魔獣の神。
アインシェンは、暇だった。
「襲撃が、来ない」
「平和で良い事だが。何時来るかと、神経をとがらせていては、な」
アインシェン到着後、1週間が経過した。その間、神々は全く来なかった。
星は、降っている。来星と行星も飛び回り、見て来てくれた。それでも、何も来ない。
三十鬼と熊大将は、アインシェン首都のホテルを間借り。臨時の支部として利用していた。宿泊費等は、コウチにツケる。幸い、三十鬼と熊大将の顔は、アインシェンで効く。情報は得やすかった。
ルームサービスを使いまくり、クロとマクロには、戦闘の手伝いを頼んだ。家事はしなくて良い。
「およそ、ダイコウチ全土の騒ぎは収まったようです。こちら以外は」
クロと魔神はつながっている。シロの許した範囲の情報は、クロも得る事が出来る。
「どうする三十鬼。1ヶ月待って、何も無ければ帰還するか?」
「ああ。しかし、随分長く感じてしまう。たったそれだけの期間を」
「すっかり、蹴速の時間感覚に慣れてしまったからな」
今までの自分達の時間の数十倍の速さで動き回る蹴速。その仕事感覚もまた、速かった。蹴速に付き合ってアチコチ飛び回ると、色々ずれて来る。
そう思いつつ。誰も皆、蹴速に付いて行けたので、人の事は言えない。
「無双双児が帰って来たら。今日はお開きだな」
「ああ」
ミラクルロイヤルシュガーハニースイートを借り切っているので、部屋の広さは、8人で泊まっても余裕が有った。部屋の片隅で服の整備をしている兄妹の姿があって尚。
不安は有った。魔獣と称される生き物に、さて自分達の技術は通じるのか。実は、効かないのでは。それに、簡易メンテで足りず、1戦ごとに青星の研究所に帰らなくてはならないなら、使い物にならない。これも実戦で試すしかない。ことによれば、地上、水中、そう言った場所は宇宙より過酷だ。人間基準なら宇宙は死の空間だが、土や水は、機械に取ってのそれなのだ。
それでも、来て良かった。自分達に行軍の経験は無い。顔見知り、と言うか家族の三十鬼達となら気兼ねする事も無いし。
実験が、幾らでも出来る。
「お兄ちゃん、ここどうするんだっけ?」
「ええと。肩か。手指用のジェルを使わなかったのは正しい。肩口は、胴体部用のジェルを使う。イエロージェルだ」
「だよね。お母さんも、どうして統一してくれないかなあ」
「耐久性の違いだって説明受けたろ。手先は柔軟性を維持しなくちゃいけない。胴体部には、反射材と防御能力の獲得。そのために別のコーティングが必要」
「この服で、指先の自由度なんて、必要ないよー」
「そりゃ、何時でもアンカーを打ち込めるならな。そうでないなら、グリップは絶対に必要だよ」
このスーツには、腕部に相当する部位が、手足4つ分付属している。作業中、静止する必要に駆られた場合のフレームだ。普段は、服の手足の部分にポケットのように沿わせてある。外から見ると、ゴテゴテした服装に見えるが、まさか展開するとは思わないだろう。
熊大将は、まるで仮要明の話を聞いているようだ、と思った。ミヤザキで、家で、何度か飛行機械について話を聞いた事が有る。
三十鬼は、まるで付いて行けてなかった。すごいな、としか。
クロとマクロは、風呂だ。今日も動かなかったので、稽古に汗を流していた。と言っても、クロには武術などの戦闘技能は存在しない。純粋に、魔力での圧し合いだ。マクロの危なくなる手前まで押し込み、限界を引き上げる。クロに対抗出来るようになれば、魔王とも対等以上に張り合える。
「面白いものが、沢山有りました」
「そうですね。こちらでは、ダイコウチでも珍しいものが見れます。少し前に、神無様のお土産で拝見しましたが、覚えていますか?」
「はい。確か、奇妙な仮面でした。魔獣を象ったにしても、もう少しやりようが有るように」
「ええ。ですが、何かの意味無く人は作れるものではありません。昔居た魔獣の危険性を子孫に伝えるため、仮面と言う形を取った。あるいは、魔獣の力を人に宿す願掛け」
例えば三鬼のように。
「アインシェンは人魚とも、コウチより先に同盟を結んでいた国。魔なるモノとの親和性が、高いのかも知れません」
「なるほど。お母様のお話は勉強になります」
「いいえ。これらは、全て想像に過ぎません。熊大将様が、ナインライン中を回ったお話は、聞きましたか?」
「はい。今でも、新しい物語を聞かせて頂いています」
「そう。実際に動き、会う。これ以上の情報収集は、有りません。読心であろうと、それが事実か否かまでは分からない。歯牙様の見通す力、もしくは魔神様の目が必要でしょう」
「新しく知る事ばかり。私は、まだ何も知らないのですね」
「私も、ですよ。魔神様のみでしょう。知っている、と言い切れる存在は」
知る、とはどう言う事か。長の月日に渡って魔神側仕えをして来たクロでさえ、良くは分からない。クロは、知識だけなら、それなりに有るのに。知識を蓄える事を、知ると言う・・。それで良いはずだ。何も間違っていない。
だが、それで頷いてはいけない気持ちが有る。これは。
良い山だ。虫も獣も土も水も木も、元気が良い。
「良いねえ」
「ええ」
山を走る。樹上を飛び回り、観察するが、故郷と大差が無い。あちらには居ない魔獣がうようよしている世界なのに。故郷は、故郷だった。
少しばかり郷愁を味わい、お魚なんぞも焼いて味わう。
「良いねえ」
「ええ」
川魚なので焼かないと危険だ。素手で掴み取った魚に、気を通す。両手で挟み込めば、芯まで熱が通る。
最高状態なら惑星を破壊出来るレベルの力を、魚を焦がさないよう、中には火が通るよう、調整する。
リュックサックに何時でも入っている塩をふりかけ、食す。美味い!
美味しい匂いに、魔獣もやって来た。
神も。
「美味そうなものを食っておるな、人間」
「うん!」
「お一ついかがですか?」
「良いのか?悪いなー!」
言いつつ、口に放り込み、すごい勢いで食べる。
獣の頭部と言うか、二足歩行する虎。四肢は間違い無く、獣。爪も手の大きさも。だが、間接の機構は人間。今までの報告に有った神々は、服装すらも似たり寄ったりの、人間にしか見えない外見だったはず。
魔獣が、大人しい。ある程度寄ってきたら、殲滅するつもりだったが。魔王なら、キなら、魔獣を従わせられるはず。この人も?
「いんや。おれは、純粋な神よ。まあ、神の間では、つまはじきにされとるし、魔獣と相撲を取ったりしとるけどな」
読心程度は出来るのか。見た目通りのザコではないのだ。
自分の食べ終わった魚の骨を、そこらの魔獣に投げ与える。あんな小さなので、足りるわけない。
「そりゃそーよ。ま、珍味だ。焼いた骨なんて、こいつらは普通には食えねえ」
「焼いた魚をくれてやれば良いじゃない」
「そしたら。おれが、食えねえだろ」
確かに。
双子は、自分達の取り分を確保するのに、躊躇するような情を持ち合わせていない。だから、目の前の神の行動は理解出来る。だが、それなら、最初っから、魔獣に与えずとも良いではないか。
「だって。おもしれーじゃん」
「食べてる姿が?」
「そ。ちっこい骨を、ボリボリ食ってよ。たまに歯に挟まるんだぜ、こいつら。知ってたか?」
「いいえ」
ヘンな人。
「ここ、ここ」
そう言って、魔獣の口を開いてみせた。迷惑そうな魔獣に構わず、大きく広げた口内の、人間の頭ほどの大きさの歯を一々解説して行く。
「おっちゃん、怖くないの?」
「全然。だって、おれ。魔獣の神様だもの」
「ふーん」
嘘だ。
「いや、まあ、待て。分かる。お前らの疑問は当然。お前らの、その、魔神様?そのお方が居る以上、魔獣の神も自然、魔神様だわな」
「その通り。よって、あなたは始末せねばなりません」
「待って!」
両手を前に差し出し、頭を下げ、全力で止めるポーズ。あくまでポーズだったために。攻撃と思い、迎撃の気を出した無双双児に吹っ飛ばされた。
「死んだかな」
「いえ。無様に転がりまくりですが、ダメージは入っていない」
謀りを繰り出すモノを生かしておくのは、不快だ。殺すつもりで撃ったエネルギーだが。
「待ってって言った!おれ言ったろ!おれは、戦いたくないの!!」
「何故?」
「何故って・・。お前らこそ、なんで、昨日今日会った奴と殺し合えるんだよ。おれを食う気なら、ともかく。お前ら、ただ殺すだけじゃねーか。そんなんで、何が得られるんだ」
「あなたの居ない世界が。私達にとって、今より自由な世界が」
「おれ達、邪魔なモノは要らないんだ」
神々。この世界を騒がせているモノ。自分達の障害になりうる。死んでもらう。
「・・・ええい、この通り!」
お辞儀。
土下座ではない所が気に入った。
「話を聞こうか」
「それで良いのですか?」
珍しく双子の意見が分かれた。こんな時は。
「良い」
「ならば、そのように」
より強く想っている方の選択を優先する。
片割れは、蹴速様の影響を強く受けている?と思った。
「ありがとう!で。おれは、お前らと戦いたくない。しばらく時間を潰して、帰るから。だから、お仲間にもそう伝えてくれ」
読心は、能力者によって深度が変わる。魔神なら、その者の全ての情報を獲得するだろう。本人が覚えていない事までも。だが、この神は、自分達の知識の表面だけを視ているようだ。これなら、生かしておいても良かろう。
「それは、甘く見過ぎ。助かるから良いけど」
「やはり消しませんか。この方、生き汚い。強くなるかも知れません」
「殺さない。面白いもん」
今度は、女の子の方の意思が強い。男の子は、強気でなくなった。
風向きが、少し変わったのを神は感じた。
「じゃ、じゃあ、そう言う事で!早く国に帰って、蹴速さんとやらと仲良くやりなよ!」
魔獣にまたがり、駆け抜ける神。・・・自分で走らないのか。獣の足を持っているのに。
「何故。生かしたのですか?納得は、行っておりませんよ」
鋭い眼光。この双子、普段は意見を全く同じにしているため、喧嘩自体、年に1度もしない。が。始まった喧嘩は、どちらかが折れるまで、何者をも巻き込んでも止まらない。かつては、蹴速を巻き添えにしかけた。その時は、2人仲良く蹴速に動けなくなるまで痛め付けられた。楽しかったなあ・・それはともかく。
「あのおっちゃん。楽しかった。生かしたかった」
「・・・それなら、仕方有りません」
「ありがと」
抱き付き、謝意を示す。抱き返してくれた。
楽しいは、正しい。人生そのものだ。それを、あのヘンな人に感じ取ったと言うなら。仕方無い。
ホテルに帰った2人は、今日の出来事を家族に伝える。本当に、生かして良いのか。無双双児から漏れた情報を、伝達されるのは、不味くないか。熊大将と三十鬼は、考えた。考え、判断した。
「では。帰るか」
「ああ。神々の危険性も無さそうだしな。家に帰って、稽古でもしよう」
およそ、5秒。2人の思考時間を用いての決断。どの道、天とか言う場所に攻め込むのだ。それまでに、何かの策を用意されると不味いが。魔神と同レベルの敵が居るらしい。ならば、千里眼も何もかも思いのままだろう。警戒は必要ながらも、無双双児が気持ち良く戦えない心情に陥るのは、もっと不味い。
頼れる戦力なのだ。思う存分、全力を出して欲しい。
「あれ。戦闘は無しですか」
「らしい。おれ達は移動テストだけだったな」
アインシェンまで、兄妹の服で全員を連れて来たのだ。マクロの張ってくれた結界で、不自由はしなくて済んだが。
「お前達をわずらわせるまでも、無い。そう言う事さ」
一行は、即日帰還した。それでも、しばらくの警戒はするようアインシェンに伝える。




