問題解決。魔神と賢獣。
「知恵、は要らないのか?」
「そだねー。シロは、便利な道具にはなってくれないだろうし。有れば便利だった。けど」
「1枚岩ではなかった暗黒大陸をまとめあげ、明確にコウチへ敵対した。生かしておけないのさ」
「ふむ」
3名家の間では、方針が決まった。
能力が有れば重用する。だが、敵は殺す。そこをあやふやにすると、舐められる。
「すまないな。山脈から帰還したばかり。そして、私は家から指示するだけだ」
「向き不向きは有ります。あなたが、コウチの運営を行っている間、私達は遊んでいるのですから。仕事を任されるのは、嬉しいものですよ」
実は、超騎士には、地球上での仕事は少なかった。まだずっと若かった頃。その頃から頭角を現し、華々しい実績をとんでもない速度で積み上げてきた超騎士には、下積み時代が無い。そのまま、兵最強格、騎士団長になってしまった超騎士は、下の者を育てる義務が発生した。蹴速には及ばずとも天才の領域に在った超騎士。それが、時を惜しまず努力し続け、何者も届かぬ世界へと辿り着いた。それは、即ち。蹴速の領域。その強さでは、最早、自分が出張る必要が無かった。騎士を率いる立場である超騎士は、部下をその強さに応じて、仕事へと出していった。超騎士自身の仕事は、消えていた。
実戦を積まなければ、本当に使えるのかどうか分からない。だが、超騎士は、極わずかな戦闘で、常人の何百倍も積み重ねてしまった。そして、後進の育成。超騎士の戦場は、少なくなってしまった。
力を振るえる。
その静かな佇まいからは、想像し難いが。超騎士もまた、兵。全身全霊を振り絞りたい。悲しいかな、それだけの敵は、1度しか出てこなかった。
蹴速が現れてくれなければ。騎士を引退して、旅にでも出ていただろうか。グルメ武者のように。
アカの開いたゲートで、4人は暗黒大陸に出現した。
「では、お願いします」
「おっけおっけ」
アカ、キ、超騎士の3人に取っては、非戦闘員である歯牙を連れているのは、あまり気分の良いものではない。可能な限り、早く終わらせたい。
例の唸り声を上げつつ、歯牙は、海中のシーラの行方を探った。
「どれほど賢かろうと、歯牙からは逃げられないだろう。直ぐに終わらせ、帰るか」
「だねー」
「ええ」
「視えた!あっち!」
歯牙の指差した方向へ向かい、飛ぶ。そこは、獣沓達の居た場所から、およそ数百キロは離れた地点。何の当ても無くては、探し出せなかっただろう。
「この下だね」
「りょーかい!」
相手は魚。こちらの存在を感じ取るなり、逃げるだろう。水中を自由自在に。
その範囲の海を、アカは蒸発させた。範囲を超騎士の結界で切り取ってもらい、そこに存在した生命全てを道連れにさせつつ、シーラ殺害を遂行。
「どうだ」
「んーー・・・うん!もう視えない!終わったよー!」
歯牙が視えないのは、魔神以上。魔王ですら、歯牙からは逃げられない。シーラが生きていれば、必ず歯牙に捉えられる。完全に終わったのだ。
帰って来た4人を労い、3名家は話し合いを持つ。
「これから、だ。俺達の正念場かも知れん」
「うん」
「整理してみるか。東の南は、征服完了。山脈による支配を維持し、上がりをコウチが頂く。東の北は、捨てる。入植は、コウチの名の下に禁じる。名目は、濃い毒素にしておくか。そして、暗黒大陸。敵の厄介なのは潰したが」
「すり潰す事は、可能なのか?」
「3名家が常駐すればな」
「つまり、不可能」
「ヤマトのナンバーを10名程も借りれば、可能だぞ」
そのような無駄遣いは許さんが。
有我は黙って2人の話に耳を傾けている。
「今現在、人口問題は発生していない。そして、産業にも困ってない。捨て置くか?」
「あれほどの広大な大陸をか」
「ああ。確かに獲れれば、私達の子孫が使えるだろう。だが、魔獣を絶滅させるのは、困難。そして、人材を、現在は使えない場所に縛り付けるのもな」
「ふん。確かにな」
有我には、1つ考え事が有った。
「暗黒大陸は、実戦演習場にしよう」
「ほう」
「構わないのか?」
「うん。御徳と量猟でも、支配は可能だろうけど。ナンバークラスの敵が来ると不味い。管理者は、置かない。かと言って、完全に捨てるのもね。魔獣は湧く。なら、使おう」
斬っても良い相手。練習台に持って来いだ。
蹴速との稽古から帰って来て、何やら思索に耽っている魔神を訪ねる有我。
「今、良い?」
「おーけーじゃ」
「お邪魔しますー」
シロの部屋には、今誰も居ない。持って来た飲み物をシロにも渡して、部屋のクッションに座る。
「ねえ。魔獣を殺すと、魔力は、何処に行くの?」
これが、有我の考えていた事。魔力溢れる土地から、魔獣は自然発生する。であれば。暗黒大陸から魔獣を絶滅させると、その魔獣らの魔力は、何処へと溢れ出るのか。海か。空か。
「んーむ」
「他所の土地に魔獣が増えるんじゃないかって心配してるんだけど」
さて。現在、蹴速に与える魔力の丁度良い分量を計算していて、頭を別の事に使いたくないのだが。
「ま、それで合っとる。魔力を、そうさな、「コウチの手の届く範囲」から無くさない限り、魔獣は何処かで生まれる」
「コウチの手の届く範囲、ね」
世界中と言う事か。
「ボクらの行動で、いや、良いや。ありがとね。お礼にお菓子でも作るよ」
「うむ。期待しよう」
有我は、聞きかけた事を、答えなくて良いとシロに心で言った。
自分達の行動で、何か不都合が生じるのか。そう、聞こうとした。
不甲斐無い。弱気になっているのか。これが、コウチトップの考える事か。
自分で舵取りが出来ぬなら、降りろ。蹴速の飼い犬がお似合いだ。
降りられない。3人で、行く。
不都合が生じたなら。斬れば良いのだ。
そんな事は、生まれる前から知っていただろう。3名家は。
めんどーな。
シロは、有我を難儀な子と認識した。
使い物になる手合い。それが、シロによる有我の評価。下手をすれば、自らも手傷を負わされる。シロが視た有我の剣の内、剣一一人・青鏡を用いれば、恐らく魔神であっても、剣は入る。ただ、1度で折れるだろうが。その意味に於いても、有我の眼力は確かだ。斬れる、と言っても1度きりで折れる剣ではなく、斬れずとも、折れぬ剣、開山登花を選択したのだから。
ふむ。
魔神シロは、久しく人を意識的に殺していない。強くなるのを、じいっとずうっと待っていた。一一人や、邪馬刀国などのケタの違う強者も、それなりに増えて来た。
しかし。満たしてくれたのは、あちらから来た蹴速だった。
さてさて。
シロは、未来予知も、ある程度の確率、99パーセント程、で可能としている。それでも、蹴速に殺される未来は、視えなかった。
有我は、人間は、魔神に取って、有用な存在になれるか。また、じっと待とう。時間は、有る。
「のう?」
「のう、じゃないわよ」
魔界。魔神の城。
室内プールの中には、魚が一匹。
賢獣シーラが泳いでいた。
「私だけでなく、皆を助けてくれれば良かったのに」
「だって。メンドーじゃもん」
暗黒大陸の魔獣全てを魔界に移すのは、ギリギリ手の届かない所に有るリモコンを取る、その位には面倒な仕事だ。
「命を助けられた事には、礼を言うわ。でも、どうすれば良いのよ。これから」
「自由が欲しいか。安寧が欲しいか。選ばせてやろう」
「自由よ」
ほう。
「間を置かず答えたか。変わったの」
「伊達に数万年生きてないわよ。あなたは、・・・、変わった、かしら」
「ふふん」
何こいつ。
シーラの偽らざる感想としては、若者が一丁前のツラをし始めたように見えた。馬鹿な。創世以前に既に存在していたであろうモノが。
「魔界の海で良いか」
「ええ。後は生きるなり、死ぬなり、なるようになれば、それで」
「助けて欲しければ、言うが良い」
「あんたね。・・・また、会えたら良いわね。今度は、千年も間を空けなくて良いわよ。もう、この世界には飽きたのかと思ってたわよ。バカ」
「ふ」
珍しい、魔神の零すような笑み。古馴染みと話をして、少し懐かしさを覚えたのだ。
再会を約して、シーラを海に置く。黙って魔獣避けの印を付け、シーラを生き長らえさせる。
次は何時になるか分からないが。懐かしい顔に会うのも、また楽し。




