18話・国王のコウモリ
ジェーンに締め出しをくらったギルバードは、足早に馬車に乗り込むと御者に宮廷へと馬車を向かわせた。気が急いてならなかった。一刻も早くと気持ちが急く。馬車を降りてからまっしぐらに向かったのはこの国の王の執務室だった。
ノックもせずに部屋の中にはいると、くすりと大人を小ばかにした笑みに出迎えられた。
「陛下」
「やあ。お帰り。余のコウモリ。そろそろ来ると思っていたよ」
少年王ルイが出迎える。幸いにも執務室には他のだれも見当たらなかった。ギルバードはそのことを見通して入室したが、相手は自分が来ると察していたことからして、今回の事はこの少年王に振り回されていたのではないかと、彼の顔を見た瞬間にギルバードは疑いたくなった。
「このことはあなたさまが?」
「何のこと?」
「ジェーンとの婚約破棄のことです」
ルイは執務机に両肘をついてその上にあごを乗せてこちらを見た。
「ああ、それだけど。困るよ。ギルバード。しっかり彼女を捕まえていてくれないと。公爵や教皇から連絡があったよ」
少年王はため息を付きながら言った。その件にルイは関与してなかったらしい。それだけ分かってギルバードは安堵した。ギルバードとジェーンの婚姻は、亡き先代王がとり結んだものではあるが、そうなるように仕向けたのはこのルイなのだ。一応、謝罪しておくべきかとギルバードは頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
「でもあの教皇相手に聖遺物の件を持ちだすなんて上手いことやったじゃないか。さすがに一度誓いを立てた教皇も約束は違えられないと、公爵に泣く泣く断っていたよ」
ルイは十四歳には見えない物言いをする時がある。幼い時から寝付くことが多かった為、病弱なイメージを持たれやすい彼であるが、いまは健康体だったりする。でもそのことを知るのはごくわずかな者だけで、その中にはギルバードも含まれていた。
この少年王は、人の思惑さえ都合の良いように利用している、なかなか侮れない少年であることをギルバードは知っていた。
「きみがメアリー陣営に入り込むくらいだから、何か収穫はあったんだよね?」
ギルバードは舌打ちをしたくなった。メアリーに近付いたのはある人物のことを探っていてそれが彼女に行き当たったからだ。
「きみの主は余だったはずだけど? 鞍替えする気なのかな?」
「そのようなつもりはありません」
ルイとは主従契約を結んでいた。表向きは人当たりの良い性格に目を付けられてこの国の観光大使として、自国の特産物を推進し、他国に宣伝広告活動を行う仕事を与えられてはいたが、その裏では間諜として活動していた。それは彼の家族はもちろんのこと、許婚であるジェーンも知らない彼の一面だった。




