表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】聖女なめんじゃねぇ!!!  作者: 月宮 かすみ
第2章:聖女解放戦線編
57/61

第27話:証言台に立つ者たち

 広場を離れたあと、私たちは旅籠に戻ってすぐ眠れたわけじゃなかった。


 机の上には、押収文書の写し、神官隊長の供述書き、療院から回してもらった記録が並んでいる。イリーナの発熱時間、喉元に浮いた紋の形、癒しで一時的に落ち着いても消えなかったこと。全部、ゆうりがきっちり並べ直していた。


「これ、向こうの言い方だと“偶然の体調不良”で押し切ろうとするわよね」


 私が紙を覗き込むと、ゆうりは顔を上げなかった。


「するでしょうね。だから順番が大事なの。文書を先に出して、回収部隊の存在を固めて、そのあとミレナの証言。最後にイリーナの記録で“救出後も切れてない”を押し込む」


「面倒くさい」


「面倒でもやるの。今日はそういう勝ち方の日」


 ラグナが窓辺で腕を組む。


「王子側の使節も、夜のうちに聖都へ入った。外交の形を取れるなら、向こうも完全な内輪裁きにはできん」


「レオニール王子も来るの?」


 ミレナが小さく問う。


「来る」


 私が答える前に、ラグナが頷いた。


「王都での公開聴取を受けて、正式抗議と証拠提出を行うらしい」


 それを聞いて、少しだけ胸の奥が軽くなった。


 こっちだけで殴り込みに来たわけじゃない。王都で拾った声が、ちゃんとここまで届いてる。



 ***



 翌日の広場も、やっぱり白かった。


 昨日と同じ壇。昨日と同じ大司教。昨日と同じ、静かすぎる観衆。違うのは、壇の片側にアストレア王国の旗が立っていることだった。


 その前に、レオニール王子がいる。


「よく来たね」


 私が小声で言うと、王子はわずかに口元を緩めた。


「来るべき場ですから」


 柔らかい声だった。でも、その目は笑っていない。


 大司教が壇上から見下ろす。


「異端の聖女に続き、他国の王子までお見えですか。白冠連盟の慈悲深さに、感謝していただきたいものです」


「違います」


 レオニール王子は静かに返した。


「感謝ではなく、抗議に参りました」


 広場がざわつく。


「保護下に置かれた子どもたちへの武装侵入に回収部隊の派遣。さらに救出後も続いた干渉。アストレア王国は、これらを看過しません」


 大司教は眉ひとつ動かさない。


「誤解でしょう。混乱した子どもと、感情的な聖女の言い分だけでは――」


「それだけではありません」


 今度は、ゆうりが前へ出た。


 抱えていた紙束を、壇の補助台に置く。


「押収文書、回収部隊の携行札、候補生管理記録、移送順。あと、療院で取った反応記録」


 ゆうりの声は平坦だった。だから余計に刺さる。


「候補生の欄に、名前はない。番号と適性と移送先だけ。人間の記録っていうより、品目表よね」


 ざわめきが少し大きくなる。


 大司教の横で、セラフィナだけが静かだった。


「管理とは、秩序の一形態です」


 彼女はそう言った。


「感傷で曇らせるものではありません」


「感傷じゃない」


 私より先に、ミレナが声を出した。


 小さい声だった。けど、はっきり聞こえた。


 昨日までの彼女なら、広場の真ん中では飲み込んだかもしれない。それでも今日は、一歩前に出た。


「痛いのに、痛いって言えないようにされるのは、秩序じゃないです」


 セラフィナの目が、初めてミレナに向く。


 ミレナは喉元に手を添えたまま続けた。


「声を出したら、ふさわしくないって運ばれる。熱を出した子は、祈りが足りないって言われる。泣くと弱いって言われる。逃げたら裏切りだって」


 一度だけ息が詰まる。


 でも、止まらなかった。


「それを、わたしは見ました」


 大司教が口を開く。


「見た、という曖昧な証言だけでは――」


「じゃあ、これも曖昧ですか」


 ゆうりが紙を一枚抜いた。


「イリーナ救出後、発熱。喉元に祈り印反応。回収部隊襲撃はその直後。記録時刻も、文書の発令時刻も揃ってる」


 王子が続ける。


「つまり、保護後もなお干渉が続いていたということです。白冠連盟が“もう手を離れた子ども”にまで届いていた証拠になります」


 しん、と空気が変わった。


 昨日までの“聖都の裁き”じゃない。


 これは、向こうの白い舞台の上で、こっちが順番に足場を剥がしてる音だ。


 大司教はそこでようやく、ほんの少しだけ目を細めた。


「その子自身は、ここにいないのですね」


「当たり前でしょ」


 私は即座に返した。


「また苦しむかもしれない子を、あんたらの前に引っ張り出すわけないじゃん」


 セラフィナが静かに私を見る。


「ならば、あなた方は都合のいい断片だけを持ち込んだことになります」


「違います」


 レオニール王子の声が、今度は少しだけ強くなった。


「だからこそ、本人を再び晒さずとも成立する記録と証言を持ってきたのです。子どもを守るために隠すことと、罪を隠すことを同じにしないでください」


 広場の端で、誰かが息を呑んだ。


 いいぞ、と思った。


 その言い方はきれいだし、こっちはこっちでかなり効く。


 大司教は沈黙したまま、壇の端に置かれた記録へ視線を落とした。怒鳴らない。否定も急がない。そこが逆に気味悪い。


「……興味深い資料です」


 やっと出た言葉が、それだった。


「では、白冠連盟としても、神意のもとで真偽を改めて確かめる必要がありますね」


 その言い方に、背中が少し冷えた。


 神意。嫌な言葉だ。


 昨日、足元で感じたあの震えが、頭の奥でよみがえる。


 ゆうりも同じことを思ったらしい。紙束を抱えたまま、ほんのわずかに眉を寄せた。


「また何かやる気ね」


「顔に出てる?」


「少し」


 ラグナがぼそりと言う。


「上から見せる顔が崩れ始めた。次は下を動かすだろう」


 壇の上で、大司教が両手を広げる。


「本日の聖裁は、引き続き執り行います。秩序を疑う声があるならば、なおさら神の前で明らかにせねばなりません」


 観衆は静かだった。


 でも、その静けさはもう昨日と同じじゃない。


 白い舞台の上で、向こうはまだ立っている。けれど、もう無傷の顔ではいられていない。


 証言台に立ったのは、ミレナだけじゃない。


 王都で拾った声も、イリーナの熱も、エリスが握っていた手も、全部まとめてここに来てる。


 なら次は、その声を止めようとしてる仕組みの方を見に行く番だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ