デウスとの戦い。
ヴァイキング到着。
「メイルに会う。近況を確認し、必要ならばコウチへの救援を頼むよう伝える」
「ふんふん」
わざわざヴァイキングまで飛んで来たのは、それまでの地域の被害も確認するため。やはり、世界中に星は降ったのだ。
以前、コウチへ来たメイルと顔は合わせた。が、覚えてはいないだろう。
砦で対応に追われていたメイルに会うのは、少し手間取った。こちらにヴァイキングに顔の効く存在が居ないので、恐らくの居所を狙って窓から入るのを繰り返したのだ。
「突然ですので、驚きましたが。来て頂いて、安心しました」
有り難い事に、メイルはこちらの顔を覚えていた。
星の被害はそれなり。大風よりは大きい。運悪く、1つの砦に直撃し、多数の怪我人と死人を出した。だが、言えばそれまで。ヴァイキングの壊滅と言った事態には程遠い。
それを心配されるのが、グリス。グリスは、以前の災害から完全に立ち直れているわけではない。そこにこれは、辛かろう。ダイコウチからの定期的な援助も、あくまでいつも通りの分量でしかない。グリスの被害状況を知る必要が有る。
「こちらは、それでも現在の仕事を維持出来ます。情報はいつも通りに」
「そうか。コウチには、良く伝えよう」
キの仕事は、喋り過ぎない事。メイルを長としたヴァイキングはコウチに忠誠を誓っているが、コウチからの直接支配は出来ていない。そこを信じるのが、支配者の器と言うものだが、キは心を配る。不要な事は言わない。
復旧に向けての支援を3名家に伝える事も約束。これは、あらかじめ梅から聞いている。故に、必要な量を計算し、書をキに渡せ。
また来ると残し、グリスへ。ひどい事になっていなければ、良いが。コウチの負担が大きくなるから。
グリスは、静かだった。
「不思議だな」
「んー」
災害が起きていたのなら、救助、復旧に向かう人の流れが生じる。そして、空から見渡した限り、ぽつぽつ星も落ちていた。
だが、今の静けさは、まるで皆が礼拝にでも赴いているような。このアテネイは、グリス1の都市のはずだが。
1度来た事が有るキの案内で、グリス神族の中心部、神殿へ向かった。
先導していたキを、後ろに下がらせる。まだ、到着していないのに。
「敵か」
「うん。かなり、ヤバイ」
真剣な顔のアカ。ならば、まだ大丈夫か。大真面目に仕事をする、仲間を守る顔。強大な敵に会った、高揚し紅潮した顔では、ない。まだ大丈夫だ。
神殿に、居る。だが、問題は、グリス神族も其処に居るのだ。コウチ支配下のそれらを無駄に殺すのは、信を失う行為。梅らの仕事を増やすと言う意味でもある。それは出来ない。
ただ歩いて、敵だけを連れ出し、殺す。キは待機。
「合力は要らない」
「ふむ」
黙ってかけていたが。
「周りを巻き込みそうだったら、お願い」
「ああ。頑張れ」
「うん!」
アカの感覚に引っかかった強者の気配は、神殿の数体。それら以外には、強いモノは無い。
高い、人里から少しだけ離れた山の頂上に有る神殿。大勢の神族が居る。神殿の外でも、ひざまずき、中に居るモノに頭を下げている。
アカは、神族に触れない。コウチへの反逆で殺すなら、やっても良いが。誰からの指示も、まだ受けていない。見逃しても良い。
神殿に足を踏み入れようとしたアカを、結界が阻む。以前キがやって来た時には、このようなものは無かった。だから、アカもそんなものは聞いていない。
無いのだから、
壊しても問題無い。
ぎおおおお
神殿は崩壊した。結界は神殿の柱を機軸に組まれていたのだろう。だから、アカが結界を無理やり引きちぎった影響をモロに受けた。
内部に女子供が居た場合かなり不味いが。
蹴速が怒らなければ。やはり、何の問題も無い。
数体、厳密には、4体。アカの力を超えている者は、ゼロ。
ただ、拮抗している者は、3。
「止まれ。近寄る資格の無き者よ」
まず、1体。最も弱い奴が近寄って来たので、容易く殺せた。
残り3。
「おれが行く。無駄に消えそうだからな」
最も強い奴が来た。
「久しぶり、ってもお前には分かんねーか」
「うん」
大柄な肉体。薄いローブの軽装だが、金属鎧など比較にならない程の堅さを感じさせる。
マシロの読んだ記憶によると、大神デウス。神々の頂点を自称するお調子者。だが、自称し続けられる。それを誰に咎められる事も無い、本物の実力者。移し身であるゼウスは、本体のデウスの10分の1以下の力だった。
これらの情報は、アカ達にはまだ伝わっていない。
だが、アカのかけた読心が、効いていない。少なくとも、アカ以上の魔力。
「魔力じゃねえよ。神性っつーんだ」
こちらには読心が通じている。と言っても。
「馬鹿か・・普段の魔力防御を下げている?」
「ふふん」
皆の稽古に付き合うため、魔力に慣れさせるため。普段は、魔王の中で最低の魔力密度に抑えている。魔王中最高の肉体強度を持つアカだから、こんな事が出来る。
そして、どうにも目の前の敵は、軽い。自分が言うのも何だが。アオミドリより遥かに軽い。
がっかりさせないでね?
「こっちの言う事だよ」
神気を開放した。アカも遅れて、魔力を全開。気も全力。ただし、グリスを崩壊させないように。
残りの2人は、周りの神族と共に距離を取った。
さて。空中でやると、アカには都合が良い。
と言うわけで、空に出てみた。追いかけて来るか、どうか。
「置いてくなよ」
来た。んー。
素直。あまり考えないタイプ。
蹴速?
ここで、アカは自分自身が、とは思わない。自分を賢いとさえ思っている。身の程知らず、ではなく。蹴速と戦い続けられる、仲間と家族と一緒に居られる自分の生。それを選択出来た事を思えば、愚かであるなどと言う答えは見当たらない。
もう、読心が効かない。魔力が集中されているためだ。デウスもアカを敵として認識した。ザコではない。
ドオ
突っかけたのはデウス。その場、空中で一歩も動かず、雷撃をアカに食らわせた。
「がっかりさせないでって。言ったのになあ」
アカの皮膚には焦げ跡も無く、身体の動きにも何の乱れも無い。
「は。手加減は、要らねえか」
ド、
先程の雷は、自然現象レベル。神気を混ぜたデウスの本気、ではない、様子見の一撃。今度こそ、手加減抜き。
だったが。
本気の雷撃より速く、アカの拳がデウスを射抜いた。空で収束したままの雷は、放たれる事無く、拡散する。
「ぬ」
アカは、最初から全力。それでも、デウスは意識を失っていない。痛みは、有りそうだが。
全力。腹を打った右拳を引き抜く事無く、魔力を全開、そのまま体ごと押し込む!
オ
止められた!腹をブチ抜くつもりだったが。
「今度は、がっかりさせない」
そのまま、腹で弾かれた。手で退けたのではない。純粋な神気の威のみ。アカの気と魔力を込めて、全力で押し込んだそれを。
にい、い
アカの口元が歪む。蹴速と相対した時と同じ笑みを作る。
アカの完全集中を感じ取ったキは、神殿付近には近寄らず、市街地に向けて簡易結界を張った。はっきり言って亜意の攻撃でも破壊出来る程、弱い結界だが。気休めにはなる。守護に成功したなら、コウチの威を振りかざせば良い。失敗したなら、知らぬ振り。これで良し。
3名家の支配化に在る民。それらを守るのも、頑張ってみよう。
キが結界を張った。つまり、条件が付いた。
キの結界を破らない。その上で、勝つ。キが張ったからだ。仲間の意思を蔑ろにするのは仲間ではない。
おれはキの家族だ。キの守ろうとするモノは守る!
一旦距離を取ろうとした瞬間に来た、電撃。
ヴィ、ア
軽い音だった。柔らかと言っても良い。
全身を黒焦げにしたアカの姿さえ無ければ。
「がっかりする暇も無かったろ?」
今の本気の雷は、その気になれば全世界に等しく降らせる事も出来る。グリスへも、神罰として全家屋に降らせられたが。ま、全知全能。これぐらい、子孫へのサービスか。
それより。・・・この魔族、自分の支配化の地だからか、人に被害を生じさせないよう戦いに臨んだ。
「あいったー!」
真っ黒な炭から瑞々しい肌と、その上の赤い装束。
復活に5秒かかった。あんな、表面を焼き焦がされただけで。
「すごいな。お前」
素直に感嘆する。下等種族の分際で、良くぞ生き残った。
「君も、強いねえ」
世界には、まだこれほど強い奴が居るのか。
「これ」を食べて。そうして、蹴速君と戦ってみよう!
お互い様の2人だった。
アカの速攻!敵の火力はジン程じゃあない。防御に気を配る必要無し。
デウスの目論見としては、雷を以って片を付けるはずだった。だが、魔族はピンピンしている。んん?
これは、もしや、ピンチなのでは。
殴られ続けるデウスは、意識を失いかけながら、適当に電撃を放った。
ア
自分の体を通り過ぎようとした雷を追いかけ、手で拾い、雷の拡散を防ぐ。
デウスは、その数瞬で回復した。そして、炎。これもグリス全域を焼き尽くして余りある攻撃。
やはりアカは全身で受け止めた。今度は、焦げない。火はアカの領分なれば。
お返し。
神気で固めた肌が、焼け、いや溶けて行く。
魔獣化した状態なら、アカの炎は銀河を焼く。真空の宇宙空間さえ燃やし尽くす。今のままでも、自分の魔力と同程度の神気なら、貫ける。炎の吐息は、そこに気と魔力を集中させているからだ。
溶解し、どろどろになった敵。だが、このままでは復活する。
どろどろを魔力で固める。亜意みたいに上手くなくても、目の前の塊をどうこうする位の魔力操作は出来る。
ガチガチに固めたプリンが完成した。
ぺろり
一口で食べた後、あ、キと半分こすれば・・・と思い立つ。
自分の腹を貫き、まだ吸収していないプリンを取り出す。おっけ、復活もしてない。・・・言わなければ、食べかけって分からないよな・・・。
神殿の跡から、適当に皿を見つけ、魔力で作った水で洗う。そしてプリンを載せ、キの下へ。
「あ」
そう言えば、もう2人居たか。
デウスを殺され、戸惑ったまま動けなかった2神。こんな事態は、想定していない。あまつさえ、大神デウスが、食われた。
プリン皿を持ったまま、残り2人を八つ裂きにした。神気自体はデウスと拮抗していたが、いかんせん武芸に未熟。片手のアカが2人同時に相手取ってさえ、アカには攻撃が当たらなかった。特に興味も湧かなかったので、塵にした。
「おーい。おやつだよー!」
そこでプリン売っててさー、と話すアカ。
何故、店売りプリンの皿まで持って来る・・。そして半分。更に、アカの魔力が染み付いている・・。
ぺろり
プリンは嫌いではない。
何故、店売りのプリンを食べて、自分の力に違和感が発生しているのか。先程の溢れんばかりの神気は何処へ消えたのか。
そして、己の魔力に神気が混ざった。混ぜこぜになった魔力と神気は食い合い、キの中で衝突し合う。
「う、ぐ」
アカが魔力を渡してくれる。助かった。
・・・お前のせいだがな。
「強くなったでしょ」
「まあな・・・・」
危うく死にかけた。敵との戦いでではなく、味方からの差し入れで。
だが、確かに身体内部の魔力の流れが良い。肉体の強度も上がったようだ。操作出来る密度も、今までと全然違う。そして。
「お?」
「どうだ」
「冗談みたい」
アカは、自身の力が、倍以上になったのを感じた。今までのキの合力なら、わずかな上昇だった。それでも、魔王にでも下級魔族にでも誰にも効く能力。そして、軍団全員に行き渡らせる事も可能。だから、キの統率力は魔王中最高だったのだ。
「これで、おれも戦闘の役に立つようになったか」
蹴速やアカの訓練には要らないし、必要とする敵も初三千世界ぐらいのものだろうが。それでも、家族の誰かの役には立てるだろう。
キは、少し微笑んだ。
まだ、足りないか。アカは、もの思ったり思わなかったり。
グリス神族に確認を取る。グリスは敵か味方か。
敵に付く者達も居た。コウチに、ジンに付く者も。敵に付く神族は、天に昇るらしい。へー。
どうする?
何もしない。梅から殺して良い許可をもらっていない。
でも、敵になるんだよ?
味方の神族の前で、敵方に付いたとは言え、知人、親族であったかも知れない者共を殺すのは、うまくない。天、とか言う場所で、まとめて殺した方が良かろう。
なるほどー。
もう少し言うなら。今は気が動転しているはずだ。あれ程の神気をまとった者。ただ事ではないだろうし、神族とも無関係ではないだろう。何にせよ、神族が落ち着いてからだ。それからなら、恐怖で押さえ込める。それまでは、恐慌を煽る真似はするまい。グリスと言う財産を梅らの許可無く削るのは、いけない。
ヴァイキングに戻り、数日の逗留。ヴァイキングの被害報告書と、グリス神族の居残った主だった者ら、天に去った者らの名簿。そして、グリスの被害状況の書。これらを持ち、キとアカは帰る。




