始まりの前の、始まり。蹴速一行、天を貫く。
出陣メンバー。蹴速。シロ。初三千世界。
本当は、この3人だけでも良い。人の里に降り立つ者は、デウスのような酔狂な神でもなければ、弱い者が来るらしい。魔獣の神の言葉からも、好き好んで降り立った者ばかりでない事が伺える。絶対に強い、そう言い切れるメンバー以外は、連れて行きたくない。デウスは、アカが本気で戦う程の化け物だった。
あれが、しかし、シロの言う同格の相手ではない。
それでも、付いて来る。ジン。超騎士。亜意。無双双児。神無。
アカやキ、残りのメンバーには、家とダイコウチの守りをお願いした。蹴速とシロが2人そろって家を空ける事態。守護もやはり、絶対的に信頼の置ける者が良い。本当なら、超騎士と亜意にも、家を守って欲しかった。
出る前に、祝寝を始めとする家の人間と話をする。
「今回の戦い、お前らに一番しわ寄せが行ったな。すまん」
「本当だよ、全く」
シロが出来合いの料理を出してくれるし、家に帰って来た者達も順次手伝いに回ってくれたが、それでも家事は山盛りだった。
「これ以上、手間が増えると、めんどい。早く片付けて、帰って来よ」
「おお」
いつもの、戦の前の風景。
天が綺麗な場所だったなら。皆でピクニックに行こう。
「行って来る」
「行ってらっしゃい」
神無は、見送りの梅と有我に応えていた。
「二神の敗北は許されない。心して行け」
「応」
「分かりやすく、生きて帰れと言えば良かろう・・。神居と共に待っているぞ。お前達の凱旋を」
「ああ!」
ボクの時とテンションちがう・・。有我は少しだけショックを受けていた。
バカめ。一一人としての格好なのだろうが。ここには、他人は居ないだろうに。それでも、有我は自分の仕事をちゃんとしている。
そして、有我の志は、神無に注がれた。神無には、梅からの親愛と有我からの意気が灯った。
「初三千世界。気張らず、テキトーにやって来な。まずったら、おれらが飛んでってやる」
「うんうん」
「うん!」
特盛、アオミドリの激励。この2人なら、理由は違えど、本当に飛んで来るかも。頑張ろう。
「お母さん。気を付けて」
「大丈夫。ちゃんと、お手伝いするんだよ」
「うん」
「親子」はきっと、こんな時、抱き合う。テレビで見た。でも、
なでなで
続三千世界が。娘が、肩を撫でてくれる。
「頑張ってくるよ!」
「おお!」
「おおー!」
「御武運を」
「任せよ」
クロの言葉を素直に受けるシロ。
武運とな。この、宇宙最強最高の存在に。
クロには、まだ教えておらん。この身を危うくする敵の実在を。それでも。
運を頼む戦になるか。
9人は旅立った。
着いた。
「割と。気が高まらないものだな」
「一瞬やからな」
シロが知っていると言う事で、ゲートを開き、家から10秒で全員が天に昇った。
天は、綺麗な所だった。花咲き乱れ、鳥は歌い、蝶が舞う。
「舐めた場所だな。季節も何も無い」
冬の花、春の鳥、夏の蝶。紅葉も、そこかしこに見られる。
「・・・人間の理想の場所か」
季節によらず、食べたいものを食べ、したい事をする。現代人のスタイルを、神は昔からやっているのか。人は神の似姿とは良く言ったものだ。
「ふむ」
シロは、今何を考えているのだろう。あえて、蹴速は問わなかった。
誰もが、1度は頭の片隅に過ぎった疑問。
アカは赤い装束。キは黄色い。であれば、何故。
シロは、真っ黒なのだ。
そして、側仕えのクロの名。関係が有るのか。
シロの昔の付き合い。関係性の有る場所。
だが。すぐに分かる。シロが、おれ達を連れて来たから。楽しみに待とう。
聞かない理由は、もう一つ。読心を使えるシロが、今まで誰にも答えていない事実。
構わない。本当に聞きたくなったら、聞く。言いたくなっても、聞く。
シロが、指でつついて来た。
可愛かったので、腰を抱いて歩み始めた。
「敵地で、この度胸。流石蹴速!」
「いや・・」
素直に褒める神無と、素直に呆れる亜意。
そんな事より。超騎士の仕事は、多い。いまだ、不安要素を拭いきれていないジン。ジンの手綱を蹴速が握っていれば問題無い。が、状況によっては、そうも行くまい。私が、見ていなくては。そして、亜意。無双双児は、放っておいても生き残る。だが、亜意は何処までも行ってしまう。見ていなくては。
「付いて来るべきでしたか?」
「当たり前ー」
かなり、危険な予感。無双双児は、勘を大事にして生きて来た。勘によらずとも、今回の戦場は不味い。あのアカが、復活を必要としたようなのが、敵。敵は、アカを追い込める。かつて軽兵と3人がかりで、しかも未熟だったアカを相手に、足止めしか出来なかったのだ。自分達は。
「おっちゃんを、蹴速より先に潰して、生き残らせて、家来にする」
「全く」
あの神は、まだアインシェンをうろうろしていて不思議でないのに。
溜め息を吐きつつ、止めない。本当に、止める気なら。片割れを後ろから攻撃。意識を刈り取り、強制的に止めただろう。
「ありがと」
「はいはい」
お?はいはい、なんて、適当な言葉遣い。まるで祝寝みたいだ。
「蹴速君。僕も、守ってね」
「当たり前よ。お前は、おれのものよ。必ず、守る」
「うん」
幸せそうに笑う初三千世界。だが、奇異。初三千世界にしては、大人しすぎる。蹴速は、少し心に留めた。
光。
既に超騎士の結界は、全員に張られている。例え太陽に浸かっていても、ものともしないはずなのに。
「お帰り、黒天」
「久しいの。光天」
まぶしい。直視出来ない程の、光の塊。辛うじて、人間の姿のように見える。
「シロ?」
「少し、話そうか」
シロ以外の者の姿が、消えた。
「相も変わらず。ゴーイングマイウェイじゃの」
「?新しい言葉だね。君が創った言葉は、どれも美しいよ」
「わしの、ではない。人間が勝手に作ったものよ」
「そんな言葉は、似合わないよ。君には、この常世の言葉が相応しい」
「本当に。全く」
目の前の者。魔神シロが言うのも何だが。適当過ぎる。軽過ぎる。
・・・・誰の位置も認識出来ない!完全に分断された。
「あの方にも困る。このような者共を招き入れるなど。デウスが調子に乗るわけよ」
超騎士の知覚範囲に、急に現れた。
「事情を知っているようですね」
「生来の魔ではないようだが。私は優しくないぞ」
「気が、合いますね」
超騎士は、敵に容赦しない。
ふん。見渡す限り、花畑。常人なら、綺麗とでも言っただろう。
「邪魔くせえ。走るには、不向きな地形」
「同感だ」
何時の間に、とは言わない。寸前に違和感は察知していた。空間の振動も。
「律儀に1人かよ。決闘ごっこのつもりか?」
「1人でも、お前如きには有り余る。そんな所だ」
挑発を挑発で返された。亜意の目論見は崩れたが。
何の問題も無い。
「やばい?」
「やばい」
とりあえず、全方向に気を放出。華麗な庭先を全て破壊した。
「野蛮な」
破壊したはずの見事な庭園が、元通りに。
「敵かな」
「敵ですね」
「まあ」
驚いた、そんな顔と手振りで。しかし、
「油断すると」
「死にますね」
「うふふ」
楽しげな婦人。女性体。シロの同族?
「黒天様には及びませんわ」
だが、この、威。
最初から本気で行かないと!
「君・・」
「僕。君は僕。僕は君。やっと、お役目が終わったのかい?」
「・・・・・違う。僕は、違う」
「何を言っているんだい。僕らは、仲間じゃないか」
それは、初三千世界と全く同じ姿。顔形。
「それでも、違うんだよ」
服を、触る。アカが選んでくれた。蹴速が似合うと言ってくれた。続三千世界と、おそろい。
肩を撫でてくれたのは。
「僕は僕。僕は、僕の生を生きているんだよ。きっと君だって」
「?・・・分からない。修理してもらおう。そうしたら、また僕になれるよ」
「僕はお母さんだ!続三千世界も蹴速君も待ってる!僕の居場所は、もう、此処じゃない!!」
初三千世界は吼えた。己を叫んだ。
すらり
神砕きを抜き放つ。
妙な、懐かしさを覚える。
「来たか」
「何奴」
「父祖に向かって。口の利き方が、なっていないな」
「ほう。だが、間違っている」
切っ先を、父祖神に向ける。
「俺は、コウチ3名家が1つ。二神当主、二神 太郎花八郎神無。頭が高いのは、お前だ」
神気。神砕きを、十全に活かせるだけの。
「ほう・・」
言うだけの事は、有るか。
「見せてもらおうか。口先だけでないと、良いがな」
「ほざけ。そして、知れ。これが、俺の継いだ剣」
親がくれた二神の力。己黄と海鶴がくれた神砕き。俺を生かし続けた者達の、俺を助けてくれた者達の、俺達の生き様の力を。
知るが良い。
子孫の成長に、ちょっと嬉しくなった神は。出すつもりの無かった本気を、出す。
「黒天。紹介しようか」
やはり突如現れた、2本の足で立つ、虎の顔の者。
「え?あれ?」
「自己紹介しなさい。黒天だよ」
「光天様?・・・・・・おお!!??は、初めまして!あの、おれ、黒天様の、おこもりになられた後の、魔獣を司る神として作られた、天虎です。お会い出来て、光栄です!」
「うむ。健康そうじゃの」
シロと光天の側に居て、死なない。今、光天はその神気を全く抑えていない。例えば蹴速が気を全開で集中したなら、常人だけでなく、それなりの兵であっても、近くに居るだけで消し飛ぶ。無双双児レベルになれば、同じく気を集中する事で対抗出来うる。この天虎も、そんなレベルだ。
更に言うなら。光天の神気は、蹴速の気を凌駕している。
アインシェンの山中深くで、魔獣と共に昼寝をしていたはずが。本物の、黒天様にお会いする事になろうとは。あの子達の巡り合わせかなあ。
「良し」
またしても、突然消える天虎。
「どうだい。わざと黒天には似せなかったんだ。黒天は、たった1人しか居ない。誰も黒天じゃない。そうだろう?」
「・・・ふむ」
勝手気まま。大体適当。己の好いたようにしか生きない。
「それは。黒天には、要らないものだよ」
「確かに、似ておるな。わしの夫に」
「違う。黒天。君は、誰かのものになるべきじゃない」
「ふふ」
穏やかに笑うシロ。真剣な光天。
「戻っておいで。君の居場所は、此処に有る。邪魔なモノが有るなら、すぐに消してあげるから」
「本当に、似ておる」
オ
風。この空間には有り得ない、熱い風。
「人聞きの悪い事よ」




