62話・お嬢さまは王妃になりたいが為に、許婚であるエメラルドグリーン侯爵子息との縁談を蹴って陛下に色目を使い、言い寄っているそうです
「なんなの? あの人達」
「失礼過ぎますわ。いくら殿下付きの女官だからと言って……!」
侍女のダリーが入室してくるなり憤慨していた。赤茶の髪が今にも逆立ちしそうな勢いで、緑色の瞳が三角に尖っていた。その後にリリーが続く。普段は穏やかな性格をしているリリーが怒りを露にしていた。
「ふたりともどうしたの?」
オナリーにお茶を入れてもらっていたわたしは、茶葉の香りを味わっていたカップをテーブルの上に戻した。
「殿下付きの女官達がお嬢さまの悪口を言っていたんです」
「どうせ、陛下に言い寄ってるとでも言いたいのでしょう? あの方達はわたしが陛下と従姉弟同士で、幼い頃から仲良くしてることは知らないのだもの」
放っておきなさいな。と、言ったわたしにダリーが噛み付くように言った。
「お嬢さまは王妃になりたいが為に、許婚であるエメラルドグリーン侯爵との縁談を蹴って陛下に色目を使い、言い寄っていると言ってたんですよ」
「そうです。イザベル殿下が高笑いしながら言ってました」
リリーがダリーの援護射撃をするように言う。
「そう。殿下にもそう思われていたとはね。心外だわ。期待はずれね」
「お嬢さま」
殿下ならば一方の意見だけではなく、双方の意見を聞いて判断できるようなお方であって欲しかったけれど、それはこちらの理想を押し付けているようなものかしらね。と、ため息が漏れた。オナリーは心配するように見てきた。
「皆わたしの事で不快にさせてごめんなさいね。鷹狩りがすめば殿下も陛下と共に宮廷に戻られるはずだからそれまで我慢してくれる?」
「お嬢さまが謝られることはありませんよ」
「そうですよ。悪いのはあちらです。陛下に言いつけて叱ってもらいましょう」
「なんなら刺してきますか?」
「ひぃいい」
いつの間に現れたのか、にゅっと脇からリーズが顔を出してきた。驚いた。
「り、リーズ。物騒だから止めなさい」
「そうですよ。リーズ。するならお嬢さまに迷惑がかからないように闇討ちなさい」
「オナリー。それ止めて。リーズには冗談にならないから」
わたしが止めようとしたのに、オナリーが額に青筋を立てながらリーズをけしかけようとする。王女殿下の態度は、オナリーの逆鱗に触れたようだ。
「王族でありながら使用人と一緒になってお嬢さまを馬鹿にするなんて、王女にあるまじき姿です」
「うちのお嬢さまを見習って欲しいものですわ」
「そうよ。心優しきお嬢さまの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいです」
怒るオナリーに、憤慨するダリー。リリーはうんうんと頷く。
「うちのお嬢さまをなんだと思ってるんですかね? あの傲慢王女は。もし、万が一、陛下の身になにかあればうちのお嬢さまが女王になる可能性だってあるのに」
「オナリー。やめて頂戴。それは言いすぎよ。それにわたしはルイにずっと王でいてもらいたいの。ルイが治めるこの国をこのまま見届けていきたいのよ。もしもだなんてそんな恐ろしいこと言わないで」
オナリーは殿下がわたしのことを貶していることに我慢がならないようだ。我慢出来ずに漏らしたような言葉は危険を含んでいた。もし、そのことを心ない者が耳にしたら危ういくらいに。




