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【完結】聖女なめんじゃねぇ!!!  作者: 月宮 かすみ
第2章:聖女解放戦線編
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第18話:白扉をぶち破れ

 白盾が正面から押し返してきた。


 私はゆうりと背中を合わせたまま、振り下ろされた剣を肘で弾く。火花が散る。横から突き出された槍を蹴り上げ、そのまま返す拳で一人の顎を打ち抜いた。


「セラフィナのことはあと! まずは目の前の護衛を片づけなさい!」


「分かってる!」


 言い返しながら、私は白扉を睨む。


 追いたいからじゃない。あの向こうへ運ばれてる子どもを、そのまま連れていかせたくないだけだ。


 白盾が二枚、三枚と重なる。押し潰すつもりだ。私は半歩踏み込み、祈祷印の刻まれた中心へ拳を叩き込んだ。鈍い音、ひび、そこへゆうりの刃が滑り込み、二枚目の縁を斬り払う。


「今!」


「行く!」


 私はそのまま白扉へ突っ込んだ。横から来た剣が肩をかすめたけど、止まらない。拳を叩き込む。


 白扉が、蝶番ごと吹き飛んだ。


 砕けた板の向こうは、すぐ次の回廊だった。


 狭い白い石の通路。左右に灯り。奥へ続く階段。その途中を、候補生たちが護衛に囲まれたまま急かされている。小さな足がもつれ、白い薄布の裾が床を擦る。まだ連れ去られきっていない。


「ラグナ、子ども!」


「任せろ」


 ラグナが回廊の入口に割り込み、ひとり護衛を斬り伏せる。すぐに列の最後尾にいた小さな子を抱え上げ、壁際へ引き寄せた。


「こっちだ。走れなくてもいい、止まるな」


 低い声に、後ろの子たちが揺れる。


 でも、先頭近くにいた何人かは、まだ足を止めなかった。


 階段の上に、セラフィナが立っていたからだ。


 白い法衣。乱れない姿勢。騒ぎの中でも、あの子だけが静かすぎる。


「慌てなくて大丈夫です」


 柔らかな声が落ちてくる。


「押さなくていいのです。前を見て、順番に」


 ぞっとした。


 その一言だけで、泣きそうだった子が息を呑んで足を揃える。優しい声なのに、やってることは檻の奥へ整列させることだ。


「そっち行くな!」


 私は叫んで前へ出た。


 その瞬間、階段脇の柱陰から大きな影が落ちてきた。白盾と幅広の大剣。護衛聖騎士の隊長格だ。重い一撃が、頭ごと叩き割る軌道で落ちてくる。


 受ける前に、銀の光が割り込んだ。


 甲高い衝突音。ゆうりの剣が大剣を逸らす。


「前だけ見なさい!」


「助かる!」


 私は身を沈めて盾の横腹へ拳を入れる。硬い。びくともしない。さすがに他より格が上だ。隊長は押し返すように盾を打ち込み、低く吐き捨てた。


「逃げた聖女に、救いは語れない」


 その言葉とほぼ同時に、階段の上からセラフィナが私を見た。


「天川ひなた」


 静かな声だった。


「あなたは逃げた人」

「役目から降りて、自分だけ助かった人」


 胸の奥に、鈍い痛みが走る。


 逃げるな。耐えろ。お前しかいないんだから。


 知っている言葉だった。形を変えて、ずっと私の中に残っていた言葉だ。


 拳が、ほんの一瞬だけ鈍る。


 その隙を隊長は逃さなかった。白盾が胸元へ突き込みみたいに飛んでくる。まともに入れば吹き飛ぶ。


「ひなた!」


 ゆうりの肩が私の背を押した。衝撃がずれ、私はぎりぎりで踏みとどまる。


「止まってる場合じゃないでしょ!」


 頭の靄が、そこでようやく切れた。


「……うん!」


 振り向けば、ラグナがすでに二人、三人と引き戻している。泣いている子、足の震えてる子、呆然としてる子。まだ奥にもいる。全部は届かない。でも、手を伸ばせば届く子がいる。


 その時だった。


 列の後ろにいた小さな女の子が、私を見た。


 さっきまでセラフィナの方を見ていた子だ。大剣を受けて、それでも前へ出た私を、じっと見ている。


 私は反射みたいに、その子へ手を伸ばした。


「来て!」


 それだけ言った。


 その子は一瞬だけ、階段の上のセラフィナを見た。白い法衣は揺れない。静かなまま、ただ見下ろしている。


 でも次の瞬間、その子はくしゃっと顔を歪めて、私の方へ走った。


 小さな足音が、回廊にひとつ響く。


 それが合図みたいだった。


「……やだ」

「わたし、やだ……!」


 二人目が列を抜ける。

 三人目が、護衛の手を振りほどく。


 白い列が、そこで初めて崩れた。


「ラグナ!」


「受ける!」


 ラグナがすぐに前へ出て、走ってきた子どもたちを抱き寄せる。ゆうりがその横で剣を振るい、追おうとした護衛の足を止めた。


「ひなた、もっと前をこじ開けなさい!」


「言われなくても!」


 隊長が吠えて踏み込んでくる。白盾、大剣、重い、速い。


 でも、今はもう止まらない。


「逃げたから、分かったんだよ!」


 私は隊長を睨み返す。


「痛いのに痛いって言えない場所が、どれだけぶっ壊れてるか!」


 大剣が来る。私は半歩ずれて受け流す。ゆうりが足元へ斬り込み、隊長の軸を揺らす。


「右、空いた!」


「見えてる!」


 私は盾の上端を叩いて顔を上げさせた。


 そこへ、ゆうりの剣が大剣を逸らす。

 私の拳が白盾の中心へめり込む。


 祈祷印が割れた。


 乾いた破砕音の次に、隊長の巨体が後ろへ吹き飛ぶ。後続の護衛を二人まとめて巻き込み、そのまま回廊の先の格子戸へ激突した。金具が弾け、格子戸が外れて夜気が一気に流れ込む。


「道、開いた!」


「子どもを出す!」


 ラグナが即座に動く。抱えていた子を先に出し、残りを押し流す。さっき最初に走ってきた女の子が、振り返って私の服の裾を掴んだ。


「ひなたさま……!」


「うん、行って!」


 その肩を押す。女の子は泣きながら頷いて、ラグナの方へ走った。


 ゆうりが私の横へ並び、追ってくる護衛の剣を受け止めながら吐き捨てる。


「ひなた、深追いしない!」


「分かってる!」


 本当は、追いたい。今すぐ階段を駆け上がって、あの白い法衣を掴みたい。


 でも、その一瞬で後ろの子どもが死ぬなら意味がない。


 私は一度だけ階段の上を見た。


 セラフィナは、護衛に囲まれながらさらに奥へ退いていくところだった。白い顔に焦りはない。ただ静かに、こちらを見ている。


「あなたは逃げた人」


 もう一度だけ、その声が届いた。


 私は睨み返した。


「だったら何」


 吐き捨てて、最後に迫ってきた護衛を殴り飛ばす。


「今度は、逃がさないから」


 それだけ言って、私は踵を返した。


 夜気の流れ込む格子戸の外へ、候補生たちを押し出す。転びそうな足、震える肩。それでも、もう何人かは自分から走っている。ラグナが数を数え、ゆうりが後ろを切り払い、私は最後尾で追手を殴り返した。


 全員じゃない。

 セラフィナにも届かなかった。


 それでも、腕の中にある重みは本物だ。今、奪い返した命がある。


 外へ飛び出した瞬間、冷たい風が肺に刺さる。


 私は息を吐いて、拳を握った。


 言葉は刺さった。

 でも、もう止まらない。


 逃げたから、生きてる。

 生きてるから、取り返しに行ける。


 次は、あの子も置いていかない。


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