第21話 招待状は、面倒の匂いがする
深層接続の一件から一ヶ月。俺の生活は、ようやく理想形に戻っていた。
放課後、部室、枕、昼寝。ときどき陽菜が焼いてくるクッキー。詩織が淹れる異様にうまい紅茶。大和の素振りの風切り音は、慣れると環境音として悪くない。完璧だ。完璧だった。
その完璧を、一通の封筒が壊しにきた。
「全国学園ダンジョン攻略大会、招待状ですって!」
顧問が震える手で読み上げた。金の縁取り、協会の紋章入り。中身を要約するとこうだ。
『深層接続事案を解決した貴部の功績を高く評価し、全国大会・本戦への特別招待枠を進呈する』
「本戦って、予選免除ってことですか」と詩織。
「そうだ! 全国の強豪校がしのぎを削る、年に一度の祭典! うちみたいな弱小が本戦からなんて、前代未聞だぞ!」
顧問は泣いていた。この人はよく泣く。
大和は既に拳を突き上げていた。「全国! 勇者への登竜門!」
陽菜も目を輝かせている。「テレビ中継もあるやつだよね!? すごいすごい!」
俺は招待状の隅の、小さな文字を読んでいた。開催期間、五日間。会場、遠方。つまり――遠征。移動。人混み。注目。取材。
昼寝が、死ぬ。
「不参加で」
「「「えええええ!?」」」
「だって面倒だし。うちはもう存続決まってるし、賞金も別に――」
「賞金、三百万円」
詩織が招待状の裏を無言で見せてきた。俺は考えた。三百万。部室のソファを最高級のやつに換えられる。遮光カーテンも、加湿器も、なんなら仮眠用の二段ベッドも。
「……検討します」
「即落ちしたわね」
▽
その夜、夢を見た。
久しぶりの、あの声だった。ただし今回は、切羽詰まった響きはない。むしろ、寝ぼけたような、のんびりした声。
――キコエル? 鍵ノ人。
「聞こえてるよ、管理者さん。よく眠れてるか」
――オカゲサマデ。デモ、一ツ、教エテオキタイコトガアッテ。
「なんだ」
――大会ノ会場ニナル島。アソコノ地下、ワタシノ《姉》ガ眠ッテル。
目が覚めた。窓の外はまだ暗い。
姉。試練場の管理者の、姉。つまり、もっと古くて、もっと深い何かが、大会会場の真下にいる。
「……偶然、なわけないよな」
特別招待。前代未聞の本戦枠。深層接続を解決した俺たちを、名指しで呼ぶ大会。
誰かが、俺のスキルを――鍵を、あの島に呼ぼうとしている。
面倒の匂いがぷんぷんする。でも、放置してまた「三十日後に溢れます」とか言われるほうが、もっと面倒だ。
「はぁ……行くか」
三百万と、世界の安眠のために。




