親子。
所はイギリス。騎士団の正規装備を整備、点検、個人装備の御用聞き。超騎士の居なくなった後でも、彼女用の装備の人気の高さが伺える。
「すみません。ご子息がお目見えです」
団員の1人が伝えてくれる。
「ああ。ありがとね」
この場は妻に任せる。
対魔 雷攻。40才。妻と息子の3人家族の長。だったが、息子は独立、50人家族の長になってしまい、妻と2人、世界を股にかけて商売に勤しむ男。
「珍しいな。どした」
「久しぶり。元気やった?」
「元気元気。そっちは?」
「みんなあ、元気よ」
おかしい。息子は、蹴速は。世間話を如才無く出来るほど、安定した気性ではない。
「本当に、どうした。聞くだけ聞くぞ」
息子のスケールは、自分では、上手く解決出来ない悩みかも知れないが。
「ちょっと。人生の岐路に立ってる」
「え」
少しばかり驚く。
結婚、子育て、より?な、なんだ、どんな岐路なんだ。
「詳しく、聞こう」
イギリス、騎士団詰め所。厳完口。その内部には、一般人が立ち寄れる茶店も有る。
「ナイト・コーヒーとナイト・ケーキ。お前は」
「スピア・パフェとアックス・ケーキ。あと、ナイト・オレンジを」
注文を済ませ、久方ぶりの家族の顔を見る。
年を取ったな。まだまだ、子供のはずなのに。その年齢のはずなのに。
人生で出会うあらゆるものを味わったような。おれと、大差ない顔。
そらまー、おれの子供ですけど。
「魔族になろうか、どうか。を悩みゆ」
「へえ」
???
?何?
超騎士に合わせて、イギリス国籍を取得。それなら分かる。悩みもするだろう。
・・・なんて言った?
「ん?あー・・魔族ってのは、向こうの世界の生き物。魔力と言う不思議な力を持った人間体、獣なんかを総称しちゅうんやと思う」
あちらの世界との行き来を可能としているのは、極一部の人間の間の知識だ。その人間の中に、蹴速の両親も含まれている。
知らせる必要の無い人間には行き来、どころでなく、その存在すら秘匿している。その方が、利益を独占出来るからだ。もちろん、向こうの世界に何がしかの危機となれば、こちらの世界の環境を利用する。
全て己の思い通りにするのが、最も正しい。
魔族・・・・・。いや、分からんて。
「も、もちょっと詳しく。魔族になると、どうなるん。それは、国籍を変えるとかじゃなく、肉体を変質させるって事なん?怪物になるんか、簡単な話」
「そうそう。魔力って、不思議な力を使えるようになるんよ。デメリットは、それを補給せんといかんようになる。やけ、生活の拠点を完全に向こうに移す必要が出来る。今とも、もう同じ事やけどよ」
こちらの世界では、魔力の供給が無い。あちらに、骨を埋める事になる。
「それで。メリットは?」
「ある程度、ではあるけど、不死身、不老、高い自己治癒能力」
「すごっ!!」
「便利になるはずなんよ。まだなってないけ、自信満々には言えんがやけんど」
「・・・おれが、なりたいくらいよ。それが、本当の事なんやったら、なったら良いわ。人間、誰でも死んでしまう。でも、死なん奴が居っても、それはそれで。面白いわ」
笑顔の父。
馬鹿なんだろうな、と蹴速は思う。普通、寿命がどうたら、愛する家族がどうたら、言うもんやろ。
無論、望む者も望まぬ者も、家族は全員、自分と同じ存在にしてもらう気であった。望まぬのであれば、誠意を以って説得。望むのであれば、共に不死の存在へ。最終的には、全員、「望ませる」が。
今までの己から、肉体を全く新しく作り変える。いや、そこまでではない。強さは、力はそのまま。
言っていないデメリットとしては、モモの能力で即死するとか。モモの魔力より低い魔力ならば、だが。それは問題無い。鍛える。
言い知れぬ不安。それが問題であった。
だから。「今までの己から変えられた者」に話を聞きに来た。
蹴速は、超天才。恐らく、今までの対魔の歴史の中でも、突出しているはず。
そう。父よりも、だ。
当時、5才の子供に抜かれた、才。20数年磨き続けた実力が、努力が、圧倒的な才能の前に、吹き消された。修練開始2日目で、突き、蹴りの精度で上回られた。3度目の組み手で、息子の攻撃を躱せなくなっていた。
我が子でなければ、放り投げていた。1手教える度に、超えられて行く己の力。我が子だからこそ、その強さに歓喜したが。ふと、我に返る。
対魔継承者、雷攻。別に世界最強などと自惚れているわけではない。噂に聞いた、イギリスの新鋭。フランスの老兵。世界には、幾らでも化け物が居るのだ。日本国内ですら、雷攻は最強ではない。
理解していたはず。己より強い者など、星の数ほど居る。
・・・だからって、おれの子じゃなくって、良いじゃねえか。
なんでだよう。
どんな顔で、どうすりゃ良いんだよ。
おれが、教えて、育てて、守りたかったのに。
対魔の正統後継者として武器の扱いもそこそこだった雷攻は、心機一転、武器商人を始めた。親の代から付き合いの有った店、商人、技術者、様々な人間に世話になった。そして、そこに在った様々な家族の様相を見る事で、とりあえずの精神の安定も得られた。
よそ様に比べると悪いが、蹴速は、聞き分けは悪くなかった。父親の言う事も母親の言う事も、良く聞いた。
より正確に言うと、蹴速の思った事は、こちらが何かを言う前に実現されていた。ので、蹴速にはあらかじめ、やって良い事と悪い事を適当に教えておく方針となった。
人の恨みを買う行為は、うまくない。人を殺しても良いのは、仕返しで、己と家族を皆殺しにされても良い時だけ。なるべく、手加減な。てゆーか、私事で人を傷付けるな。問題が起きれば、その対処に時間を取られる。修行の時間も、デートの時間も、削られてしまう。なるべくなら。ひっそりこっそり。それでなくても、兵はトラブルメーカーになりやすい。
蹴速は、父の教えを見事に吸収した。面倒を起こさぬよう、敵対した人間は、関係者含め、皆殺した。
残念ながら、蹴速の周囲、親や祝寝がトラブルに巻き込まれた事も有った。いかな蹴速と言えど、万事抜かり無くとは、行かない。既に武器商人としての肩書きを持っていた雷攻には、舐めた敵しかやって来なかったので、助かった。
人を殺すな、とは言わん。怪物を殺さなければ生きていけないこの世で殺害を禁忌としては、自分が死んでしまう。だが、殺し過ぎるな。お前は、1人で米を作れるのか。服は、タンスは、道路は。
触れ合う事の無い、およそ価値など無いかのような赤の他人が、しかしお前の生活を維持するために必要な人かも知れぬ。
甘く見るな。お前より年を取っていると言う事は、お前より修行をしている可能性が有る。お前より若くとも、お前より才能が有るかも知れない。
生き残りたければ、油断するな。幸せを掴むためには、自分と女を守る必要が有る。そのために、敵を少なく味方を多く。無駄な争いは慎むのが、良い。
対魔の最終目的は、幸せな生活を維持する事。大切なのは、殺す事じゃあ、ない。己と、女と、守れる限りの人を守れ。そのために動け。
「止められる、とは思ってなかったけど。勧められるとも思ってなかったわ」
「だって。不老不死とか、最高やん」
流石、おれの親。何も考えてない。
「親父とお袋は、どうする。あっちに行くなら」
「いや。おれらは、良いわ」
「そうか」
「うん」
なんとなく。この答えを知っていた。父親を超えた日、あの時から。道を違えたと、知っていた。
子に、老後の心配をされるようになった。これは、幸せなんだろうな。見向きもされないよりは、遥かに。
もう少し、年を取ったなら、話は変わるか?マジな老後は、心配だが。今は、その気は無い。
だってさあ・・・新しい世界に行って、全く1から生活を組み立てるのは。ちょっと自信が無い。子に何もかも世話になるには、自負が邪魔をする。
おれは、蹴速を作れた。最強の後継者を育てられた。だから、良いだろ。蹴速と、張り合わなくても。別の場所で、働いても。
少しばかり、戦場には、身の置き所が無い。
妻は、始めは親子兵として名を上げる機とせよ、と言って来たが。最後には、何も言わなくなった。そして、今でも、側に居てくれる。頭が、上がらねえ。
親としての実力は、流石に雷攻の方が上。なぜ、この場に祝寝が居ないのか。それぐらい分かる。
祝寝ちゃんが居ちゃ、話しにくい事、だったんだよな。
がんばれ、蹴速。おれと、おれの1番大事な女の息子なんだ。きっと上手くやれるさ。
この、一切根拠になっていない根拠を基にした楽天的発想こそ、対魔が代々受け継いできた、財産。ちゃんと、雷攻は、蹴速に伝えた。
それを知っている女が、最低でもこの世界に1人は居る。




