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異世界バイオハザード――2144年の米軍特殊部隊員は、骸と死臭の廃都市・東京で特殊核の根源となる異世界の扉を開ける  作者: 新詳カサト


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第7話 決着

ゼウス超山脈は、すでに“山”としての形を失いつつあった。

空は裂け。

大地は崩れ。

紫色の雲海は、EATERの放つ重力じみた圧力によって巨大な渦を形成している。

世界そのものが悲鳴を上げていた。

その中心で。

ウィリアム・クラークは、黄金のMAGNUM――PHASE-2《草薙》を構えていた。

呼吸は荒い。

視界はノイズまみれ。

新人類化によって強化された細胞が、逆に彼の神経を焼き始めている。

《細胞活性化率:62%》

《神経負荷:危険域》

《継戦時間:残り推定7分》

「……ッ、上等だ」

彼は血を吐き捨てた。

「"Seven minutes is still longer than most of my relationships."(7分もあるなら十分だ。俺の恋愛より長持ちしてる)」

『その情報に興味はありません』

「冷てぇな、お前」

空。

黒いゲートの向こう側で、EATERが脈動する。

巨大な“眼”がゆっくりと開き、その中心に銀河じみた光が集束していく。

草薙の声が低くなる。

『来ます』

次の瞬間。

世界が消えた。

黒い光。

否、“無”そのものが放たれた。

光でも熱でもない。

存在を削除する終末の奔流。

ウィリアムは歯を食いしばり、MAGNUMを真正面へ向けた。

「草薙!!」

『了解』

《PHASE-2 最終機構解放》

《AMATERASU 強制同期開始》

疑似太陽が咆哮した。

山頂上空に浮かぶ黄金の恒星が、一気に収縮する。

そして。

一本の“弾丸”へ変換された。

MAGNUMのシリンダーへ、疑似太陽そのものが装填される。

「……ハハ」

ウィリアムは乾いた笑いを漏らす。

握っているだけで腕が焼ける。

存在が崩壊しそうになる。

だが。

不思議と恐怖はなかった。

「"If this thing blows my arm off, I'm filing a complaint."(もしこれで腕吹っ飛んだら苦情入れてやるからな)」

『受理には三百年ほどかかります』

「ブラック企業どころじゃねぇ……!」

EATERの終末光が迫る。

空間が剥離し。

山脈が蒸発し。

世界法則そのものが崩壊していく。

だが。

その中心で。

ウィリアムは引き金を引いた。

――――――――――――――――。

音は、なかった。

それほどのエネルギーだった。

放たれた黄金弾頭は、一直線に世界を貫いた。

EATERの終末光と衝突。

瞬間。

空が割れた。

衝撃波が星規模で拡散し、カイル大陸全域の雲を吹き飛ばす。

地平線の彼方まで黄金の閃光が走り、夜空が昼へ変わった。

EATERが、初めて絶叫する。

数千の眼球が砕け。

無数の口が崩壊し。

黒い腕が、内側から黄金に侵食されていく。

「押し切れぇぇぇぇッ!!」

ウィリアムの絶叫。

MAGNUMが咆哮する。

AMATERASUが燃える。

そして。

黄金の奔流は、ついにEATER本体へ到達した。

黒いゲートの中心。

巨大な眼球へ、直撃。

その瞬間。

EATERの“瞳”に、初めて感情が浮かんだ。

恐怖。

『――なぜ』

脳内へ直接声が響く。

『なぜ、抗う』

『すべては、喰われる運命だ』

ウィリアムは笑った。

ボロボロの顔で。

血だらけのまま。

それでも兵士らしく。

「"Because screw you, that's why."(うるせぇ。気に食わねぇからだ)」

黄金が爆ぜた。

EATERの瞳に巨大な亀裂が走る。

黒いゲート全体が崩壊を始めた。

空間が閉じる。

終末が、押し返される。

『―――――』

最後に響いたのは、悲鳴だったのか。

あるいは笑い声だったのか。

誰にもわからない。

次の瞬間。

EATERは、消滅した。

静寂。

あれほど荒れ狂っていた空が、ゆっくりと静まり返っていく。

崩壊しかけていた山脈も、AMATERASUの残光によって辛うじて形を保っていた。

ウィリアムは膝から崩れ落ちる。

MAGNUMは、再びPHASE-1のハンドガン形態へ戻っていた。

「……終わった、のか」

『いえ』

草薙の声は静かだった。

『“撃退”です』

「……は?」

『EATERは対文明捕食存在』

『完全消滅には至っていません』

『いずれ、再び現れます』

ウィリアムは顔をしかめた。

「勘弁してくれよ……」

草薙は続ける。

『ですが時間は稼げました』

『数年。あるいは数十年』

『その間に、あなたは“残りのJWT”を集めなければなりません』

ウィリアムは空を見上げた。

裂けた空。

静まり返った雲海。

そして、まだ脈動を続ける疑似太陽。

「……つまり」

「この世界には、まだ俺みたいなブラック社員が必要ってわけか」

『はい』

『そしてあなたは、すでに“継承者”です』

草薙の光が淡く脈動する。

『この世界には、三つの脅威があります』

『一つ。“EATER”のような対文明捕食存在』

『二つ。オーズを利用し、世界そのものを支配しようとする旧人類国家群』

『三つ――』

一瞬、草薙が沈黙する。

『JWTシリーズそのものです』

ウィリアムの眉が動く。

「……どういう意味だ」

『JWTは、対終末兵器です』

『ですが同時に、“終末そのもの”でもあります』

『使い続ければ、使用者は新人類化を超え、“人ではない何か”へ変貌します』

風が吹く。

ゼウス超山脈を越えて。

遥か彼方の世界から。

草薙は静かに告げた。

『あなたが今やるべきことは三つ』

『残されたJWTを回収すること』

『EATER再来に備えること』

『そして――』

黄金の光が、ウィリアムの顔を照らす。

『あなた自身が、“怪物”になる前に答えを見つけることです』

長い沈黙。

やがて。

ウィリアムは、疲れ切った顔で笑った。

「"Great. Save two worlds and keep my sanity. Easy job."(最高だ。二つの世界を救って、ついでに正気も保てってか。簡単なお仕事だな)」

草薙が淡々と返す。

『離職は推奨しません』

「だろうな……」

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