第4話 最強中ボス ドントルディ
ゼウス超山脈、標高1000メートル地点。
そこは、切り立った断崖に張り付くように設置された、旧調査隊の緊急避難用プラットフォームだった。錆びついた鉄骨が強風に煽られ、断末魔のような悲鳴を上げている。
ウィリアムは、肩で激しく息をしながらプラットフォームの端に膝をついた。
「……クソ、空気が薄い上に、この放射線だ。喉が焼ける」
だが、休息は許されなかった。
プラットフォームの奥、分厚い防爆扉が内側から凄まじい力で叩き折られた。ひしゃげた鋼鉄が吹き飛び、闇の中から「それ」が姿を現す。
「……おいおい、地元のボディビルダーにしちゃ、少々デカすぎないか?」
最強中ボス:ドントルディ。
かつては調査隊の護衛を務めた強化兵だったのか、あるいはこの山の主たる巨猿だったのか。今やその姿は、バイオハザードの『タイラント』を彷彿とさせる異形の巨躯へと変貌していた。
身長3メートルを超える剥き出しの筋肉。皮膚の下では、血管を模した赤黒い寄生生物の触手が、ミミズのようにのたうっている。最大の特徴は、右腕が巨大な「肉の杭」のように変質し、そこからオーズのエネルギーが黒い煙となって漏れ出していることだ。
「グ……ォ、……ア、……」
ドントルディの喉から、潰れた機械のような音が漏れる。次の瞬間、巨躯からは想像もつかない速度で踏み込んできた。
「――っ!」
ウィリアムは咄嗟に横へ転がった。
直後、彼がいた場所の鉄板が、ドントルディの右腕によって紙細工のように貫かれる。
「"Stay cool, William. It's just a big, ugly target."(落ち着けウィリアム。ただのデカくて醜い標的だ)」
ウィリアムは立ち上がりざま、JTX(草薙)のトリガーを三連射した。
青白い光弾がドントルディの胸部に着弾し、肉を抉る。だが、怪物は怯むどころか、傷口から噴き出した寄生触手が瞬時に肉を編み上げ、再生を開始した。
「再生速度が『草薙』の火力を上回ってるだと……!?」
ドントルディが咆哮し、巨大な左手でウィリアムを薙ぎ払う。
防弾プレートが砕ける衝撃。ウィリアムの身体はプラットフォームの端まで吹き飛び、背中を鉄柵に叩きつけられた。眼下は1000メートルの虚無。
「ガハッ……! クソ、肋骨が……」
ドントルディが肉の杭(右腕)を高く振り上げる。とどめの一撃だ。
ウィリアムは、脳内にインストールされた『JWT辞書』の深層から、一つの情報を引き出した。
『――JTX k-0.0:過負荷出力申請。使用者の神経負荷を代償に、オーズの全エネルギーを一撃に変換します』
「やってくれ、草薙。俺の脳が焼き切れる前に、こいつを地獄へ送り返せ!」
ウィリアムの右腕に食い込んだ青い光の糸が、真っ赤に変色する。
視界が血の色に染まり、激痛が脳を蹂躙する。だが同時に、JTXの銃口には、太陽の欠片のような高密度の光球が形成された。
「あばよ、筋肉ダルマ!」
ドントルディの杭が振り下ろされるのと、ウィリアムがトリガーを引くのは同時だった。
――カアァァァァァンッ!!
プラットフォーム全体が揺れ、夜の山脈が一瞬だけ昼間のように照らされる。
放たれた一撃はドントルディの右腕を粉砕し、そのまま胸の中央にある「寄生生物の核」を貫通した。
「ガ……ギ、ア……ッ……」
ドントルディの巨躯が内側から青い炎に包まれ、崩れ落ちる。
怪物は最後の力でウィリアムを道連れにしようと手を伸ばしたが、そのまま力尽き、霧散しながら1000メートルの奈落へと消えていった。
「……ハ、ァ……。……"Bad date. Worst ever."(最悪の、デートだ……)」
ウィリアムは銃を握ったまま、血を吐き捨てて横たわった。
右腕の感覚はない。だが、その視線の先――雲を抜けた山頂には、旧調査隊の基地が、月明かりを反射して静かに輝いていた。
そこには、この山さえも焼き尽くす『天照』が待っている。
【戦闘結果】
中ボス:ドントルディ 撃破
ウィリアムの状態: 右腕神経損傷(中程度)、肋骨骨折、JTXエネルギー残量:12%
【次なる目標】
山頂施設へ突入し、JWT A-0.8Ex『天照』 を確保せよ。




