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決着。蹴速の幸せ。

 重玉を周囲に無数に発生させる。20メートル内に、ざっと数千個。一個一個は、数トン程度の軽いもの。それを数を頼みに。


 もう、読めない。こちらの読みより、相手の動きが早い。光天は一瞬に、100の動きを同時にこなしていた。その100を蹴速は超えなくてはいけない。1回直撃を食らうだけで、死ぬ。


 左後方。揺れを感じた。蹴速が姿を消した直後、無数の重玉は、全て破裂した。


「おお!」


「・・・・」


 重玉を巻き込み蹴速への攻撃を行う、その瞬間。顔を出した光天に蹴り込む!


 躱された!


 蹴速の攻撃速度は、光速の100倍程度は出ていたが。


 まだ、光天に擦る事すら無かった。


 奴が本気になってから、相手をしてもらってない。はっきり言って苦戦している。手強い、辛い、苦しい、しんどい・・・。


「楽しい・・!!」


 シロ以来か?初三千世界も、おれより強いのはそうなんやけど。こいつの技、おれが知らんものが幾らでも有る!その技を、おれを殺すつもりで、本気で放ってくる。こんな風に!


 集熱。この世界全ての気温が、1万度になった。上昇する過程を踏まえず、一瞬で過熱した。


「怖い怖い」


 自身の周囲に重玉の結界を発生。熱だろうが何だろうが、重圧以上のエネルギーでなければ、通さない。つまり、空気の供給も無いので、長時間の維持は自殺行為。超騎士のすごさを改めて知る。


 仮、と言うか、あの熱は、本物の太陽光やらストーブやらの熱とは別物。数十秒もすれば、消える。


「やっと。動きを止めたか」


 この声は、蹴速には聞こえない。


 上下左右、蹴速の周囲全てを、蹴速の重玉の1万倍の圧力で埋め尽くす。光天の能力を以ってしても、発動に時間がかかる。初めての技だからだ。重玉の発想も、蹴速の攻撃を見て、初めて得た。元々、重力を操るぐらいは出来たのだが、それを攻撃に転化した事は無かった。元来、星を創る時にしか使わなかった能力だ。


「君が悪いのではないのだろう。それでも、黒天には戻ってもらう。さよなら」


「さみしい事よ」


 突然、蹴速が現れた。


 どうやって・・・。


「?読心やろ?お前もやりゆやん。なんで、驚くん?」


「どうやって、読心を、何処に居るか分からない僕にかけた!」


「んー」


 ネタばれをすると、不利になる。なら、やろう。


「お前の服に、数え切れん程の重玉をくっつけた。それは、おれの気で作った物。当然、おれが探れるわなあ」


「なるほど。今の蹴りか」


「そそ」


 全力で蹴ったのは事実。だが、ついでに極小の重玉も付着させた。それは更に前の、無数の重玉を発生させた時。あの時、壊れないように加工した、極小さな重玉も、撒いておいたのだ。


 光天は、神気を開放した。蹴速の重玉は、今度こそ全て打ち砕かれた。


「舐めていた。すまない」


「有難う。お前のような奴と戦えるのは、本当に嬉しい」


「僕も、戦いなんて、初めてなんだ。言い訳だけどね」


「それはそれは」


 初陣の素人に、こうも良いように。笑いが止まらない。笑顔以外を作れない。


「今から、本気を出す。安心して欲しい。君が何者であろうと、必ず復活させるし、元の生活に戻してあげる」


「おれは、何も返せん。過ぎた温情よ」


「構わない。僕は。神様だからね」


「様様やな」


「?」


「今度一緒に。テレビでも見るか」


「楽しみに、してるよ」


 蹴速が即死しなかったのは、奇跡と言って良い。


 先制する気だった。攻撃を以って、相手の打つ手を塞ぎ、逃がさず倒し切る。その、つもりだった。


 攻撃に移ろうとした瞬間。本気の光天と向き合い、動き出そうとした瞬間。怖気おぞけに震え。全身の、全ての機能を、防御に使い切った。


 1兆兆億トン。銀河どころか、宇宙の全てを崩壊させる圧力。それが、この世界全てを覆った。蹴速が、1万人居ても発生させられないエネルギー。当然、防ぐのもまた不可能。


 だから、そのエネルギー自体を操作した。重圧は、蹴速の本領なれば。押し潰さんと迫り来る重圧を、曲げる。理屈は簡単。平坦な道、ブレーキのかかっていない状態なら、数トンの自動車を数十キログラムの人間が動かせるのだ。状況さえそろえば、力の大小は多少なら無視出来る。


 同時に同速で来る重力を分解する。幸い、速度は大した事無い。普通の光速だ。全開の蹴速なら、靴紐を結びながらでも対処出来る。問題は、数。蹴速が一度に操作出来る重圧を1とするなら、周囲は近距離に限ってさえ数千。ちょっと大変な作業だ。


 ・・・死ぬかと思った。シロと戦った時は、もっと強く死を意識したが。今回は、より明確に、詳細に分かった。


 元の世界。何も、変わりが無い。全てを出し尽くした蹴速と、息一つ乱していない光天の姿も。


「すごいな。今のが、僕の最高の力だったのに」


「お、おお。よゆーよゆー」


 前のめりに倒れ伏した。もう、何をされても動けない。


「おれの、負け。好きにしてくれ」


「分かった。君の敗北を受け入れるよ」


 殺しても、消しても、良い。恐らく、黒天も、3日くらいこの子を消しても許してくれる。だが、こんな時は。


 シートを、創る。今回は、柄は無し。肉と菜っ葉と魚。穀物もたっぷり。


「戦い終わったら、宴会。だよね?」


「おお・・・」


くくく


 楽しい奴。蹴速は、笑い声を抑えられなかった。


 良い匂いだ。これは、香辛料をふんだんに使った一飲涙の肉料理。


 つい蹴速も起き上がり、料理の数々を見渡した。


「蹴速。もう良いかの?」


「ああ」


「黒天」


「良い戦いじゃったぞ。光天」


「うん?・・・うん」


 光天は、少し照れた。


 その後。大急ぎで蹴速の下に自力でたどり着いたジンは、楽しくピクニックしている蹴速と敵の姿を目の当たりにし。ついうっかり、その場の全員を攻撃してしまった。


「すまん。良く来てくれた。嬉しいぞ、ジン」


「まあ、おれと蹴速の仲だし!」


 蹴速に抱っこされて、ジンも少し大人しくなった。


 相争っていた味方と敵。両方の生き残りをシロが呼び寄せ、宴会。楽しい時になった。


「ケリはどうすんの?」


「自然災害、で終わらせる。梅らあに頑張ってもらって、ダイコウチの復旧に専念。それでオシマイ」


「そこまで強いのですか」


 蹴速が、譲歩するほどに。


「ああ。おれは、負けた。やから光天の言う事を聞く」


 亜意などは、胸の内にもやもやしたものが有ったが。


「蹴速が良いなら、良ーんじゃない?」


 ジンと同意見。適うならば、敵を全員殺して帰りたいが、実力が足りない。歯噛みしようと、どうにもならない。


「黒天。また来るんだろう?」


「ああ。今回で終わるかと思うておったが、そうもいかぬらしい。蹴速の飽きるまで付き合う事になろう」


「それなら、ずっとだね。彼は、また来たいと思っているよ」


ふふ


 誰ともなく、笑った。


 蹴速なら、そうだろう。蹴速が求めているのは、自身が勝ち続ける事ではない。勝ちたいと思う相手との戦い。己が命の、使いどころ。十全に鍛えた力を十分に発揮したい。その相手に、今回恵まれた。そして、その相手は、どうやらまた付き合ってくれるらしい。


 幸せな事よ。

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