夫婦関係のコツ。
海岸へは、山脈を通し宣戦布告が為されていた。それ故、海岸は兵を集めていたのだが。
海中深く。気を高める者達。
「兵が拡散したら、飛び込む。混乱に乗じ、敵将を討つ」
「応」
「地中から行けるか?」
「ああ。ただ、正確に狙いを付けるのは不可能。雑兵を獲って精兵に気付かれ終わり、かも知れん」
「それでも良い。混乱を引き起こしてくれ」
「全員で散りつつ、狙いは1つ」
「そう。山脈は、既に落ちていた。同じ事をやれば、こちらも落ちる。一気呵成に敵トップを殺す。それでオシマイだ」
海岸の調べた所、山脈は待ち構え、仕損じた。こちらは、一旦、終わったと見せかける。そして、不意を付く。正々堂々などと言う、自らの利を捨てる愚昧な趣味は、無い。
「勝つ!」
おお
海岸勢力、強者共はいきり立ち、各々の得手を生かし、走った。ある者は海底から地中を掘り抜き、足元を狙う。ある者は飛行し目立ち、敵が守ろうとする隊長以上の者をあぶり出す。
「ふむ」
無論。超騎士は、会話の内容に至るまで、全てを把握していた。
惜しいな。奇襲をしてしまう事で、恐らく主に皆殺しにされる。地中から仕掛けられる、水中を苦にしない人材。何がしか使い勝手が良さそうなのだがな。飼うのは、無理か。
地中から、ある兵を襲い、飛び出した強者。それを皮切りに次々と海から飛び出る敵。
空に飛び出た組の先頭、男。剣を構えた瞬間に蹴速の蹴りで両腕が飛んだ。続く2名の男女。蹴速に反応した、がことごとく両足を折られ、叩き落される。横に広がり飛び出た男達4名。ほんの数トンの重玉を右手の指先から1つずつ、4つ放り投げる。各々の手前で炸裂させ、身体各部をメチャクチャにしつつ、命は有る状態に留める。
コウチ兵が対応する前に、蹴速は敵7名全員を捕まえた。軽く手加減をしつつ、まあ、2度と動けない程度のダメージを加えて。
これで、亜意に癒させなければ、敵は復活出来ない。
地中から襲われた兵の名は、三鬼梅。
己を貫くはずだった攻撃。それは、超騎士の結界によって阻まれた。
要らぬと言った者に助けられた。これが、私の現実。
仕方無い。
弱い己を、見限らず、見落とさず、磨き上げるのだ。
地中に在るのを感じる。このままでは、攻撃出来ない。出てきてもらおう。
その「範囲全て」を空間移動。大地を、およそ5メートル区切りの直方体として空中に投げ出す。その中には、敵も含まれている。
梅にその気が有れば。もちろん、敵をバラバラにする「移動」も可能だ。しかし、今はその時ではない。1度、魔王級の敵に試してみたい所ではあるが。効かない可能性が濃い。梅の魔力より、魔王の魔力が圧倒的に上だからだ。
だから、その戦術は、真の強者に効かない戦法は、磨く意味が薄い。
真っ向勝負。これしかない。奇策奇術を弄しよう。しかし、それはあくまで前進するためのもの。
簡単に勝てないなら、諦める。
そんなもので在りたくない!!
空に放り出された敵は、しかし、即座に体勢を整え、こちらを認識した。かなり、レベルが高い。
速い。御徳と同程度。梅よりも、速い。
だが。それでは。
梅を斬るはずだった敵の斬撃は、そのまま敵自身の首を刎ねた。
「いかんな」
これでは、全く強くなれない。
「梅」
蹴速は、梅を想った。おれが、満たす。
梅は、少し震えた。武者震い?
「さて」
反抗の機運有りか。どうする。
ここで海岸勢の首を刎ね過ぎると、山と海のバランスが崩れる。それで、山は大人しいままか。まとめあげ、打って出るのではないか?
いや。疑心か。それなら、それで。
改めて、綺麗な土地にすれば良いだけの事。
「蹴速、そ奴らを、此処へ」
「ああ」
蹴速に連れられ、強者7名。早々に降参した、と見せかけた将軍格も同じく。
梅は、全員の首を落として行った。
さあ、兵の見ている前でこれは、吉か凶か。
静まり返った浜辺。梅の「死体を葬る墓場は有るか?」と言う質問が大きく聞こえる。
まさか、墓は無いわけはない。葬る、無体な扱いをしないと言うアピール。
熱を入れなければ。ちゃんとしなければ。
本当に、蹴速が私のためを想って、この地を滅茶苦茶にする。
参ったな。
梅は、現実の、目の前の仕事を兵と共にこなしつつ、蹴速と言うパートナーを考えた。
有我を倍以上に強くして、更に扱いにくくしたような。
毒だな。
私に良く合う。
「お、おおお!」
裏返った声で斬りかかって来る敵兵。
取りあえず、蹴速が殺した。
後で、仇討ちだったのだろうと海岸の者から聞く。
此処がコウチであったなら、一族郎党皆殺しにしているが。今回は、見逃す。余計な諍いの種を作りたくない。
後始末をそつ無くこなし、海岸の支配を進めて行く。
コウチのやりようを見ていた山の者は。
「兄貴。これで、良いのか」
「ん?」
「あの者達。いずれも、おれ達と同レベルの実力者。それを、こうも皆殺しにして。海岸の、戦力としての自立は不可能だ。それこそ・・」
「ああ。恐らく。お前らに任せるんやと思う」
「一応、八神に跳ね返りは居ない。が、これから、兄貴を知らない人間が増えてきたなら、おれは保証出来ない」
「ううむ。定期的にコウチからの巡回も有るとは思うが」
ここで蹴速が心配しているのは、山脈ではない。コウチの支配地域が減ってしまったなら。山脈の反逆を許したなら。その責任、まさか梅が取るのか。
それは許さん。
この大陸ごと、無かった事にする。
有我と神無なら。無茶な事もすまいが。
誰も知らぬ内、この地は存在制限がかかってしまった。
先ず、アオミドリ。
「終わったの?」
「ああ」
山脈の人間に、海岸の維持を頼み、梅の東の南征服は終わった。
3名家で、梅のみが成果を持ち帰る。この戦果、どう使う。
それはそれとして。戦は終わった。幾らでも、稽古をして良くなったと言う事だ。
「海上で良いか?」
「うん!」
アオミドリの本意かと言うと、うーん。でも、蹴速と2人っきり。楽しもう!
この世界に来て、初めて戦った者。それと、夫婦になっている現在。
人生は、面白過ぎる。
戦意を高めるアオミドリ。魔神とも訓練をしている身。蹴速が相手だろうと、臆する理由は無い。
アオミドリは、元来臆病な性格。しかしそれが、変わった。むしろ、本質が現れ始めた。魔王らしい魔王。
それは、こう言うモノだ。
対峙した蹴速に、いきなり突っかかる!と、見せて直前で魔力爆発。
視界は塞いだ。蹴速の居た空を目がけ、全魔力を開放。
超騎士の張っている船周辺の結界にも及ぶ振動。
「強い」
「ふん」
流石に無双双児のアレには及ばないにしても。十分、警戒に値する。
亜意は知っている。奴は、怠け者だ。魔界に居た頃、その生来の力を有効活用した事は、一切無いはず。十分な肉体強度、十全な魔力密度、その2つを操りきる頭脳。本来のあいつに、不足は無い。
受けた蹴速は、多少痛みを感じていた。避けるのは、不可能ではない。だが、それでは、稽古にならん。アオミドリの強さも感じたかったし。
蹴速の気のコーティング上から、痛みを与えるレベル。それは既にジンやアカの領域。アオミドリは、強い。
蹴速も本気になった。
おお
蹴速の本気を感じたアオミドリは、精神肉体共に現時点での限界を極めた。
魔力を充満させた肉体を自在に操り、蹴速に格闘戦を挑む。
良い意思だ。
熊手。アオミドリレベルの魔力と気なら、鋼板だろうが刀剣だろうが容易く引き裂く。蹴速も同じく熊手で迎撃。アオミドリの右手と蹴速の左手は正面から組み合った。手と手を握り締め合う。その結着点は、実に20万トンの圧力を発生させていたが、両者の次の1手で引き離された。
蹴り。蹴速を象徴する一撃。それを、蹴速との攻防で使用するアオミドリ。
愛してしまう。
アオミドリ、右の回し蹴り。加速は無し。空で蹴速と手を握り合った状態のまま、腰から伸びる強撃。蹴速、右の前蹴り。空を蹴り、加速。
当然、蹴速の足がアオミドリの腹に突き刺さる。
その反動。アオミドリは利用する。
腹に来た衝撃を、自ら背へと流す。途中で止まらされた右の蹴り足を振り戻す。両のエネルギーに更に魔力と気を全開で上乗せ。
1回転。右の戻しの勢いのまま、踵落とし。
これも、例え海に蹴り入れたとしても尚、海を割る程の強打。
しかし、蹴速は迎え撃つ。左手で、踵落としの最大威力の乗った地点で、掌打。
重い。まさかこれほど。まさか、これほど。楽しめるとは。
右足が、動かない。蹴速の迎撃で、間接が終わったっぽい。
飛行魔力を最後まで使い切る。これで、こちらの勝機はオシマイ。
大丈夫。全部出すから。
アオミドリの左腕に魔力の輝き。それに反応してしまった蹴速は、右手の動きの察知に遅れた。
右手で蹴速を、抱き締める。
これは戦い。普段なら、抱き締め返す所だが。
アオミドリの研ぎ澄ました魔力を全て込めた左腕が蹴速の首を狙う。
なんて。可愛い。愛おしい。
愛したい。
蹴速は頭をアオミドリの頭へ擦り付け、口付け、ついでに首を圧し折った。
「亜意」
「あいよ」
首が折れた程度で死ぬ魔王は居ない。かつて蹴速がアカにしたように、徹底的に肉体を破壊し、魔力の自己治癒量を上回るダメージを与えなければいけない。だが、治る間は苦しいのだ。
勝負は付いた。直ぐさま亜意に癒してもらう。
「やっぱり負けちゃったかー」
全く堪えてなさそうな様子。明るい。
「いやいや。ものすごく楽しめた。アオミドリは良い戦士よ」
蹴速も朗らかに笑う。最後の首への狙いは、ドキドキした。それなりの速度でアオミドリの首を折り、動きを止めなければ危険だった。
すごく楽しかった。
本当に楽しそうに笑う蹴速。そうさせるアオミドリに嫉妬する梅。
「じゃ、次は梅か」
「ん。休憩しなくて良いのか」
うーむ。確かに体が温まってしまっている。このまま調子に乗ると、梅を殺してしまう。
「じゃあ、寝るか」
「うん!」
付き添いでアオミドリが船室に共に消えた。
「まあ、死なない程度に頑張れ。生きてりゃ治してやる」
「ああ。頼む」
「本当に危なさそうなら。守ります。きっと、主は気に病む」
明確に梅のためでなく、蹴速のために梅を守ると言い切った超騎士。
全く。だから、お前は信じられる。心情も能力も、絶対に蹴速を裏切らないから、蹴速の側に居る私達も必ず守られる。
3時間後。ぐっすり眠った蹴速は、未だ眠りこけるアオミドリを置いて、梅との稽古に出てきた。
「待たせた」
「何。こちらも楽しんでいた」
何なら、と言う事で、梅のアップを手伝っていた亜意と超騎士。マオミドリは、梅と超騎士の技巧、亜意の魔力操作を見習っていた。
亜意が梅を癒す。
現在の最高状態に持ち込めた。起きたばかりの蹴速とは、比べるべくもない。素の能力は、ともかく。
浜辺で対峙。既に抜き放った剣を正面に構える。神隠しの使える梅には、無意味な構えだが?
取りあえず。蹴速から突っ込む。神隠しは、カウンターで最もその力を発揮する。それを使わせずに、梅と戦ったとは言えん。
本気の蹴速なら、この右の拳は見えない。先ず、手加減を少なくするのを目標としよう。
梅の腕を狙った拳は、蹴速の右足首を払う。
「おっと」
とは言え。梅が死なない程度の手加減をしていると言う事は。蹴速には、傷1つ付かない。後は体バランスを崩すかどうかの問題だが。蹴速のバランスを崩すのは難しい。それが、梅と戦うと分かりきっている場合は特に。奇襲なら、効いただろう。梅が隠れていれば。
だが、梅は、それでは嫌なのだ。
神隠し発動。
隠すのは、拳でも梅自身でもない。
「おお?」
蹴速の動きが止まった。億軍を相手取ろうが魔神に敵しようが止まらない蹴速が。
流れが、見えない。
それは空気。それは空間。
拳を50センチ突き出せば。それは、50センチ先に届いているはずだ。しかし、目の前、蹴速と梅の間は。
試しに、力を入れて拳を突き出す。普段なら、数メートル先が木っ端微塵になるはずだが。
そのエネルギーは、蹴速の周囲で散りばめられ、蹴速自身にも降りかかった。
痛くはない。問題点は、たった1つ。
梅は、何処だ。
見えている。確かに其処に居る。だが、その距離が測れない。おれと梅の距離は、一体。
「不可思議な」
「ああ」
超騎士の結界ならば、梅のあらゆる攻撃を止められる。しかし、超騎士の攻撃も届かないのではないか。梅の評価を上げた。
亜意に取っては、未知の技ではない。しかし、面倒な。現実にやるか、そんな事?戦いたくない。
今度は梅からの攻撃。
これが、梅の課題。どうやって、格上にダメージを与える?相手は対魔蹴速。気を入れた状態なら、神無でも擦り傷すら付けられない。どうする、三鬼梅。
己の腕力では足りぬ。例え、一一人の剣を借りたとしても。だったら、こうする。
背後から来た。それは問題無い。梅の斬撃は、あらゆる角度から来る。それは理解出来る。
だが、この重さは。
み、き
蹴速の筋肉が軋む。受けるのは成功。だが、重い!
この時の蹴速の肩を切った一撃、純粋な重量に換算するなら、およそ5千トン。この重さは、もう蹴速でも無視出来ない。気を入れていなければダメージを負う。
つまり、気を入れている現在。蹴速に負傷は、無い。
ちい。
これが、蹴速。千倍の重力を持った星を経由し剣を「重く」したのに。
分かった。この世の何処かに、梅は居る。
ならば。
夫たるおれが、梅にこの手を届かせる。
蹴速は一瞬千撃を繰り出し、梅に通じているであろう何処かの空間、全てを打った。
いかん!!
梅は死んだと思った。
梅の体温を感じた拳、49撃を紙一重で止めた。
届いた。
ついでに梅の背を撫で、褒める。
「参った」
梅の言葉を待つ間も無く、蹴速と梅の間の不思議な空間が消え、世界は元に戻った。
「すごかったぞ、梅」
梅自身の地力がもっと上がったなら。次は勝てないかも知れない。
「ふふ」
そうなったら、良い。私も、愛する男を守りたいよ。
超騎士も新技を出したいし、亜意も蹴速と手合わせしたいと願い、2人とも稽古をする事に。
元気で何より!
「元気な事だ」
「おお。すまんな海鶴。海岸は、まだ騒がしい。落ち着いたら行こう」
それら全てを跳ね除けるのは、可能だが。海鶴の目汚しになる。出来れば、そんな事はしたくない。
「私も楽しんでいる」
言葉通り、海鶴は龍化した己黄を連れ、海の中を自由に動き回っていた。己黄の力を見た蹴速と梅が許可を出した。
己黄が傷付くとどうなるか分からない。そして、2人を傷付ける事は、蹴速が許さない。故に、超騎士の結界を付けっぱなしと言う状態で、自由行動となった。
「ふん!」
「己黄もやりたい?・・・なら、超騎士と亜意の次な」
「うむ!」
最悪、今日、コウチか、この地が終わる事になるが。構わない。
己黄がやりたいなら。それが正しい。おれもそうして来た。後始末は、おれが、やる。し、皆も手伝ってくれるだろう。
大丈夫だ。住める土地には、幾らでも当てが有る。




