神の降る里。
華虎は、神化を用いた神切を相手に勝つ自信は全く無い。
だが、目前の敵は。神切ではない!
「何者だろうが。舐めてんじゃねえ」
踏み込む。無造作に。
敵の戦術は、然程変わりが無い。掌を押し出す。それだけで、50メートル範囲は攻撃を受けている。
華虎には、当たらないにしても。
生け捕りが最上。しかし、こいつを捕まえておける檻に心当たりが無い。神性を失わせるのは、なんだっけなあ・・。
神朗は、出るタイミングを伺っていた。華虎を失うのは大き過ぎる。三鬼との関係の悪化は、二神に取って絶対に避けるべき事。ある意味、一一人よりもコウチ運営に重要な存在なのだから。梅が、そこまで気にするはずもないが、それでも人は無意識に想ってしまうものだ。
神化を、何時使う。それだけを、神朗は計っていた。
神朗の出番までに、技を使い切らせる。神朗唯一の弱点は、実戦経験の少なさ。神無のスペアとして育てられた神朗は、蝶よ花よと育てられた。と言うのは言い過ぎにしても、万が一の事態は絶対に有ってはならない事だった。危険な戦闘には出た事が無い。故に、神朗の目の前で、敵の戦力を明確にする。神朗は、決して無力ではない。上手くやれば、華虎より強い。その強さを引き出すのが、年長者の仕事だ。
吐息。
敵のそれを認識した華虎は、本気を出すのだと察した。故に、今までと同じ入りをしつつ、今までは見せていなかった攻撃パターンで牽制。実力を100パーセント発揮だなんて、させるかよ。
華虎の剣は、入らない。敵の皮を斬る事すら、出来ていない。しかし、敵の攻撃も、華虎には擦る事も無い。
妙に読みやすい。まるで素人。こう来ると思った所に、本当に来る。
これだけの圧力で、素人もないだろうが。
「ハエを素手で取ろうとした愚か」
敵は、手を止めた。これを機に周囲の敵も動くかと思ったが。
動かない。仮にも元コウチナンバースリーを相手取り、その余裕。
こええ。・・誰でも良いから、とっとと応援に来いよ!
「待たせました」
来た!
「早かったじゃねえか、息子」
「そうでもないぜ、親父殿」
蹴速が来た。コウチへ連絡が行ったとして、1分経っていないはず。笑うしかない。
「今度は、魔か。汚らわしい」
「ほう」
現在の蹴速が魔族である事に、説明無しで気付いた。
「神朗!良く保たせた!」
「は!神無様の露払い、見事華虎が務めました」
蹴速は、両脇に2人抱えてやって来た。1人は神無。そして。
「愚かなり!!魔に身を委ね、往生せい!」
謎の口上を述べるマシロ。
読心が使え、簡単に死なない。そして、1度蹴速の側で動かさせ、もちょっと野心を抑えて欲しい。
捕らえる。マシロ、出来るか?
「もちろんです!」
蹴速の心を読んだ。マシロは、この場の全員に読心をかけているはずなのに、蹴速の心に即応した。この処理能力は、読心の能力ではない。マシロ自身の能力。普段の言動で明らかなザコにしか思わせてくれないマシロではあるが、魔神の血肉を受け継ぐ蹴速の子なのだ。その両者を除けば、身体のスペックで劣る相手は、そうは居ない。家にゴロゴロ居るのは、気のせいだ。
何の構えも無く、ただ敵に向け歩く。蹴速ですら、もう少し気を配った歩き方をする。
「人の子ならいざ知らず。魔を生かしてやれる程、寛大ではないぞ」
敵もようやくその気になった、が。
「惰弱め」
マシロの歩みに合わせ、敵の周囲の魔力密度が跳ね上がった。
通常、神性を持った者に、このような攻撃は効かない。神気が弾くからだ。
しかし。敵は、その神気にも関わらず、押し潰された。更にその惨状を見、警戒したはずの残りの敵まで、全てひしゃぎ、神性を持った肉体を血を、丸めて圧縮。美味しいホールケーキの出来上がりだ。
ふふふ。1番大きい部分は、私がもらうとして。兄弟姉妹にも食べさせ、恩を売りましょう。
蹴速は、自身の重さを操る能力と似ている事に気付き。少しにやついた。
・・・・・・情報を得ず、ただ殺した・・・・?
神無と神朗の可愛らしい疑問は、すぐに氷解した。
「分かったか?」
「はい。全ての知識を取り込みました」
敵肉体に刻み込まれた情報は全て。マシロの魔力を通して、マシロ自身に入った。つまり、脳の記憶知識感情、全てだ。
これを魔力の使い方を覚えたばかりの者がやると、自壊する。何処からが自分のモノで何処からが取り込んだモノか、区別が付かなくなり、人格の崩壊、技術の喪失などが危ぶまれる。己の魔力の染み付いたモノが理解出来ているマシロは、その年齢にしては、本当に宇宙最高の存在だと思われる。
神朗、華虎と中つ国の被害状況を確認。世界規模の災害である認識を共有。
「あの敵の正体は」
「神。神族を生み出した、源。魔族に取っての、お母様、魔神のような存在。その神々が、この世に手を出し始めたのです」
敵方の知識を全て取り込んだマシロが説明してくれる。
「神」
神無と神朗には、衝撃が大きい。それは、この中つ国の者達に取っても、だろう。これを公表すると、中つ国は再度敵に回るかも知れない。
中つ国に、そしてコウチへ流れ着いた二神にも神の伝承は有る。彼らは、人にこの世を任せ、彼らの国へと帰ったはずだ。はるかな、一一人の歴史よりも昔の事。それ故、正確な覚え書きではなく、物語の形を取り、人々の記憶に残されている。
「お母様に聞いてみなければ、正確な所は分かりませんが、彼らの認識では、世界は神が創ったそうです」
「だろうな」
神無にも異論は無い。そもそも創世の歴史など、確認のしようも無い。偶然であろうが、何であろうが、生きているこの時代に関係無い。神が創ろうと、自然発生であろうと。神無は神族たる自分を誇りに思っているが、それは自分の親の血筋だからだ。会った事も無い他人の血を誇っているのではない。親近感は有るにしても。
「現在の襲撃状況と動機は分かるか?」
「ダイコウチと称される世界全て、に神々は降り立ったそうです。それぞれが、バラバラに気ままに動いているため、詳細なスケジュールは不明。動機は、魔族の蔓延った世界を浄化するため」
・・・まあ。魔王魔神が好き勝手に歩き回り、子まで生している。蔓延った、は誇張表現では、ないが。
その、魔王級の濃密な魔力が世を巡り、神々も気付いた。
今まで、こうも長い間、魔王達が魔界から出て来ていた事は無かった。蹴速が来てから、色々な事が変わった。
「神は、強いか」
「ピンきりですね。先程のは弱い方の部類。地上に降りた最強は、グリスに向かったそうです」
「ああ。あそこも神族の国だったな」
「ゼウスと名乗った、お父様の殺した者。その本体であるデウスが向かった模様」
あいつか。かなり面白い奴だった。本体か。
戦ってみたかったな。
そう。アカと出会う以上、蹴速が戦う事は無い。
中つ国への増援は、恐らく無い。神々にきっちりした連携は無く、生きて帰ろうが帰れなかろうが、救援と言う概念すらも無い。殺した結果を不安視する必要が無いのは、かなり有り難い。
逆に言えば、戦略的な意味を必要とせず力を振るうと言う事。まるで、蹴速のように。
中つ国から帰還した3人を、同じく地球から帰還した亜意、超騎士、アオミドリが待っていてくれた。
「おかえりなさいませ」
「おかえりー!」
手を上げてくれる亜意。
蹴速達と話の確認をする。
「地球には、何の異変も有りませんでした。日本本部にも寄ってみましたが、目ぼしい情報も無く」
「海の国も同じく。海王とアミノンに、蹴速は?とせがまれた」
「青星も。星が降ったのは、こちらの世界だけっぽいね」
3人は亜意のゲートにて、地球、海の国、青星を回り情報収集に勤しんでくれた。
「後は、梅と三十鬼らの報告待ちやな」
梅は護衛の初三千世界、続三千世界と共に東の南、山脈に向けて神隠しで向かった。
更に三十鬼、熊大将、無双双児、来星、行星、クロ、マクロがアインシェンに。こちらは、マクロの訓練、来星達のこちらへの慣れも兼ねている。
そして、家の留守を守ってくれていたシロの機嫌を取る。
「面白い事になりゆ。不謹慎やけど」
「ふむふむ」
蹴速の楽しそうな様子に、シロも、にこにこ笑顔だ。
「お前の出番は、有るんか?」
「さあて、の。楽しくなる事を言えば。わしと同格もちらほら」
「ほ、お」
魔神。神の名を持つ魔族。
神々と関係が有るのか。
そして、シロと同格。
「シロ。皆を守ってくれるか」
楽しめそうだが。家族を失うぐらいなら、今すぐシロに頼み込み、一緒に神々を暗殺、皆殺しにした方が良い。
「無論」
シロにも、この先の予知は出来ていない。自分と同程度の実力者達が敵側に居るため、読めないのだ。それでも、言った。これは、意思。予定調和の知識ではなく、そうすると言う気持ち。
蹴速との生を楽しむため。蹴速の持ち物を守ってみせよう。




