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【完結】聖女なめんじゃねぇ!!!  作者: 月宮 かすみ
第2章:聖女解放戦線編
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第17話:白い法衣の聖女

 三日後の夜、私たちは第六儀式場の外壁に張りついていた。


 冷たい石壁に背中を預けながら、私は息を細く吐く。

 ここまで来る間、何度も懐の札を確かめた。移送日、本儀、護衛聖騎士付き。ぜんぶ地下で奪った記録の通りだ。間に合った。今度こそ、取りこぼさない。


「正面は白騎士が八。裏手に術式灯が四つ。前より堅いわね」


 ゆうりが小声で言う。


「本命だからな」


 ラグナは短く返した。


「ひなた。入れば、おそらく迷う暇はない」


「うん。分かってる」


 分かってる。

 だからこそ、妙に静かなのが気持ち悪かった。


 ラグナが結界の継ぎ目を裂き、私たちは側廊から中へ滑り込む。

 中は白かった。壁も、床も、灯りも、全部が白くて、清潔そうに見える。なのに空気だけが駄目だ。香の匂いが濃すぎる。喉の奥に膜が張るみたいで、息をするだけでいらつく。


 儀式場の中央には、子どもたちが並ばされていた。


 小さい子ばかりだ。皆、白い薄布を着せられて、手を胸の前で組まされている。泣いてはいない。騒いでもいない。ただ、怖がることまで我慢してる顔だった。


 その前に、ひとりの少女が立っていた。


 白い法衣。

 真っすぐな背筋。

 揃いすぎた指先。


 年は私とそう変わらないはずなのに、立ち方が違う。誰かにそう作られたんじゃなく、自分でその形を守り続けてきたみたいな、妙な完成度があった。


 たぶん、あれがセラフィナだ。


 その瞬間、列の端にいた子が小さく肩を震わせた。

 セラフィナはすぐにその子の前へしゃがみこむ。


「大丈夫です。息を整えなさい。怖がる必要はありません。あなたは選ばれたのですから」


 声は柔らかかった。

 優しい、と言ってもいいくらいだった。


 でも私は、その場でぞっとした。


 だってその言葉、全部檻の中でおとなしくしてろって意味だったから。


「……無理」


 足が勝手に前に出た。


 もう見てられない。

 あんな声で、あんなふうに、子どもを黙らせるな。


 床を蹴る。

 同時に左右の柱陰から白い影が飛び出した。護衛聖騎士。剣も盾も祈祷印つき。前の護送騎士より、明らかに格が上だ。


「侵入者め、候補生から離れろ!」


「そっちが離せ!」


 最初の一人を拳で殴り飛ばす。盾ごと後ろへ吹っ飛んだ。

 でも、その横からすぐに二人目が来る。剣を振り下ろされる前に、銀の閃きが割って入った。


 ゆうりだ。


「前だけ見てなさい!」


「助かる!」


「あとで感謝して!」


 ラグナは逆側へ回り込み、低く言う。


「右の導線を押さえる。ひなた、一直線に行け」


「了解!」


 私はそのまま中央へ突っ込んだ。

 セラフィナまで、あと少し。

 でも、その少しが届かなかった。


 子どもたちが、逃げなかったからだ。


 むしろ逆に、セラフィナのそばへ寄っていった。


「セラフィナ様……」

「こわい……」

「だいじょうぶ、ですよね……」


 セラフィナは静かに手を差し出す。


「ええ。慌てなくて大丈夫です」

「ここにいれば、危なくありません」


 その一言で、何人もの子がそっちへ集まる。


 私は拳を止めた。

 ここで振ったら巻き込む。


 セラフィナが、そこで初めて私を見た。


 冷たい目じゃない。

 怒ってもいない。

 まるで、壁を見てるみたいな顔だった。


「場を乱さないでください」


「は?」


「この子たちが不安になります」


 あんまり堂々と言うから、逆に笑いそうになった。

 笑えるわけないのに。


「不安にしてんの、そっちでしょ」


「違います」


 即答だった。


「この子たちは、務めを果たしているのです。痛みも恐れも、受け入れる強さが必要です」


 背筋が冷えた。


 マールみたいに怒鳴らない。

 神官どもみたいに威張らない。

 でも言ってることは同じだ。いや、もっと深いところまで壊れてる。


 これが、白冠連盟の完成品。


 護衛聖騎士が再び間合いに入る。私は剣を肘で弾き、腹に拳を叩き込んだ。横で術式灯が閃いた瞬間、ゆうりが短剣を投げてそれを砕く。


「補助陣、ひとつ落とした!」


「十分!」


 ラグナが別動線の扉を見て目を細める。


「ひなた、退かれるぞ!」


 セラフィナは子どもたちを庇うように立ち位置を変え、そのまま後方の白扉へ下がっていく。去り際、私だけを見て言った。


「あなたは、この子たちを安心させていません」


 扉が閉まる。


 白い儀式場に、剣戟の音だけが残った。


 私はその扉を睨んだまま、奥歯を噛みしめる。


 悔しい。

 腹が立つ。

 今すぐ追いかけたい。


 でも、それだけじゃ駄目なんだって、今ので分かった。

 あの子は助けを求めない。助けられる側だとも思ってない。


 殴れば済む相手じゃない。

 だから余計に、放っておけない。


「……置いていってたまるか」


 小さく吐き捨てると、ゆうりが背中合わせに立った。


「その続きは、こいつら片づけてからにしなさい」


 ラグナも短く告げる。


「次は撤退戦だ。気を抜くな」


 私は拳を握り直した。


 ああ、分かった。

 セラフィナは、取りこぼした一人なんかじゃない。


 あの子そのものが、ぶっ壊すべき檻の形をしてる。


 だったら――なおさら、絶対に取り戻す。


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