第27話 三本のルートと、置き土産
スタート直後、聖鐘学園は綺麗に二手に分かれた。
三人が地底湖ルート、二人が吊り橋ルート。如月は吊り橋側だ。
「向こう、分散したね! どうする?」
「うちは分散しない。四人で崖ルート」
「崖!? 候補で一番険しいって言ってなかった!?」
「険しいから誰も整備してない。整備されてないってことは、運営の仕掛けたトラップも薄い。競技ダンジョンで一番怖いのはモンスターじゃなくて、人間の作為だ」
走りながら、俺は視界の線を読み続けた。崖ルートは手掛かりの少ない岩壁登りが核心部で、普通のチームなら選ばない。でもうちには大和の馬鹿力と、詩織の解析と、陽菜の回復と、そして――
「ガチャ、朝のログインボーナスぶん、回しとくか」
走りながら単発を引く。虹は出ない。出たのは『R・岩に刺さる杭×20』。
「地味!」
「地味が一番うまい」
▽
崖の取り付きに着いた。高低差、約四十メートル。
「大和、杭を頼む。線の通りに打ってくれ」
「おうよ!」
RTAの線が示す最適な支点に、大和が杭を打ち込んでいく。詩織が岩質を解析して「そこは脆い、握り拳一つ右」と修正を入れ、陽菜が全員に身体強化系の補助祈祷を回す。
この二ヶ月で、うちのパーティは変わった。俺が線を引いて、三人がその線をもっといい線に描き直す。RTAは俺一人のスキルじゃなくて、もう四人のスキルだ。
登攀タイム、十一分。想定より四分速い。
「崖の上、抜けた!」
視界が開ける。王の間の尖塔まで、直線距離であと六百。
――そのとき、視界の端で地底湖ルートの光点が異常な動きをした。
「詩織、聖鐘の湖側、見えるか」
「片眼鏡で確認する。……止まってる。三人とも湖岸で。何かと交戦……じゃない、あれは」
詩織の声が硬くなった。
「救助してる。湖に、運営の整備員が落ちてる。ボートが転覆してる」
競技中のエリアに整備員? おかしい。本番中に人が残ってるはずがない。
「事故じゃないな。……揺れだ」
言った瞬間、足元が、ぐらりと来た。
空洞全体が、低くうなった。観客席から悲鳴が上がる。天井から砂がぱらぱらと落ちてくる。
『た、ただいまの揺れは……きょ、競技は続行です! 観客の皆様は落ち着いて――』
実況の声が上ずっていた。視界の隅で、深部の脈動の周期が、目に見えて速くなっていた。
――《計測不能》空洞:活動レベル上昇。覚醒予兆。
姉さん、起きかけてる。しかも、想定より早い。




