61話・王女には不埒な真似はしていない
「余が連絡を取らなかったから怒ってるの? ジェーン?」
「そんなことはないです」
「では焼きもちでも妬いた? イサベル王女と現れて内心、穏やかではない?」
「……ル、陛下。からかわないで下さい」
言いなおしたわたしをがっかりした様子で見てくるルイ。でも仕方ないと思う。ルイ付きの護衛達は何も言わないと思うが、こういったことはどこからか漏れるものだ。ルイとわたしが従姉弟同士とはいえ、あまりにも親しい態度でいたらイサベル王女も良く思わないだろう。ルイは王女のことをどう思っているのか分からないが、彼女の方はルイに気があるように思う。
「今回の鷹狩りを余は非常に楽しみにしていたのだよ。こうしてきみに会えると思ったから、寝ずに仕事も頑張った」
言われてみれば、ルイの目下にうっすらと隈が出来ていた。彼と顔を合わせるのが気まずくて視線を避けていた事で彼の不調を見落としていた。本人に言われるまで気がつかなかっただなんて。わたしはエスコートしてくれているルイの手に抗い、城内に引き返そうとした。
「まあ、大変。陛下、お疲れでしょう? すぐにお休み下さい。そろそろ部屋の方もご用意出来てるかと思いますので……」
慌てるわたしに、ルイは動じなかった。
「大丈夫だよ。馬車の中でイサベル王女の膝を枕に寝てきたから」
「そうですか。仲が宜しいようで良かったですわ」
少し面白くない気持ちで言えば、頬にルイの顔が近付き離れて行った。頬に柔らかな唇が触れた余韻がある。
「嘘だよ。彼女には触れてもない。馬車にはアズライトも同乗していた。彼女には女官もついていたし不埒な真似はしてないよ」
「ルイ」
思わず彼の名を呼べば、悪戯が成功したように彼は笑った。その笑顔に不覚にも見惚れてしまった。ルイはわたしの心を試すように、会話の途中で何度かわたしの髪や腕に触れてきて、どきどきそわそわさせられた。しばらくして部屋が整ったとスティールが呼びに来るまで心臓はどきどきしっぱなしだった。
それをどこからか王女殿下付きの女官たちには見られていたのだろう。翌日から女官たちには睨まれたり、無視されるようになっていた。彼女達はこれみよがしに「身の程を知らない令嬢だわ。陛下には姫さまがいらっしゃるのに」と、あからさまにわたしを敵視していた。
わたしは目に付きすぎたらしい。ルイとは従姉弟同士で幼馴染だし、仲良くしてるからそれを王女殿下が知ったら面白くないだろうな。とは思っていた。滞在中はわたしが大人しくしていれば、そのうち向こうも気が納まるだろうと思っていたのが悪かった。事情はわたしが思うよりも悪化していた。




