表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】聖女なめんじゃねぇ!!!  作者: 月宮 かすみ
第2章:聖女解放戦線編
38/61

第8話:夜の保護棟

 何も見えない。


 見えないのに、嫌な感じだけははっきりあった。


 私は庭の暗がりを睨んだまま、一歩だけ前へ出る。背後ではミレナが扉の隙間に立っていて、エリスがその服の端を掴んでいた。


「中に入ってて」


 できるだけ静かに言う。


 ミレナは頷いた。でも足がすぐには動かない。怖いんだと思う。そりゃそうだ。自分を取り返しに来る夜なんて、怖くないわけがない。


 グレイが私の横に並んだ。


「……いるな」


 グレイの手が、静かに剣へ伸びた。


 次の瞬間、塀の外で鈍い音がした。


 見張りが一人、声もなく崩れる。


「は?」


 私が走るより早く、庭の端の影が三つ動いた。黒い法衣。白い仮面。足音がほとんどしない。夜の中に溶けるみたいに、まっすぐ保護棟へ向かってくる。


「グレイ!」


「左を取れ!」


 それだけで十分だった。


 私は左へ飛ぶ。最初の一人が短剣を抜くより先に、拳を横から叩き込んだ。仮面が割れて、相手の体が庭石の上を転がる。


 でも軽い。嫌な軽さだ。鍛えた騎士じゃない。もっと速さだけに寄せた動き。


 二人目が窓へ走る。


「させるか!」


 足を払う。避けられる。速い。ならばと袖を掴んで引き戻すと、そいつは体を反転させながら私の喉を狙ってきた。


 ためらいのない軌道だった。殺すためじゃない。喉だけを黙らせるための刃だ。


 ぞっとした瞬間、横から剣閃が入った。


 グレイだ。


「聖女に触れるな」


 低い一言と一緒に、刺客の短剣が弾き飛ばされる。続けざまに踏み込み、胸当てごと叩き落とすみたいな斬撃。重い。速い。正面から折りに来る剣だった。


 さっきまで静かだった庭が、一気に戦場になる。


 残りの一人は、窓際まで辿り着いていた。


 保護棟の窓。ミレナの部屋。


 ふざけんな。


 私は地面を蹴った。相手が懐から取り出したのは、細い針みたいなものだった。喉狙い。やっぱりそうだ。こいつら最初からミレナの口を塞ぎに来てる。


「うるっさいんだよ!」


 拳が先に届いた。


 腹に入った感触は軽いのに、骨が折れる音は重かった。刺客は窓の下に叩きつけられ、息を吐いて動かなくなる。


 庭の反対側で、金属音が弾けた。


 振り向くと、最後の一人がグレイと打ち合っている。いや、打ち合いじゃない。グレイが押してる。真正面から。迷いなく。


「退け」


 刺客が低く何か呟いた。聞き取れない。けど、その声にぞわっとした。祈りみたいな響きだった。


 次の瞬間、そいつは自分の胸元に手を突っ込む。


「自害する!」


 ゆうりの声が上から降ってきた。


 え、なんでいるの。


 見上げると、保護棟の屋根の上にゆうりが立っていた。剣を抜いたまま、鋭い目でこっちを見下ろしている。


「早く止めて!」


「なんで屋根の上!?」


「屋根が死角になると思ったのよ!」」


 言い返してる場合じゃない。


 私は最後の刺客に飛び込んだ。胸元の何かを掴む。硬い筒だった。紙でも刃でもなく、封筒みたいな感触。


 そのまま相手の手首をへし折るつもりで捻る。骨が鳴る。刺客が初めて苦鳴を漏らした。


 そこへグレイの剣の腹が落ちる。


 頭部への強打。刺客の体が沈む。


 静かになった。


 夜番の兵が遅れて駆け込んでくる。庭に倒れた仮面。白い欠片。黒い法衣。油の灯りが揺れて、全部がやけに生々しく見えた。


 私は息を整えながら、掴んだ筒を見た。


 白い蝋印。白冠の印。


「……当たりだね」


 ゆうりが屋根から飛び降りる。


「中、無事?」


「ミレナとエリスは平気」


 そう言ったところで、扉が開いた。


 ミレナが真っ青な顔で立っている。エリスはその後ろで震えていた。でも逃げてない。えらい。


「終わったよ」


 私はできるだけ普通の声で言った。


「もう大丈夫」


 ミレナの視線が、地面の白い仮面に落ちる。唇が震える。


「あの人たち……連盟の、回収役です」


「回収役?」


「逃げた聖女と……喋る聖女を、消す人たちです」


 胸の奥が冷たくなる。


 やっぱり、取り返しじゃない。最初から口封じだ。


 グレイが短く言った。


「中で開ける」


 私たちは保護棟の小部屋へ移った。机の上に筒を置く。ラグナも来ていて、蝋印を一目見て眉を寄せる。


「術式封がある。雑に破るな」


 指先が光る。蝋が静かに割れる。中から出てきたのは、折りたたまれた薄い紙が三枚。


 一枚目は名前の列。年齢。状態。選別印。


 二枚目は地図。国境沿いの線路と、乗換地点。


 三枚目を見た瞬間、ゆうりが舌打ちした。


「……最悪」


「なに」


 私は横から紙を覗き込む。


 そこには、整った字でこう書かれていた。


 第三移送列車 祈祷列車

 出発日――三日後


 その下に、小さく並ぶ記号。


 器候補、十一。

 上位送致、一。


 ミレナが息を呑んだ。


「まだ、そんなに……」


 私は紙を握った。


 三日後。


 遅いと消える。

 なら、もう迷ってる暇なんてない。


 ゆうりが顔を上げる。さっきまでの呆れ顔は消えていた。


「作戦、組むわよ」


 ラグナも頷く。


「祈祷列車を止める」


 グレイが剣の柄に手を置いた。


「今度は守るだけでは足りない」


 私は紙を見たまま、笑った。全然楽しくないのに、笑うしかなかった。


「うん。じゃあ今度は、迎えに行こうか」


 三日後。

 祈祷列車。

 十一人。


 上等。


 今度はこっちから迎えに行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ