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これまでの、これからの日常。中編。

「帰って来ましたね」


「どうだ。昼飯は、済ませたと思うか」


「どうでしょう。己黄の飛行は、出かけた時より速い。しかし、これは空腹が原因ではなく、お風呂に入るためではないかと」


 つまり、分からん。


 ま、勝手に温めて食べるか。


 食後のお茶を楽しんでいたキと超騎士は、暗黒大陸にて訓練をして来た組を出迎えるでもなく、そのままくつろいでいた。超騎士は、結界によって、少なくとも家周辺数百キロの範囲に入ったモノを識別出来る。そのため、帰還した者に合わせて風呂の支度をしておくなり出来るのだが。今回は、少々早い時間だ。夜まで入らないのか、すぐに入るのか。分からない。放っておこう。


 現在、神無の部屋は子供達のたまり場になってしまっている。今はマクロとマオミドリがたむろしている。


 きっかけは、神無の療養中にある。当時、何もする事の無かった神無は、せめて子供達の遊び相手にでもなれればと思い、食事を持って来てくれたマクロに言ってみた。


「俺は、現在ものすごく暇だ。同じく暇な者は、俺の所に来させよ」


「お体に障りませんか?」


「動けぬし、使い物にならない体だが、治りは順調。のはずだ。無理はしない。大丈夫だ」


「では、そのように」


「お前は魔神に仕えているのかも知れぬが、俺達の子でもある。かしこまった言葉遣いは要らんぞ」


「んー。癖です」


 そう考え込みもせず答えた。


 マクロ。魔神側仕え、クロの子。生まれ持った魔力、肉体共に魔王の子に劣らない。知識、知恵に関しては、あるいは抜きん出ているか。


 他の親達は、赤ん坊を見るのに大変だろう。かと言って、マクロ達を蔑ろにして良いわけでなし。


「ま、暇なら来い。それだけの話だ」


 なんと可愛げの無い。マクロの贔屓目ひいきめを以ってしても、神無に親である所のたっぷりの愛情などと言うものは、見受けられなかった。


 堅い顔。生まれた瞬間から修練を積み重ね、治癒でさえ直しきれない、強い表情が作った、強い顔。顔に、俺すごい強いよ、と書いて歩いているような顔。それが、殊更に笑みを作るでもなく。


 神無は、笑う時には破顔一笑。全身全霊で笑う。だが、愛想笑いは、仕事の相手にしかしない。家族に心の入っていない物を渡すわけには、いかん。


 読心の使える者達はともかく、来るべき我が子らとのコミュニケーションが、これでは不自由ではないか。梅などは、こっそり心配していた。


 俺達の子。そう言ったな。


 マクロは、神無の横にもぐり込み、一緒に寝てみた。


「風邪ではない。うつりは、せぬが」


「よろしいでしょうか」


「退屈だろう」


「いえ」


 神無は、布団に入ったマクロを、すぐに抱えてくれた。躊躇無く。


 問題有るまい。ちゃんと、行動してくれるなら。


 その後、2人で眠る神無達に他の子らも、どうやってか混ざりに来た。一体、誰が目敏めざといのやら。


 なあ、マシロ。


 マシロは、にこりと笑んだ。それは、蹴速やシロの良くやる笑みだった。


 神無も返す。不敵な笑みを。


 実力としては、既にマシロは、有我の領域に到達している。今更、神無如きを恐れる理由は無い。が、目の前の、本物の実力者の、本物の迫力を前に、少々腰が引けた。


 可愛い「我が子達」を全員部屋に入れ、希望者には布団を持って来させ、皆で寝た。


 そうか。魔王の子の、人間の子との違いが分からなかったが。こいつらは、おねしょをしない。夜泣きもない。食べ物も、大人並み。


 そして、賢しい。駄々をこねない。わがままも少ない。


 では、


 何時。成長するのだ?


 人の道は、失敗と恥と後悔とで土台を盛り立てられていく。


 3名家、世界を覇する者共ですら、例外ではない。


 間違いを、過ちを、失敗をしない。あやかりたいぐらいだが。


 歯止めは、有るのか?


 あの時の失敗。いつかの恥。忘れ得ぬ後悔。それらは、成功への道筋を見つける手助けなだけでなく、今現在へと、己を押し上げてくれる。


 失敗の苦味、思い返したくない恥に、歯噛みした後悔の記憶が有るからこそ、人は踏み止まったり、選択の慎重さを加えて行くものだ。


 それが、無い。年齢を考えれば、まだ全く問題無い。しかし、何時までもは、不味い。


 3名家であろうと、例えば、魔王魔神、蹴速への対応を誤ればコウチは崩壊する。その、梅に代表される丁寧な態度を可能としているのは。有我との付き合いだ。絶対的な強者。そして、歯止めが無い存在。それでも、有我1人で4ヶ国を攻撃など出来なかった。やれば、3国全てからの反撃が来る。だから、協調をはかり、一一人ではなく、二神と三鬼を押し出して行ったのだ。


 勇猛果敢、大いに結構。しかし、家族以外は、生かしておいてくれるとは、限らん。それを、何時学ばさせてやれるか。


 生き残るためには、弱かった過去も、必要なのだ。


 亜意と超騎士は、風呂にて己黄の訓練の確認をする。


「一応、軍勢との連携を頭に植え付けた。何処まで必要か、分かんねえけど」


「いえ。重要な事です。己黄が最も多く戦う戦場は、私達と同じ場所。そこで、身勝手な動きをすれば、同士討ちは必然。良い訓練です」


「あんとな」


 大浴場。背を洗ってくれる超騎士。流石に裸だ。超騎士なら、あるいは鎧ごと洗ってるのかもと、少しだけ亜意は思っていた。杞憂で良かった。


 小さな背中。たっぷりの魔力は含んでいるのだろうが、筋肉の付きが良くない。剣士でない事は、すぐに知れる。


 この背中が構成されるに至るのは、戦いの日々。成長期の肉体に無理に無理を重ねさせ、治癒を使い過ぎた結果。寝て肉体の成長を促す時期に、亜意は魔力の獲得のため、肉体の活性化を常時行っていた。故に、亜意の肉体は小さい。大きくなる暇が、無かった。


 大きい手だ。


 超騎士のタオル越しの手を感じる。蹴速ほどじゃないけど、大きい。鎧兜を纏った状態なら、蹴速よりも上背うわぜいがある。最前線に立て、冷静な判断力を持ち、指揮も取れる。蹴速に兵最強は譲っても、兵最高格は伊達ではない。


「羨ましいぜ」


「何がです?」


「お前は、強い。あたしは、弱い」


 行き着く所は、そこだ。水色を以ってして、尚、亜意は蹴速と並び立てない。超騎士は、何処までも蹴速と共に行ける。それこそ、使える度合いで言えば、ジンより上だろう。


「出来る事の違いでしょう。私には、治癒は使えない。あるじに最も必要なのは、あなたかも知れない。嫉妬した事も、有りますよ」


「買い被りだ」


 そう言う背中は、小さいながら、しっかりと伸びる。


 可愛く着飾りさえすれば、お姫様で通る。だが、剣を腰に差し、躊躇ためらい無く血風を浴びる。


 私は、この亜意が好きだ。

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