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三鬼梅。

「恐れを知らぬ者共よ。これが、コウチ3名家。三鬼梅だ」


 梅は、眼前の敵兵、数万に語りかけた。


 所は海岸。敵の戦意は高い。戦力はそれなり。


 敵を目前にして。まだ、死んでいない。死にかけたなら、亜意が何とかしてくれるだろう。


 この命を、この世で試す。


 わざよ。応えよ。


 三鬼梅は、どれ程の者だ。


 今、分かる。


「初めまして」


 梅は一言発し、敵軍に突っかかった。


 見守る蹴速、亜意、超騎士、己黄、海鶴。


「皆でかかれば、時間もかかるまい」


「うむ!」


「あれが、梅の意」


「奴が今回の総大将。何を好き勝手しても良い。あいつも楽しみたいはず」


 戦いを、血を。


「梅」


 がんばれ。


 梅の気勢が、違う。強さを張り合う梅。見た事無い。味方で競い合うのは健全。だが、頂点争いとなると、厄介な事になりかねない。梅はそれを避けているのだと思っていた。


 強さが欲しいなら、おれを使ってくれれば良いものを。


 梅もまた、戦人だったか。


 支配者、上に立つ者、管理者、そう言ったものではなく。


 己のために剣を振るい、己のために他の血を流させ、有るがままの我が身を、己の有り様を、現す。


 梅は、そこに立った。いや、ずっと以前からだ。魔神に斬りかかり、魔神の怒りを買う事を躊躇ちゅうちょしなかった、あの時から。梅はずっと、戦う者だった。


 その梅を、おれは放っておいたのか。梅の戦意を、満たしてやれてなかったか。


 ちゃんと、梅とも稽古しよう。


 蹴速の気の充実を感じ取った亜意と超騎士は、今戦場に在る梅が巻き込まれないか心配した。


 梅に真っ直ぐ射かけられる弓矢。そして、その全ては射手の頭部に的中する。


 敵軍に起こる動揺。


 その機を、梅は十分に使う。


 恐らく隊長、と見える者共の首をことごとく刎ねる。一歩の踏み込みも必要とせずに。梅は、本来、このような戦い方をしない。大将首を獲って、その次の指揮官を獲って、その繰り返しで戦意を奪い取る。一般兵を幾ら殺そうが、敵は諦めてはくれないのだ。


 だが、今は、試しの時。


 数万の命よ、私のために散れ。


 梅に降りかかる剣槍矢。その全てが、梅には当たらない。


 敵は、たじろぐ。人の壁が、梅の数万倍の人数が、梅1人から、下がって行く。


「私は、三鬼梅。今なら、降伏を許す。ひれ伏せ」


 その場のあらゆる者。一般兵も隊長も将軍も、ナンバークラスも。皆が膝を着き、武器を捨てる。


「おお・・」


 蹴速なら、もっと殺し、再建を遅らせただろう。数人斬っただけで、敵軍を落とした。梅も、れっきとした3名家。戦力としては、蹴速に劣るかも知れない。それでも、この鮮やかな戦闘は。


 蹴速は、今初めて、梅の戦闘能力を高く評価した。


 神隠しは、敵に強烈な恐怖を与える。梅と戦いたいと望む者は、そう多くないだろう。


 足りん。


 有我なら、素の状態で皆殺しにするだろう。神無なら、神隠しを用いれば、数分で蹴散らす。私は、結局、数人を斬るので精一杯か。


 もっと、生贄いけにえが要るか。


「梅。兵に指示を」


「ああ」


 ぼうっとしている梅に、蹴速が声をかける。


 敵兵の前で考え事?梅が?有り得ん。


 久しぶりの大戦おおいくさで、気の引き締めと緩めのタイミングが掴めんのかな。こんな時こそ、おれも役に立とう。


 亜意だけは気が付いた。梅が殺気立ってる。


 蹴速と超騎士は常態で人を殺すので、梅のそれを、ただのやる気だと思っていた。


 亜意が気付けた理由は、弱い者同士だからかも知れない。これが、一一人なら、呼吸するのと同程度の無意識に斬るだろう。そう言うモノだからだ。しかし、亜意は意識的にしか動けない。梅も、そうなのだろう。


「梅は、幸せそうではないな。蹴速。何とかしてやれ」


「そうなのか?分かった」


「うむ!」


「おお、己黄も、ありがとうな」


 教えてくれてな。


 蹴速には足りぬものが幾らでも有る。それでも、それを補ってくれる、助けてくれる家族が居る。有り難い事よ。


 海鶴は、梅の体からほとばしる熱さを感じた。それは、蹴速らがいつも発している、戦に赴く熱ではない。己を焦がす類の熱だ。それは、持たぬ方が良い。


 海の底で泡立つ、熱水を海鶴は思った。


「兄貴。出過ぎた真似をしない約束だったが」


「良いぞ。お前が言うべきと思ったなら。それが正しい」


「危ない奴らが、居ない。大将格の、あいつだけしか。他の、地居みたいなのが、居ねえ」


「ほう」


 一応、梅に連絡。戦闘要員は、未だ自由を保っている、と。


「おれらあは、そいつらを探すか」


「私は、梅と共に在りましょう」


「頼む」


 梅と超騎士を置いて、蹴速達は、居るはずの居ない者共を探す。


「強いんか?」


「ああ。おれらと対等」


「それは、楽しみな事よ」


 神化を使いこなす地居と同等か。面白い。


「おい。海鶴と己黄はどーすんだ」


「海鶴様は、お役に立ってもらってはどうだ。奴らは、海に居る」


「何?」


「海岸、つまり岸辺の陸地と、海。それがこいつらの領地よ」


「聞いとけ」


「あー・・」


 山岳都市で、本当に稽古しかしていなかった蹴速。


 梅は、もちろんこの情報を仕入れているが。


「何故、海鶴を蹴速の下に?今は危険だろう」


「亜意が居ますから。それに、海鶴も己黄も、あの人と歩きたいでしょう」


「それは、そうだろうが」


 どちらも、火の粉が降りかかっては、不味いだろう。


「私には亜意、お前は海鶴と己黄を守ってくれないか」


「しかし、」


「おいおい。幾ら何でも、私は3名家。お前には譲るかも知れない。だが、強く在るつもりだ」


 そう、心配するな。


 要求、願い、強要。


 梅の、気。それは、意気。


「ならば、そうしましょう。ですが、くれぐれも気を付けて。此処は敵地」


「忠告感謝。すまないな」


「私達の幸せにつながれば、それで良いのです。あなたに守護が要らないのであれば、それに越した事はありません」


 梅のこの態度、油断か慢心か、自信か。


 正直、恐怖している。神化を用いた山脈の者。それと、同程度の海岸の敵。私では、荷が勝ちすぎる。


 それでも。


 この、三鬼梅は、3名家の者。


 勝てぬようなら、それは3名家ではない。生きたいなら、蹴速と共に在りたいなら、


 有我と神無と肩を並べていたいなら!


 勝て、私。

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