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超騎士と亜意と稽古、マオミドリの見学。

 武装を展開する超騎士。今回はソードとアックス。シールドは用いない。もったいないから。このシールドも、魔王級の攻撃を1度位は防げるはずなのだが。今回は、鎧に収納したままだ。


 超騎士の二刀流。初めて見る。おれだから、か?嬉しいなあ。


 自らの結界密度を最高化。今なら、蹴速の手打ちの拳も防げる。だが、これでは、まだ足りない。蹴速が少しでも本気を出せば破壊される。


 攻撃をさせては、いけない。


 動くのを待っている蹴速。その性質上、構えに時間がかかるのが超騎士唯一の短所だ。


「お待たせしました」


「大丈夫よ」


 踏み出す蹴速。ゆっくり歩く。いきなり突っかけると、足をすくわれるのが超騎士だ。梅の神隠しと似ているが、年季が違う。


 怖い。わずか1人の人間に、怯えている。この私が。


 蹴速の進軍を阻めた者は未だかつて存在しない。それが、大国だろうが名だたる兵だろうが、だ。


 蹴速の初めてになってみようか!



 不可視の一撃。あえて言うなら、横の斬撃。


 やばい。何か、分からないが、やばい。


 超騎士を的から外して、ある程度本気で拳を打ち込む。大地に影響を与えないよう考慮しつつ。


 確かに手応えは有った。壊した、はず。


 ならば、おれのダメージは一体。


ぽたり


 蹴速の身体各部から出血。深い怪我ではなさそうだが。体表面、衣服が赤に染まる。


「怖い」


「ありがとうございます」


 蹴速を本気にさせたなら。一瞬で死ぬ。それは、まあ良い。蹴速になら。だが、そんな事では!蹴速を守れない!!


 本気にさせた上で尚、生き残る。現在の目標だ。


 今、何が起こったのか、理解出来ない。想像すら。どうする。どうやれば、勝てる。


 蹴速が本気を出せば。超騎士と言えど、消え去る以外の未来は無い。しかし、それは蹴速の本意では無い。


 ならば、そんなものは間違っている。


 正しいのは、おれの意。


 気を高める。およそ大地を崩壊させない限界まで。しかしこれも、恐らくは超騎士の想定内。


 蹴速は、少し笑みをこぼした。熟知していたはずの超騎士の強さに、まだ驚かされる。


 全く、恐ろしい嫁よ。


 なんて幸せな。



 ただ歩いてくる。歩行速度、時速1キロメートル。遅い。一般人よりも遥かに。


 それでも、その威は、直ぐにでも逃げ出したくなる。


 こちらは無傷なのに、次の瞬間には死んでいる気がするのだ。


 右腕、ソードを真っ直ぐ突きの構え、左、アックスを上段に。常識的に言えば、力が入らない、無意味な持ち方。だが、超騎士が行う以上、必ず理に適った動き。


 次の瞬間、あのソードが腹に来ているだろうか。それともアックスが頭を割っているのか。


 ドキドキする。


 蹴速が、少しずつ、本気になっていく。


「怖いね」


「ああ」


 蹴速の気に、アオミドリまでが起きて来た。亜意は、超騎士が死なないよう、幸運を祈っていた。


 このまま、何の芸も無く、ただ斬ってみたい。1人の剣士として。そうも思うが、そんな事をすれば、主の期待を裏切ってしまう。


 ここに居るのは、超騎士。世界有数の兵。


 相手は対魔蹴速。世界最強の兵。


 だから、どうしたのだ?


 何者だろうと!この超騎士が、簡単に遅れを取るか!


 先程と同じ戦術を取りつつ、更に攻撃性を増す。


 亜意が居る。死なない限り、何処まででもダメージを与えて良い。加減の必要は、無い。


 この超騎士と言う戦士。蹴速を相手に手加減を考えていた。


 ・・気の防御を破られた・・・?いや、衝撃を感じなかった。違う。


 考えつつ、蹴速は超騎士に接近していた。


 超騎士の結界も、おれと同じ、気がベース。


 同じ、か。


 気を、操っている?


 自分の、なら分かる。だが、他人の気を操る。考えた事も無い。


 だが、相手は超騎士。その結界操作は万能。


 ふむ。


 ・・気付かれた?が、まだ対処はされるまい。今の内に、潰す。


 両の手に持った武器。どちらが囮・・・?


 答え。両方。


 全力でブン投げるアックス。全力で突き抜き、ソードを飛ばす。


「ほう」


 残念ながら、蹴速からすると、止まって見える速度だ。


 良し。


 蹴速の目は、注意は、武器に行った。


 先程と同じ戦術。気を融合させる。


 理屈は簡単。蹴速の周囲にも幾重にも張り巡らせている結界を、攻撃性を「持たせず」蹴速の気と接合。別人の物とは言っても、気は気。くっつかない素材では、ない。ここで重要なのは、蹴速側の気を刺激しない事。反応されれば、こちらの結界が砕かれる。蹴速の無意識に「未だ何も触れていない」と思わせなければいけない。


 蹴速は、余りにも超騎士の結界と馴染み過ぎた。いつもいつも、一緒に出陣した。超騎士の結界に違和感を覚えなくなる程に。


 だから気付かない、既に気を融合されている事に。


 そして、この戦術の最後。攻撃方法。奇怪な構えは、結界操作から気を逸らすため。蹴速の考えとして、超騎士イコール結界で結ばれているはず。武器を手にしていれば、武器を結界強化すると想像するだろう。


 結界を用いて蹴速の気を取り込む事に成功。だが、それでは、こちらも攻撃出来ない。


 問題無い。超騎士の結界は、その気になれば何兆枚でも作れる。融合させた結界とは別に、攻撃用の薄く鋭く尖らせた結界を創造。これで刻む。それを蹴速の全周囲から飛ばす。


 ここまでの戦法を、蹴速は一切把握出来ていない。


 ただ。超騎士の事だ。きっと、おれの想像力程度では、及ぶまい。


 ならば、考えない。


 おれは動くだけよ。



 超騎士は、結界を張り巡らせていた。蹴速の気を取り込むための、200枚の特別製。身を守るための強化結界、8千万枚。蹴速の動きを察知するため、周辺空間100メートルに張った6千枚。


 1秒に満たぬ時間に、6千枚が千切れ飛んだ。


「ふ」


 最後に超騎士の感覚に引っかかったのは、己の防御結界をマシュマロのように突き込んでくる蹴速の拳だった。


 ・・・力を発揮してしまった。


 幸い、上半身の骨を20数本折るだけで済んだ。あばら、肩、腕。


 蹴速の拳に限らず、あるレベル以上の強さになると、触れるだけで人体が消し飛ぶようになる。それに近いものを、超騎士は食らった。


 生きているのが、不思議な怪我のはずだが。


「余裕だな」


「もちろん」


 5秒で意識を取り戻し、亜意と反省会。


 あれ?


「ついうっかり、主の速さを計算に入れていませんでした。ジンかアカとの共闘で、動きを止めてもらえれば、殺害も可能だと思います」


「すげえ」


 亜意は素直に感嘆した。


 ・・おれの心配をしろ。


「なんだ。傷は治したろ?」


「ああ・・」


 ・・・最近、妻が冷たい。


 最近とは、ここ数十秒の事だが。


「次はあたしだ」


「おお」


 鎧の砕けた超騎士は、シールドを表装甲として貼り付け、居座った。傷は癒されたとは言え。タフな。


 アオミドリ、マオミドリ親子も。


 知っていたはずの、親の姿。それが、塗り変わった。普段の稽古に於いて、見ていたはずの戦いの姿勢。それは、ただの練習だった。


 これも単なる稽古なのに。それは知っているのに。


 マオミドリは、おそれを抱いた。


 怠け者だと思っていた母が、本当の魔王に見えた。しっかりした人と知っていた超騎士は、父を負傷させる程の実力者だった。


 誰も彼もが、遠ざかった気になる。強過ぎる。


 マオミドリは、今日も成長した。知ったのだ。本物を。手加減の無い、父母の戦いで。


 久しぶりの戦い。実戦で言えば、初三千世界戦以来やっていない。これは、命のやり取りの無い稽古に過ぎないが。 


 亜意は気を操れない。本職の剣士では、ない。操れるのは、ちっぽけな魔力。魔神を相手取っては、怪我を負わせる事も出来ないレベルの、軟弱な魔力。


 鍛えろ。弱いなら!


 蹴速にも、本職の魔法使いとの戦闘経験は無い。魔力を操る戦士としか戦った事は無いのだ。


 水色は、使わないのか。


 正しい。


 どれほどに強力な剣だろうが、当たらなければ棒切れと変わる所は無い。そして、蹴速には、亜意の剣術では、決して当たらないだろう。


 訓練だからこそ、水色を使うって考えも有るがなあ。万が一、水色を折ったなら。蹴速にも、魔神にも。嫌な想いをさせてしまう。


 ちい。


 水色には人格が有る。亜意の秘めた思いとしては、水色に蹴速を傷付ける手伝いをさせるのは。忍びなかった。


 水色は、亜意に感謝しつつ。蹴速の体温、血を味わうのも、嫌ではなかった。


 魔神の与えた魔剣を使わない。それでも、亜意は亜意。何も劣らない、魔王。


 蹴速には、魔力を感じ取る素養は無い。ただ、魔力だろうが何だろうが、蹴速に通すには、それなりのエネルギーが要る。


 亜意にそれは、有るか?


 有る。ただし。蹴速が全くの無防備であったなら、だ。


 つまり、直接的に勝つ方法は、存在しない。


 だが、難しい話ではないさ。少々、頑張ればいい。それだけの事。


 魔力糸をバラ撒く。攻撃のためのものではない。


「行くぜ」


「来い」


 来い、と言った蹴速に突っ込むのは、本当に怖い。よくもまあ、こんな化け物を相手に。


 こうかよ!


 亜意は跳んだ。魔力糸を、完全に魔力のみで引っ張り、空を自在に移動する。


 面白い動きだ。


 蹴速の戦闘経験の中でも、余り見られない動き。超騎士やジンの直線移動は音速を超えるが、このような動きは無い。・・・曲線移動が多いな。


 蹴速は、どういった理路で動いているのか全く分からないまま、亜意の移動を予測した。


 何がどうなっていようが。亜意の肉体を損なう運動は不利益。必ず、動きやすい向きが生じる。そして蹴速の的になりにくい方向をプラス。そうすると、亜意の移動経路が視えて来る。


 それなりの速度で跳び回っている。体の軋みは瞬時に回復している。全く問題無い。


 蹴速のマークを外せていない以外は。


 注意力、観察力ですら高いのか。直接戦闘能力のみのバカなら、可愛げも有るものの。


 攻撃に魔力糸は使わない。魔力のみで蹴速の気をブチ抜く自信が無い。使うのは、己そのもの。


 1分、跳んでみたが。隙を見出せない。


 それはそうだ。格闘術、あるいは接近戦で蹴速を出し抜くのは、魔神でも不可能。


 亜意如きでは、無理。


 知るかよ。


 魔力糸を更に撒く。蹴速の周囲に、適切に。そして、跳び込む!


 魔力を全開に込めた拳を突き抜く!



 音も無く、蹴速の掌に受けられた。防御、ではない。真正面から、力を殺され、受け止められた。それも、蹴速の受けた手の方が、あたしの突きより速かった。ぐいっと引っ張られた感覚が有った。


 悪くない。決して低い威力では無かった。


 ただ、ジンやアカと比較すると、分が悪い。そして、蹴速は、その2人を毎回の稽古で凌駕りょうがしているのだ。


 相手が、悪過ぎる。およそ接近戦最強の男に接近戦を挑むのは、無謀。


 だからよう・・知るか。


 冷静な己の部分にツッコミを入れる激情の己。


 己の体に魔力糸を巻き付ける。そして、移動。ひどく操作が難しくなるが、これで亜意はこの場限りではあるが、複雑怪奇な動きを可能にする。


 知らぬ動き。


 蹴速の知識にも無いそれは、亜意の、糸に自らをゆだねた、魔力運動。亜意の肉体の限界を超えて動けるが、反応速度は落ちる。どうせ、速度では蹴速に遥かに劣る。速さで挑んではいけない。


 問題は火力。魔力爆発を起こしても、ダメージを与えられる気がしない。かと言って、ただ触れて魔力を流そうとしても、意識を刈り取られているだろう。


 仕方ねえ。


オ オ


 亜意の威が高まった。


 蹴速には魔力は見えない。だが、何かが変わったのは感じる。


 アオミドリ達には、良く分かる。亜意の魔力密度が上がった。壊れる手前まで。


「マオミドリは、まだ真似しちゃいけないよ」


「はい」


 今日は、母の言う事に素直に頷ける。


 蹴速を殴り付ける。


 今度は、受けた手が痛い。


「すごいにゃあ」


「ああ。トーゼンだ」


 体が、壊れる。亜意の肉体強度を超えて、体内の魔力密度を高めている。あと3分もすれば、死ぬだろう。


 2分で終わらせる。


 何かをして、亜意は強くなった。おれと戦うために。


 有り難い。


 魔力によって、仮の神経系をも創り出し反応速度も高めた。筋肉も骨格限界を超えない範囲で増幅。あくまで、仮だ。強化が終われば異常な違和感に襲われるだろう。


 構わない。弱いままで、蹴速の隣に居れなくなるよりは。


 1歩踏み出した亜意の速さは、有我に届いていた。


「亜意」


 蹴速は、小さく、名を呼んだ。


 はち切れんばかりの、威。強い。強いが、


 おれは、気に入らない。お前を傷付けるものを。



 全力で打ち込まれる拳を、やはり受けた。ただし、今度は優しくない。反動を、亜意の体に響かせる。死なない程度に。


 痛みが走る。掌が、焦げている。これが、亜意の本気。


 次は、おれの本気やな。


 神経を拡張してしまっている亜意は、蹴速に叩き込んだ反動を十二分に味わっていた。感覚が混乱して、身動みじろぎも出来ない。


 その亜意に届く、蹴速の拳。


 亜意の肉体強度で食らうと、本当に欠片かけらも残らない。やるのか、蹴速。


 1秒に300撃。亜意は、もう、痛みも感じなくなっていた。


「すごいなー」


「確かに」


 アオミドリが同じ事をやれば、亜意を殺してしまうだろう。超騎士のスピードでは、同じ事は出来ない。


 体表面に現れた魔力のみを、打ち払った。徐々に湧き出る、体内の魔力。何故なら、魔力ははち切れんばかりなのだから。蹴速には魔力は見えずとも、亜意の肉体に何かの変異が起きているのは分かる。纏った魔力を減少させてしまえば、体内の魔力を出さざるを得ない。簡単な話だ。


 時間経過により、痛みを感じなくなった亜意は、どうするか迷った。魔力密度は、薄れさせられた。即死はしない。だが。


 亜意には捉えられない速度で動いた蹴速は、亜意の足を払い、転ばし、抱いた。


「ほい。おしまい」


「ち」


 体内の魔力を放出。終わりだ。


 次は、己黄。


「待たせたな」


「うむ!」


 初めて、意識の有る己黄と戦う。楽しもう。

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