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異世界バイオハザード――2144年の米軍特殊部隊員は、骸と死臭の廃都市・東京で特殊核の根源となる異世界の扉を開ける  作者: 新詳カサト


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第9話 守神

レーメイ山脈麓――スンズ村。


吹雪は弱まっていた。


だが村を包む空気には、どこか“静かすぎる”不気味さがあった。


ウィリアム・クラークは、村中央に建つ石造神殿《IZANAGI》の前に立っている。


黒い外套の裾を風が揺らし、右手の草薙が低く脈動していた。


神殿の入口には、幾重にも古い護符が貼られている。


日本語。


混合文字。


そして新人類特有の幾何学紋様。


「……歓迎ムードじゃないな」


『当然です』


草薙が淡々と返す。


『IZANAGIは“守護装置”です』


『本来の役割は環境維持と生命保護』


『外敵へは極めて攻撃的ですよ』


「優しいのか怖いのかハッキリしろ」


ウィリアムはため息を吐き、神殿内部へ足を踏み入れた。


暗い。


冷たい。


そして――妙に“地球らしい”。


肺が楽だった。


重力も軽すぎず重すぎず、まるで東京にいた頃の感覚に近い。


「……こいつがテラフォーミング・パルスか」


神殿の最深部。


そこには巨大な“槍”が突き立っていた。


JWT A-X Ex《IZANAGI》。


天の逆鉾を思わせる黒銀の長槍。


槍身の各所を青白いオーズ回路が流れ、先端では淡い光が脈動している。


その周囲だけ空気が澄み切っていた。


草薙が静かに解析を行う。


《環境正常化フィールド確認》


《重力・酸素・放射線環境を地球基準へ再構築》


《周辺新人類生命維持に使用中》


「……本当に“守り神”なんだな」


ウィリアムはゆっくり歩み寄る。


だが。


その瞬間だった。


《未登録個体を確認》


《脅威判定開始》


神殿全体が震動した。


床面が展開。


無数の青い光輪が空中へ浮かび上がる。


「――ッ!」


『下がってくださいウィリアム!!』


遅い。


次の瞬間。


神殿内部の空気そのものが“圧縮”された。


轟音。


見えない衝撃波がウィリアムを真正面から吹き飛ばす。


「ガァッ!?」


背中から石壁へ激突。


肋骨が軋み、肺から血が逆流する。


さらに。


空中へ展開した光輪から、青白い槍状エネルギーが一斉射出された。


「チィッ!!」


ウィリアムは転がる。


石畳が貫通され、溶解する。


一本でも直撃すれば終わりだった。


『IZANAGI防衛設備起動!!』


『環境維持モードから戦闘モードへ移行しています!』


「なんで救助用装備がこんな物騒なんだよ!!」


『日本製ですので』


「納得したくねぇ!!」


さらに光輪が展開。


今度は重力場が捻じ曲がる。


ウィリアムの身体が床へ叩きつけられた。


「ぐっ……!」


骨が悲鳴を上げる。


MAGNUM形態へ変形しようとした草薙を、見えない力場が強制停止させた。


《KUSANAGI出力制限》


《IZANAGI優先権限を確認》


「はぁ!?」


草薙が珍しく焦った声を出す。


『不味いです!』


『IZANAGI側が上位権限を持っています!』


「つまり!?」


『今の私は“出力制限された拳銃”です!』


「最悪だろ!!」


その瞬間。


神殿最奥。


IZANAGIの槍身が、青白く発光した。


《排除》


たった一言。


だがその声には、“感情”があった。


次の瞬間。


ウィリアムの視界が吹き飛んだ。


――――。


気づけば。


彼は木造の天井を見上げていた。


「……ッ」


全身が痛い。


包帯。


薬草の匂い。


暖炉の熱。


「生きてる……?」


「よかった……!」


幼い少女の声。


振り向くと、白髪の少女が椅子から立ち上がった。


十歳くらい。


青い瞳。


スンズ村の子供たちと同じ、新人類の特徴。


少女は安心したように胸を撫で下ろす。


「三日も起きなかったから……」


「三日!?」


ウィリアムは飛び起きかけ、激痛で再び倒れた。


「ぐあぁぁぁっ……!」


「だ、大丈夫!?」


少女は慌てて薬瓶を持ってくる。


ウィリアムは顔をしかめながら天井を見る。


「"Great. Got my ass kicked by a magic spear and slept for three days."(最高だ。魔法の槍にぶっ飛ばされて三日寝込んだってわけか)」


草薙が脳内で呟く。


『記録更新ですね』


「嬉しくねぇ……」


少女は首を傾げた。


「……それ、誰と喋ってるの?」


「銃」


「え?」


「気にするな。俺もまだ整理できてない」


少女は困った顔をした後、小さく頭を下げた。


「……私はティナ」


「スンズ村の族長の娘です」


ウィリアムは目を細める。


「族長の娘?」


ティナは頷いた。


そして。


少しだけ悲しそうな顔をした。


「本当は……姉が“守神様”の主だったの」


「姉?」


「ユーティ」


その名前を聞いた瞬間。


神殿で感じた“違和感”が繋がる。


草薙が静かに解析結果を表示した。


《JWT A-X Ex “IZANAGI”》


《現適合者:ユーティ・スンズ》


《状態:神経過負荷》


《意識活動:停止》


ウィリアムの表情が変わる。


「……まさか」


ティナは俯いた。


「二年前、姉はイザナギ様と契約したの」


「村を守るために」


「でも……」


彼女の声が震える。


「イザナギ様の中にあった“いっぱいの記憶”に、姉の頭が耐えられなかった」


「それからずっと……眠ったまま」


暖炉の音だけが響く。


ウィリアムは静かに目を閉じた。


草薙。


AMATERASU。


JWT。


どれも同じだ。


力を与える代わりに、人間を壊していく。


ティナが小さく呟く。


「でも、イザナギ様は悪くないの」


「ずっと村を守ってくれてるから」


窓の外。


吹雪の中でも、スンズ村だけは穏やかな空気に包まれていた。


それは確かに、“守護”だった。


ウィリアムは深く息を吐く。


「……なるほどな」


彼はベッド脇に立て掛けられた草薙を見る。


「"Looks like every god in this world comes with a body count."(どうやらこの世界の神様は、どいつも代償付きらしいな)」

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