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【完結】聖女なめんじゃねぇ!!!  作者: 月宮 かすみ
第2章:聖女解放戦線編
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第16話:神官ども、言い訳の時間だ

 先頭のラグナが押し開けた鉄扉の向こうから、夜気が流れ込んできた。


 冷たい地下を抜けた瞬間、肺の奥が少しだけ楽になる。私は腕の中の子を抱き直した。軽い、軽すぎる。こんな重さで、あの台に縛られていたのかと思うと、それだけでまた腹が立つ。


 背後で縄の擦れる音がした。ゆうりが管理神官を無理やり引きずってくる。帳簿も札も、ちゃんと持ってきているらしい。


「行くよ」


 ラグナが先に走る。私は子どもを抱えたまま、そのあとを追った。


 見張りが起きる前に、まずはここから離れる。立ち止まる理由はなかった。


 途中で一度だけ、腕の中の子が小さく震えた。


「大丈夫。もう終わりにするから」


 返事はなかった。ただ、私の服を掴む指だけが弱く残っていた。



 ***



 保護棟まで戻ったところで、ようやく足を止めた。


 救い出した子を寝台へ運ぶと、物音で目を覚ましたエリスが眠そうな顔のまま飛び出してくる。


「ひなたお姉ちゃん……!」


「起こしちゃった。ごめん、寝台空いてる?」


「う、うん。こっち……!」


 救い出した子を寝かせると、エリスはすぐに毛布を引き寄せた。手つきはまだおぼつかない。


「えらいね、エリス。見ててあげて」


「……うん」


 その返事を聞いてから、私は奥の部屋へ向かう。


 椅子に縛りつけられた管理神官が、頬を腫らしたままこっちを睨んでいた。机には奪ってきた帳簿と記録札。ゆうりがめくり、ラグナが扉の前に立っている。


 私は神官の正面に立った。


「じゃあ、言い訳の時間だよ」


 神官は痛みに息を乱しながらも、気味の悪い笑みを作った。


「……無知とは恐ろしいものですね、若き聖女。あれは清めの前処理です」


「前処理?」


「候補生の祈りを整え、器としての純度を上げる。聖女の名誉のために必要な工程なのですよ」


 ぶん殴りたかった。


 でもその前に、ゆうりが帳簿を神官の膝に叩きつけた。


「固定時間六時間。反応低下時は増圧。拒否反応が出た個体は再調整。これのどこが名誉よ」


「必要な犠牲です」


 神官は迷いもしなかった。


「未熟な候補生は恐怖で祈りを濁らせる。ならば、痛みを越えさせるしかないではありませんか」


 拳が出た。


 鈍い音と一緒に、神官の頭が横へ弾かれる。椅子ごと倒れなかったのは、後ろで柱に縛ってあったからだ。


「人を縛って削っといて、犠牲で済ませるな」


 神官は咳き込みながら血の混じった唾を吐いた。それでもまだ、目だけは腐ったままだ。


「異端の聖女らしい浅い怒りですね。秩序とは、そういう綺麗事では保てません」


 ラグナがそこで口を開いた。


「口を開くたび醜さが増すな」


 静かな声だったのに、神官の顔が強張る。


 ラグナは一瞥して続けた。


「秩序だと? 子どもを器と呼び、壊れたら再調整と書き込む。それがお前の言う秩序か」


 ゆうりが別の札を抜いた。


「これも見ようか。処理不能、反応低下、再使用不可。ずいぶん立派な祈りね」


 神官はそこで初めて黙った。


 私は机の上の札を掴む。指先が少し震えた。怒りで、だ。


「セラフィナの記録はどれ」


 ゆうりが数枚を選り分け、そのうちの一枚をこっちに滑らせる。


 白い札。赤い印。候補生番号じゃない、別格扱いの記号。


「移送日、三日後」


 ゆうりの声が低くなる。


「その翌日の夜、第六儀式場で本儀。護衛聖騎士付き」


 ラグナが帳簿の端を指で押さえた。


「中継神殿は枝にすぎん。本命はその先だな」


 私は札を握りしめる。


 三日後。

 その翌日の夜。


 まだ間に合う。


 神官が腫れた口元を歪めた。


「無駄ですよ。我らが聖女セラフィナは、あなた方のような衝動で揺らぐ器ではありません。あの方は自ら祈る。自ら選ぶ。お前たちの乱暴な救済など必要としない」


「うるさい」


 今度は立ち上がれないように、胸ぐらを掴んで顔を近づけた。


「必要かどうかは、本人が決めることだろ。お前が決めんな」


 神官は何か言い返そうとした。でも、その前に私は手を離す。


「ゆうり、その札と帳簿、全部持つよ」


「もうまとめてる」


「ラグナ、出る準備は?」


「できている」


 返事が早い。そういうところ、本当に助かる。


 私はセラフィナの札を懐に入れた。


 この名前を、今度は取りこぼさない。


「行こう」


 部屋の外では、寝台の方から子どもの浅い寝息が聞こえた。


 それを背に、私は拳を握る。


「次は間に合わせる。絶対に」


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