表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】聖女なめんじゃねぇ!!!  作者: 月宮 かすみ
第2章:聖女解放戦線編
42/61

第12話:ぶん殴る聖女、国外デビュー

 線路の上に出た瞬間、冷えた空気が肺に刺さった。


 白い列車の先頭側で、護送騎士がいっせいにこっちを向く。銀の胸当てに白布を巻いた槍。祈祷兵ってやつかと思ったけど、足の運びはちゃんとしていた。飾りじゃない。人を押さえ込む訓練を受けてる動きだ。


「停止しろ!」


 先頭の騎士が怒鳴る。


「その車両は白冠連盟の聖別輸送だ! 近づくことは神への背反と見なす!」


「背反ねえ」


 私は拳を握ったまま、列車の横に立つ。


「子どもを縛って運ぶのが、神様の仕事なわけ?」


 返事はなかった。代わりに槍の穂先が三本、まとめてこっちへ向く。


「器を守れ!」

「上位送致を遅らせるな!」

「聖女様のために道を開け!」


 ぞわっとした。


 聖女様。

 たぶん、こいつらが守ってるのは目の前の子どもたちじゃない。もっと上の、名前も顔も知らない“正しい何か”だ。


「ひなた!」


 後ろの車両から、ゆうりの声が飛ぶ。


「前、止めて! 中はあたしがやる!」


「任せた!」


 次の瞬間、先頭の騎士が踏み込んできた。


 速い。でも、迷いがないぶん読みやすい。私は横へ半歩ずれて、突き出された槍の柄を掴む。そのまま握りつぶす勢いで捻ると、乾いた音がして槍がへし折れた。


「なっ――」


「悪いけど、急いでるんだよ!」


 折れた槍ごと相手を引き寄せ、腹に拳を叩き込む。重い鎧ごと身体が浮いて、騎士が線路脇の土へ転がった。すぐ後ろから二人目、三人目。今度は左右に散ってくる。


 私は線路の継ぎ目を強く踏み込んだ。


 どん、と鈍い音が地面の下で響く。鉄が鳴り、先頭車輪の前の土がめくれ上がった。列車そのものは脱線させない。ただ進路だけを噛ませる。車体が大きく軋んで、速度がさらに落ちた。


「車両には触らせるな!」

「器を傷つけるな!」

「聖なる列を守れ!」


「だから、その言い方が気持ち悪いんだって!」


 剣が振り下ろされる。私は手首を払って軌道を逸らし、拳ではなく肘で胸当てを打った。鈍い衝撃。相手が息を詰まらせて後ろへ下がる。殺さない。潰しすぎない。でも、立っていられないくらいには叩く。


 その時、列車の反対側で短い悲鳴が上がった。


 見張り塔の上にいた弓手が、何かに引きずり落とされる。闇に混じった黒髪が一瞬だけ見えた。ラグナだ。増援を止めに回ってる。こっちに余計な人数が流れてこないのは、彼女のおかげだ。


「前ばかり見ない!」


 ゆうりの声と同時に、横合いから槍が滑り込んできた。私はぎりぎりで身をひねる。穂先が袖を裂いた。


 舌打ちする間もなく、ゆうりが車両の足場から飛び降りてきた。抜き身の刃で槍の柄を弾き、私の前に一歩入る。


「中の子、まだ歩かせられない。時間稼いで」


「えっ、大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないから言ってるの!」


 言いながら、ゆうりは次の一撃を受け流した。顔は冷えている。でも目だけが明らかに怒っていた。


 倒れた騎士の一人が、口の端から血を流しながら立ち上がる。


「秩序を乱すな……」

「選ばれた器は、痛みに耐えてこそ……」

「救済のための苦痛を、邪魔するな……!」


 私は一瞬、拳を止めた。


 頭がおかしい、で片づけるには揃いすぎてる。同じ言葉、同じ目、同じ信じ方。誰かに命令されてるだけじゃない。内側まで染みてる。


 その横で、ゆうりが本当に嫌そうな顔をした。


「……こいつら、本気で正しいと思ってる」


 低い声だった。


 私は息を吐く。


「最悪」


「でしょ」


 目の前の騎士が、また槍を構え直す。私はその穂先を正面から掴んだ。


「だったら、殴るしかないじゃん」


 柄を引き寄せ、額がぶつかる距離まで詰める。そのまま足を払って線路に転がし、子どもたちのいる後方から遠ざけるように蹴り飛ばす。次の二人には拳を落とす。地面を鳴らす。線路脇の土煙が上がる。白布が泥で汚れる。きれいごとだけで固めた隊列が、ようやく崩れ始めた。


 先頭車両の横扉が開き、怯えた小さな顔がいくつも覗く。


「見なくていい! こっちはいいから、中にいて!」


 叫ぶと、いちばん前の子がびくっとした。でも逃げなかった。さっきより、ほんの少しだけ違う。


 列車はとうとう止まった。


 護送の前列も、もう立て直せない。倒れた騎士がうめき、残った連中も距離を取る。勝てる。少なくとも、この場はこっちが押し切れる。


 だけど。


 ラグナが闇の中から戻ってきた時、その顔は勝ち顔じゃなかった。


「ひなた、ゆうり」


「なに」


 ラグナは止まった列車を一瞥し、短く言う。


「記録と両数が合わん」


 胸の奥が、嫌な音を立てた。


「……は?」


「後続の切り離し跡がある。上位送致分だけ、別便だ」


 ゆうりが奥歯を噛んだ。


 止めた。

 殴った。

 列車も止まった。


 なのに、まだ終わってない。


 白みかけた空の下で、私は拳を握り直した。

 勝ってるのに、全然すっきりしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ