第28話 競技と災害の分岐点
「律、どうする!」
大和の声に、俺は一瞬だけ目を閉じた。
視界の中で、線が無数に枝分かれしている。優勝だけ狙う線。寝かしつけだけ狙う線。両方狙う線。観客の避難を優先する線。どれも一長一短で、どれも確実じゃない。
RTAで大事なのは、迷う時間そのものがロスだと知っていることだ。
「方針変更。優先度一位、観客の安全。二位、寝かしつけ。三位、優勝。この順で切り捨てる」
「賞金が最初に死んだ!」
「ソファは諦めた。走るぞ」
▽
王の間の尖塔へ最短で向かいながら、俺は考えを整理して喋った。
「揺れの本体は姉さんの覚醒予兆だ。完全に起きたら空洞ごと崩れる。でも協会はまだ『ちょっと大きい地震』程度の認識のはずだ。避難発令は遅れる」
「なら、避難を先に始めさせないと」と陽菜。
「そこで詩織。片眼鏡で運営本部の位置は分かるか」
「スタンド最上段、中継ブースの隣。……でも、うちらが『地下に古代の管理者が眠ってて起きかけてます』って言って、信じると思う?」
「思わない。だから、信じさせられる奴に言わせる」
「誰よ」
「五十年この島を観測してきた家の跡取り」
俺は空洞の反対側、吊り橋の上の白い制服を見た。如月冬夜も、こっちを見ていた。
直接戦闘は禁止。でも、会話は禁止されてない。俺は大きく息を吸って、空洞の反響を使って叫んだ。
「如月ぃ! 視えてんだろ、下のやつ! 覚醒予兆だ! お前んとこの観測記録と照合しろ!」
場内がざわめいた。実況が『な、なにやら両校が接触!?』と騒いでいる。
如月は数秒固まって――それから、腕の端末を叩き始めた。千里眼で視た情報と、家の記録の照合。奴の顔色が、遠目にも分かるくらい変わった。
吊り橋の上から、如月が叫び返してきた。
「――照合した! 五十年前の《大隆起》直前の波形と一致! 周期から逆算して、完全覚醒まで、最短四十分!」
「協会に言え! お前の家の名前で! 観客の避難、今すぐだ!」
「言う! ……おい遊佐! お前はどうする気だ!」
「寝かしつけてくる!」
「……はぁ!? おい、待て、それどういう――」
説明してる時間はない。俺たちは尖塔の登り口に取り付いた。




