19話・ギルバードの使命
「で、どうだったんだい? 例のご令嬢は?」
「限りなく黒ですね。あのお方の芝居につき合わされました」
「へぇ。きみにしては芸がない。ジェーンの耳に届くようなものではお粗末としか言いようがないな」
ルイは流し目をくれてきた。もともと顔立ちの良い少年だ。あと数年もすれば女性たちの心をざわめかせる存在となるだろうとギルバードは思う。ルイはジェーンを怒らすなんて下手な手を打ったよなと言ってきた。
彼女が自ら望んだ事だし、そろそろ婚約破棄しても良い頃合いなのかもしれない。
「それでは私はこれでお役ごめんと言うことになりますか? 陛下」
「そんな訳ないだろう。きみには余の為に道化師で居続けてもらわないと」
ルイはくすりと笑う。その顔にはジェーンにはけして向けた事がないであろう狡猾な笑みが浮かんでいた。
「きみは余の代わり。きみには余を楽しませてもらわないとね」
「御意」
ギルバードには断る権利がない。国王のコウモリ。それがギルバードに与えられた役目だ。コウモリとは簡単に言えば間諜のことだ。国王に絶対の忠誠を誓い、唯一の主君とする。ただし、他の間諜とは明らかに違う。コウモリは国王の願いを叶える為だけに動くということ。それがどんなにくだらない願いでも叶えてみせるのがコウモリの腕の見せ所で、ギルバードの前任のコウモリは、亡き先王が愛する低位貴族出身の女性との結婚を可能にさせた。彼が先王と政略結婚で結ばれていた前王妃を離縁する為に暗躍したのは言うまでもない。
コウモリの退任は国王が亡くなるその時まで。ギルバードがコウモリになった経緯は、彼が武芸に厳しい父の指導から逃れて、息抜きに密偵の真似事をして小銭を稼いでいた時にコウモリと出会い、手助けをしたことがきっかけだった。
前任のコウモリは、女性との浮名が耐えなかったギルバードを自分の後継にと求めた。その理由が分からなかったが、己の主がルイと分かった時に何となく悟ってしまった。
あの時、ルイは病床にあった。当時十歳だった彼は成人前に命を落すことになるだろうと医師が見立てていた。医師がルイには将来を望めないと決定づけてしまった為に、重臣達は早くも次の後継者を推し進めるべく動き出していた。
そんな中で、ルイは一つだけ夢見ていたのだ。優しい従姉姫との将来を。彼は彼女を慕っていた。彼のほのかな想いを叶える為にギルバードは国王のコウモリとして誕生した。全てを知るルイはギルバードを国王の道化師と呼ぶ。
自分の為のコウモリ。ギルバードは自分の為に滑稽な言動や行動を取り、自分を楽しませてくれる道化に過ぎないのだと。その為にギルバードは幾らでも演じ続ける。滑稽な男の姿を。ルイが望む限り。
「再び命じる。パール令嬢ジェーンの婚約者として彼女を守り、あらゆる魔の手から彼女を守れ」
「はっ」
ギルバードは深々と一礼した。




