表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第六章 終わる世界
140/141

決戦

「わらわはなんとでもなる。酒呑童子を倒せるのは頼光の刀だけじゃ。古来より鬼退治に特化した刀、今すぐ用意できるものはそれしかない」


「この鬼の中、綱子ちゃんを追えと」


「走り出したくてたまらん顔をしておるぞ」


「そうだろうか」


「そうなんじゃよ。わらわはそんなヒロやんが好きなのじゃ。キスしてもよいかの?」


「わからないな」


 ヒルメは僕にキスをした。全身の力は吸い取られなかった。逆に力が満ちる。

 ヒルメの体は疲弊している。それをどうすることも今の僕にはできない。ただ労わってやることしかできない。


「もうわかり始めておるのじゃ。ヒロやんは」


 答えはすぐそこにある。


「そうかな」


「そうなんじゃ」


 僕は深呼吸した。


「生まれ変わりたくて、だのに何もかも無くすのが嫌。それが僕か、ヒルメ」


「そうじゃ。世話の焼けるいい男になったな、ヒロやん」


 爆笑する。愉快だ。こうも自分を言い当てられたことがあっただろうか。

 灰色の僕の矜持を。さすが神と言ったところか。最強だな。


「さて行くか」


 僕は立ち上がった。

 外には赤雪姫が待っていた。


「軽く終わらせて帰りましょう。皓人」


「空美を頼む」


「記憶が無くなってもあなたはあなたなのですわね。見直しましたわ」


 赤雪姫は微笑んだ。


「しかし、それは仕方のない事なのかもしれません。あなたは所詮あなたでしかない。覚えておきなさい。本当の自分を受け入れる強さを。そしてそれを御する謙虚さを」


「耳が痛いな。僕は僕を見失っている。どうでもいいのに」


「貴方には帰るところがあるではありませんか」


 それは救いか、束縛か。束縛だ。


「行くか。僕は右を捜す」


「わたくしは左を捜します。御武運を」


「武運など必要無い」


「減らない口ですこと」


「口数は多い方がいい。その方が人となりがわかる」


「ですわね」


 梔子綱子。この鬼の中、何を考えている。僕はお前の真意が知りたいんだ。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 私は梔子綱子です。八年前までは普通の女の子でした。

 普通を捨てて私は少し壊れました。

 どうしょうもなく壊れていると言う人もいるには居ますが、私はいたって普通の感覚でこれを御してきました。ですから、こうして数万の鬼と戦いながら前に進んでいるのも当たり前と言えば当たり前なのです。


「おのれ。渡辺の綱出」


 鬼たちが私を阻みます。私には鬼の本体がわかります。

 しかし、それを言えば皓人を戦いに巻き込むでしょう。

 それだけは避けたかった。

 赤雪姫で疲弊しているのは空美だけではありません。

 満月狼で皓人だって疲弊しているのです。それに彼はもともと体が丈夫ではありません。

 光の妖精たちと同じ薬石を食わねば生きていけない体なのかもしれません。

 半年も戦い続けた彼の体はボロボロです。私が思うに皓人は白と黒が混ざったのではなく、ただ単に体が弱ってロマンスグレーになってしまっただけなのでしょう。

 皓人を失い、看護を勉強し始めた私には満月狼の重さがわかるのです。

 私は刀を構えました。もうすぐ、酒呑童子にたどり着きます。

 目指すは学校の屋上。そこに酒呑童子がいるはず。

 私が赤いマフラーを使って空に昇るとそこには茨城童子の残りカスが漂っていました。


「ようこそ。渡辺の綱出」


 真っ赤な酒呑童子が茨城童子の残りカスを食い尽くします。そして倍に膨れ上がりました。


「共食いか!」


 私は目を閉じました。


 良いでしょう。戦おうではありませんか。我が刀、無形が吠えています。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 僕は佐伯皓人というらしい。道の糸を読み走る。綱子の走った方角を探る。


「行くか」


 どうでもいい気持ちと、何が何でもという気持ちが内在する。不可思議な気分だ。

 僕の心は二つある。

 守ろうとする心と、奪おうとする心。

 その心がせめぎ合って僕なのだ。僕でしかない。

 やっと気がついた。満月と結びついたのはその奪いたい僕だった。

 白い僕が僕の中でゆっくりと置きあがった。白い僕は疲弊している。


「ほら、記憶の箱を開いてごらんよ。色鉛筆の箱だよ。お前が子供の頃に赤ずきんにプレゼントされた箱だ」


「そんな物、覚えてなどいない」


 記憶の箱は虹色だった。

 満月が目を細める。


『我はお前を理解することが出来るかな?』


「理解など必要ないよ。僕は僕だ」


 答えはまだないけど、待っていてくれ。

 記憶は箱の蓋はまだ開かない。

 僕は走った。負けたくない。酒呑童子。記憶の箱が急げと言う。

 酒呑童子は一面に降っていた。

 重蔵のからくりを使って僕はここまで来たのだ。

 屋上の上で赤い顔が吠える。大きな赤い霧だ。霧が顔の形を作っている。

 まさに化け物そのものだ。子を食い、成る。その存在に嫌悪を抱く。

 綱子ちゃんは屋上に倒れていた。なんということだ。


「綱子!」


「頼光様?」


「綱子!」


 僕は綱子を抱き上げた。目は固く閉じられている。


「頼光様」


 額に髪が張り付いている。うわ言のようにその名を呼ぶ。

 僕は無害を手に回転した。

 酒呑童子に切りかかる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ