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己黄の訓練。シロと蹴速。

 浜辺から、海上、更に高空へと。


「邪魔者は、居らん」


「うむ!」


 綺麗な。


 芸術的素養の無い蹴速にすら、黄金の龍は、見事な輝きを見せ付けた。


 白面の海の上、太陽をも上回る黄熱おうねつ


 初めての戦い。


 己黄は思う。己の在りようを。最強の存在、龍。しかしながら、それは親が殺された日に失くした。己は、何だ。


 火を吐く。蹴速は掌打を以って、打ち消す。もっと、吐く。雲海を消滅させ、蹴速を飲み込もうと進む炎。


 今日は、己黄の準備運動としよう。本気を引き出すのは、明日以降。


 蹴り足が戻った時には、全ての炎が消し飛ばされていた。


「移動しながらでも、吐けるか?」


 突進しつつ、放炎。


 おれの言う事に、素直過ぎるか?いや、修練の初期段階なら、このままで良いか。


 蹴速もスピードを調整しつつ、跳ぶ的となった。


「おれを目掛けて、吐け」


 時折、停まりつつ、法則性を持たせて跳ぶ。己黄は、的を上手に狙えるか。


 追い付くようになって来た。ちゃんと、相手を見ている。独りよがりの動きであっても、最終的に敵を倒せさえすれば、それも正しい。しかし、己黄のレベルでそれを始めると、死ぬ。そして、己黄は黄金龍。間違い無く、誰よりも目立つ。敵を頭に置いておかなければ、危険だ。先ず、戦場には敵が居る事を知らせる。


「少し、休むか」


 10分。火を吐き、飛行し、蹴速を追い回した。己黄は、体力魔力を消耗しているだろうか。


 己黄の肩に座る。人間数人が座れる程には、広い。己黄は、風を捕まえ、魔力と翼とで遊飛する。


「己黄は、腹減らんか?」


「うー」


「魚は飽きたか」


「うむー」


 適当に雲を口に入れる己黄。草の露のようなものか。


「鳥・・も食ったんよな」


「うむ」


 他の食べ物か。


 これで己黄は、岩も土も食べる程のグルメ。さて、何を用意出来る?


 確か、山脈には野菜が有ったな。それを幾らか船にも積み込んだはずだが。それは、己黄だけに食べさせるわけにも行くまい。


「ちょっと買い物行って来るか」


「ふむ」


 己黄は、人化し、今度は蹴速の腕の中に入った。


 梅に聞いて、ツケは効くかどうかを確かめる。効かない。残念。


「どう言う事だ?」


「ツケで、農家から野菜を買って、己黄に食べさせてやろうと思ってな」


「ならば、八神に言えば良い」


「なるほど」


 言われてみれば、その通り。既に顔見知りなのだ。


 蹴速は己黄を連れて、山脈に跳んだ。超騎士にも足労を願い。


「忙しいものだ」


「あれ?蹴速君が帰ったんじゃないの?」


「直ぐさま、山脈へ跳んだ。野菜が欲しいそうだ」


「あらら。お肉も買って来てもらえば良かったなー」


「魔獣では足りんか」


「まあね」


 魔獣の肉は、実は食いでがない。魔力を含むので、魔族に取って程好い健康食品なのだが、その魔力のため、純粋な肉としては、普通の動物に劣る。蹴速の世界に来て、魔王達や梅達が驚いたのは、肉の美味しさだ。オカシナ事に植物の美味しさは、変わりが無い。これは、よくよく考えると、世界の根本に届きそうな疑問だが。仮要明ですら、魔神の気まぐれか何かだろー、と考えるのを放棄していた。実際は、知らないが。


 八神の居城を訪ねた蹴速は、コウチに代金をツケて、野菜を30トンほど調達した。人間が食べる用にも、少し取り分けておく。


 船に帰った蹴速は、皆に集合をかけ、料理を始める。


 超騎士の結界をプレート状に展開。普通は、鉄板の底から熱を入れるが、超騎士の結界は熱を通さない。故に、上から火を吐き、野菜に熱を通す。炎熱でも平気なアオミドリが、ボートのオールを使いかき混ぜる。オールにも結界を張り、巨大化している。つまり、巨大なヘラだ。


 この野菜炒めの主目的は、香り付けだ。ただ、火を付けただけでも、己黄のサイズなら、香ばしいものだが、更に繊細な味わいとする。美味しく出来るなら、そっちのが良い。


 世にも珍しい、箸(皮を削り取った2本の大木)を操る龍の姿を目にしたコウチ兵、及び付いて来た八神は、スケールの違いを、心から理解した。龍を殺す、のではない、食料を調達し、調理し、生活を維持。


 常人ではない。


 その後、己黄の訓練を見た蹴速は、仲間と共に何事も無く、無事にコウチへ帰還した。


「シロ。会いたかった」


「わしもじゃ。・・・・ほお」


 シロは、蹴速からの心のこもった愛情溢れるささやきに、同じく愛情たっぷりに返し。気付いた。


 蹴速の肉体に満ちている、威に。


「戦ったぜ。敵は、まあ適当やったけど。アオミドリも、超騎士も、梅も、亜意も、己黄も。全員強かった」


 マオミドリは、すごい良い子やったし。


 蹴速の実感のこもった言葉。内心のそれも、もちろん。


 気が乗っていた。精神肉体共に、充実しきり、「現時点最も強い蹴速」が、目の前に居る。


「本気を出して。良いのかの」


 しっとりと、厳かに言ったつもりだったが。魔神の言葉には、隠しきれない、期待が有った。


「頼む。おれも。・・・・・本気のお前と、戦いたくて、戦いたくて、たまらんかった。皆と稽古をしてな。ずっと、待ちよった。皆との訓練が、すごく楽しくてな、お前を想ってた。お前と戦えたなら。今のおれなら。きっと。素晴らしく楽しいのだろうな、と」


「蹴速」


 嬉しい。


 嬉しすぎて、口に出す事も適わない。心が言ってしまう。口より、肉体より先に、心が。


 だが、蹴速は、シロを想っている。シロの目を、顔を、肉体を見て、シロの心をも知った。


 荷物の片付けも、家族との再会も、全て一段落付いた。シロとの稽古に、時間を費やして良い。


「本気を出したい。初三千世界の居た所へ、連れてってくれるか?」


「無論よ」


 ちょっとお出かけしてくるー、と言い残し、蹴速とシロは、あの地へ。


 一瞬で、着いた。


 蹴速には、魔力は無い。この技能は、習っても扱えない。しかし。


 この特殊技能は、ケタが違う。例え、己に扱えるだけの魔力が有ったとしても。このコントロールは、果たして可能だったか?


 よわい5つにして、1つの流派を極めた超天才である蹴速に、出来ないかも知れない事を、造作も無くこなす、超天才の上の存在。


 ゾクゾクする。シロと出会えて、本当に幸せだ。


 蹴速の心に、真ん中に、自分が居る。ただ、自分を思う蹴速。


 両者の胸の高ぶり、読心の使えるシロはともかく、蹴速までが相乗効果を発揮し、果ても無く上昇し続けて行った。


かまんか。いきなり、行くぞ」


「おお」


 何者も居ない、この世の果て。


 否。仮に、この場に誰が居ようと。


 この試合、邪魔出来るモノなど、居らんわ。


 踏み込み。一切の手練手管を廃し、磨き上げて来た創意工夫を潤沢に込める。


 シロですら、蹴速の踏み込み後に、蹴速の接近に気付いた。


 速い、し、うまい。足の筋肉の、挙動。己の足の踏み込んで良い、限界ギリギリの脚力、そして、それだけのパワーにも関わらず、身体のブレが全く無い。その力加減を、全身で繰り出してくる。


 今までの蹴速の、軌跡が読み解ける。この踏み込みを見れただけでも、存在し続けた甲斐が有った。


 魔神シロとして。在りとし在れるモノの最始さいしとして。


 今の世の生んだ、最も強い人間。


 落とし子共よ。良くぞ、このような奇跡を起こした。褒めて、進ぜよう。


 この魔神が、全力を振るおうではないか。


 全力の踏み込みの後の、全力の蹴り。大地を蹴り、加速も十分。右の、前蹴り。



 およそ、星の数十個はビー玉のように弾くであろう蹴り。それを、魔神は、受けた。


 真っ向、力勝負。めた受けをすれば、魔神と言えど、意識的に修復しなければいけないダメージを負うだろう。


 前蹴りに対する最もダメージを低くする方法は、後ろに下がる、だ。反撃は出来なくなるし、場合によっては退路もせばまるが、少なくとも、ダメージは減少する。


 しかし。


 それでは、面白くないんじゃなあ。


 両の掌を重ね合わせ、肩を入れ、腰を前に。全力で、止める!蹴速を受け止めよう!


 己の蹴り足が、止められた瞬間。蹴速は、全開の速度で、シロの背後に回った。軸足である左足を基点に、一回転。止められた右足の甲で、魔神の手を弾き体勢を崩させつつ、回転の勢いにプラスさせる。そして、先程を上回る、更なる全力。繰り出すは、右の後ろ回し蹴り。


ゴオ!


 とても人間が何かを蹴り付けた音とは思えない。魔神の首筋にクリーンヒットしたそれは、魔王級の肉体をかすめるだけで千切るだろう。


 だが、蹴速が相見あいまみえているのは、全物最強、在りし世の最高存在。


「うむ。良い。そして、愛いの」


 はっきりと、明確に感じる痛み。この肉体が、脅かされておる。


 血が、騒ぐ。


 完全に力を受け止められた。ダメージを与えた自負は有る。平然としていようが、現状の全力を発揮してさえ全く体勢を崩せていなかろうが。相手に「入れた」かどうかぐらい、分かる。


 それでも、崩せなかったのも、事実。


 心から、心底から、恐ろしい。見なかった事にして逃げ出したい。あの暖かい家に帰って、子供達と遊びたい。が。


 恐れ、と、腹の中から沸き起こる、熱いもの。


 うむうむ。


 うっすらと、かけるでもなく読心をかけていたが。蹴速の全てが、こちらを向いた。今までは、戦闘態勢。これからは、この、魔神シロと戦う気なのだ!一粒の人の子が!


 右手刀、力を込めずとも、何者をも貫く最強の剣だが。


 全身全霊。最低限の気を残しつつ、右手に全てを。


 おお。


 あれを直撃で食らうと、何時ぞやのようになるか。さりとて、躱すのも、もったいない話よ。うむむむ。


オ オ


 魔神までが、威を。近距離に、居るだけで、何もかもが消え去りそうだ。


「おいで」


 シロは、ただ受ける気だ。そうと分かっているのに、鳥肌が立つ。


「お お 」


 だが、跳び込みたい!


 全速。反撃が来る、躱される、そんな発想は全て捨てる。己の全てを、跳ぶために使う。かたむける。突っ込んで、手刀を打ち込むだけの生き物になる。


 来る。全自己を、ぶつけに。


 まこと、愛い。


 魔力を全集中。魔神シロが、この状態になったのは、実は初めてだ。


 かつての蹴速達との決戦でも、ここまでは集中していなかった。あの時は、もしもの時のための、己の消滅後の魔力維持を画策していた。故に、幾らかの魔力を分散していた。


 蹴速の攻撃に合わせての魔力集中はしていた。しかし、それは一時的なもの。このように全身にみなぎらせた事は、有史以来、ほとんど無い。魔力操作を行い、相手の動きに合わせる。いわば、技法によって、蹴速と戦った。


 今は。全てを使う。全魔力を用い、全技法を繰り出し、魔神を示す。


 蹴速への、謝意、誠意。


 おぬしの戦っておるのは、おぬしの全てを賭けて良いモノ。その拳。その足。無為では、ないのじゃ。わしと出会うため。わしと、交えるため。良くぞ、飽かず参らずへこたれず、来たの。


 褒美じゃ。魔神の本気を、ぞんぶ・・


「ん?」


 右半身と左半身が、真っ二つに分かたれていた。正確には、左肩から振り下ろされた手刀が股間にかけて、止まらず斬り抜けた。


ばしゃあ


 血の沼が出来た。魔神の肉体は、倒れした。


 全て、出した。シロを、1人で「殺せた」。


 全てを出してしまった蹴速は、残った痛みをこらえた。シロを斬り裂いた際に生じた、激し過ぎる抵抗。それを何事も無いかのように貫き通したが。


 気を、ありったけの気を込めた。それでも、もう、右腕が動かん。たった一発で、か。


 おれは、弱いんやな。


「それは、違おう」


ずるり


 断ち切った体が、くっついて行く。


 ふふふ・・。おれが、何もかも出して、切り傷かよ。


 さわやか、と言っても良い顔で、蹴速は笑う。笑うしか無かった、とも言えるが。


 重いものが、ない。気合、気迫、威。そう言った、蹴速を構成している主要なものが、今は抜け落ちている。全て、使い切ったから。


 魔神の衣服を染めていた血が、綺麗さっぱり抜け落ち、元の真っ黒に。


 両の足で大地を踏みしめ、体の具合を確認する魔神。


「おれの、負けや」


「ふうむ」


 ここで、魔神に1つの名案が。それは、蹴速と出会って以来、ずっと持っていたものだが。


「蹴速。魔族にならんか」


「んん?」


 ?


「おぬしの、唯一の欠点。それは、自己治癒力。人間の限りを、超えてみんか?」


 不死身の肉体。魔力有る限り、再生出来る、不滅の生命。


「おぬしなら、きっと良い魔族になれる」


「ふむ・・・」


 胡坐あぐらをかき、シロの話を聞く。


 人間で在る事に、こだわりが有るわけではないが。そもそも、人間に生まれたーい!と、生を受けたのではない。


「ちょっと。親父に相談して来るわ」


「ふむん?」


 蹴速が、己の生き方に他人の考えをれるとは。


「ふふ。読心しても、分からんぞ。おれにも、分からん」


 分からないのだ。会うのが、少し億劫おっくうな親に。今は会いたい。


「帰るか」


「うむ」


 祝寝。皆。おれの気持ちを聞いてくれ。

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