかし前例が」
「前例なら俺が今作ってきました」
俺は縦穴に足をかけた。もう問答の時間も惜しい。
「如月。上を頼む。避難誘導と、揺れの周期の監視。周期が急変したら、端末に知らせてくれ」
「……ああ、分かった。回線は繋いどく。おい、遊佐」
「なんだ」
「勝負は預けだ。王冠、どっちも取ってない。……戻ってこい。決着がつかないままなのは、気持ち悪い」
「善処する」
四人で、闇の階段を降り始めた。




