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その頃の我が家。

 祝寝の戦場。それは間違い無く、此処だ。


祝速すくすくをお願いね」


「ええ。でも、私がそちらを見ても良いわよ。祝速と一緒に休んでも」


 モモの気遣い。だが、これが祝寝の仕事。


「大丈夫」


 モモが心配だと、キから聞いた。キは最も出来た魔王。キの言う事なら、聞いておいた方が良い。


 子供達と遊ばせる事で、せわしなさと柔らかさの海に沈める。正直、モモの事情は分からない。争いが嫌いなのに、どうして、強いのだ?


 自分は蹴速に付いていけないのに。


 ただの妬み。無いものねだりだ。誰が悪いのではない。強いて言えば、己の薄弱さが悪い。


 能美のみの 祝寝すくねは、戦人せんじんではない。戦場いくさばの習いも、何も知らない。


 だから、別の戦場せんじょうを戦う。


 蹴速が外、私が中。そうして行くつもりだった。あの時までは。


 何時の間にか、その未来は消えた。


 それは蹴速の選択の故。そして、拒ませなかった私の故。


 自分と蹴速以外の全人類を殺させなかった私が悪い。


 選択肢には有った。思考した時も、有った。私の、1人の力で、2人の生活を維持出来るか。イメージし、本を読み。お父さんの家庭菜園を借りて、野菜も育ててみたり。イマイチ自信は湧かなかったので、蹴速に言った事は無い。


 邪魔な人、皆殺して、私と蹴速で楽しくやって行こうよ。


 いつか、言うつもりだった。


 殺させなくて、良かった。


 魔神シロには、勝てない。超騎士や無双双児、軽兵を殺していれば、恐らく勝てなかった。蹴速は、死んでいた。


 危ない。一生独身は、流石にちょっと。


 それに、2人ぼっちの世界には、海鶴も己黄も居ない。


 能美祝寝。公式の活躍は全く無い、正真正銘の平凡な元学生。ただ、蹴速の嫁が出来る位には、オカシイ人間ではあった。


 台所では、一飲涙いのりが腕を磨いていた。キッチンをテーブルを、拭いていた。


 エヒメナンバーワン。しかし、この家の戦力順位では、ほぼ最下位。辛うじて、特盛よりは強いか。まともに、戦力として生きて行こうとすると、無理が生じる。この「家」の戦力となった方が、まだ勝ち目が有る。幸い、対魔蹴速には、生活能力は無い。一飲涙でも役に立てる。


 ちゃんと子も成した。これで、強い血もエヒメに流れる。いや、エヒメに帰れるかどうかは、分からない。正直、今の私はエヒメに寄与していないのではないか。


 コウチに敵対しない証明。そして、対魔蹴速の家族であると言う保障。どちらも誇るべき戦果ではある。女に生まれて良かった。


 いや。少年も囲っているから、男でも女でも、どちらでも良かったな。


 寝る前に思う事だ。


 奴より、誰より強ければ。私は、エヒメを守っただろうか。何者にも負けぬ程強いなら。我がままに振舞う子供のままだったのではないか。


 拭く手を休めぬまま、己を見つめる。


 子持ちのナンバーワン。後進に譲るべきだろうか?しかし、エヒメで最も強いから、ナンバーワンなのだ。強さ以外で譲るのは、ろくな事にならない気がする。


 曇りの無いテーブル。雑巾を良く洗い絞り、キッチンも綺麗に磨く。手を入れてやれば、道具は応えてくれる。剣も布巾も、変わらぬ。


「一飲涙、そこが終われば休め」


「はい。キは?」


「おやつを、と思ってな。この前、クロの作るホットケーキを手伝った。あれをな」


 今、クロは子らを祝寝と共に見ている。


「お手伝いしましょうか?」


「大丈夫だ。ホットプレートで焼くだけ。おれでも出来るらしい」


 キは、家事は門外漢だ。だが、この家での、生活。蹴速との人生を楽しもうと、思った。強い刺激は無い。だが、どうにも、居心地が良い。


 魔王には各自城が与えられていた。そこでの生活は、何不自由の無いもので、とても安楽だった。誤解を恐れず言えば、ミドリの性格の根本は、あの、城での楽な生活だ。


 今、此処には、使用人は居ない。が。仲間が、子が、夫が居る。何時でも。


 お互いの体温を知っている。肌触りを、匂いを、感触を。そんな者と、命を預け合って生きる。初めて知った世界。存外、心地良い。


「キ。バターは、焼いてからでは」


「おお」


 取りあえず、材料を全部混ぜるつもりだった。


「助かったぞ」


「いえいえ。料理でまで負けては、居場所が有りません」


 微笑みつつ、一飲涙が言う。


 キは一飲涙の変化に気付いた。以前は、もっと控えめだったはず。今は、多少の強さを感じる。


 不思議な話。稽古より、一飲涙は伸びた。


 だがそれは、不思議、ではない。家事を専門にやって来なかった強豪共。それが、全く新しい身体の動かし方を知れば。飛躍的な伸びは、実は十分に期待出来た。


 あいつには、それは有ったのか、無かったのか。


 ミドリは、意外に何でも器用にこなすタイプだった。料理家事戦技、全て。恐らく、楽をしたいと言う強い想いが、学習能力を強く喚起しているのだろう。


 アオミドリは、今頃、蹴速の側で我武者羅に働いているだろうか。最もバランスの良い魔王。魔王らしい魔王。


「キ、そろそろ、引っくり返しても良いのでは」


「おお」


 本当に上手くなったな。家事。キは残念ながら、上達速度は、然程速くない。やっと、ご飯を1人で炊いて、昼食を作れるようになった。一飲涙は、台所を1人で任されても大丈夫のようだ。


 おっと。また、人間にも勝てない、などと妄想を始める所だった。


 結局、一飲涙と共におやつをこしらえる。


「おやつだ」


 キは普通の声を発した。キッチン内で。だが。


「わーい!」


 子供達が、幾人も飛んで来た。どう言うカラクリか、実はキも知らない。マシロ辺りが何かをしていると思うが。まあ、良い。危険な行為でないなら、構わない。


 シロと稽古を行っていたマキとマアカはボロボロだが、良く食べる。


 成長したな。


 キの親心。


 ボロボロ、と言う事は、魔神シロがダメージを加えても良いと判断した。それはある意味、大人扱い。ただ、今後甘い動きを見せれば、その場で殺されるかも知れない。成長すれば行動範囲も広がり、危険は更に増える。今現在のマキでは、三十鬼レベルの相手とやれば、負ける。マアカでも、半々だろう。マシロなら勝つか。


 早く、強くなれ。この世界を1人で歩けるように。


「己黄に、苦労をかけている」


「んー」


「お前にもな」


「それは良いんだけどね」


 神無の新しい剣は、一一人の倉にも無かった。最も硬い、シロを斬っても折れなかった開山登花かいざんとうかですら。恐らく保たない。


「神砕きとは、神をも砕く剣、と言う意味ではない。神の砕いた破片、そこから作った剣なのだ。人間が製造出来る物ではない」


「中つ国に伝わってたの?」


「さてな」


 それを、神無は知らない。分家から聞いた話では、それで合っているはずだが。事実か、与太話か。確かめていない。あるいは、中つ国には、神砕きも有るか。


 中つ国首脳陣は、有我、神無で殺し回った。そのため、情報源は既に存在しない可能性も有る。


神朗かみおに探させないの?」


「要らぬ事だ」


 それは、コウチの弱みになりかねない。神朗が、コウチ代表が、頭を下げる事態に繋がるかも知れない。神朗なら、神無のためにやる。だから、命令をするなら。神族の家をことごとく殺し尽くし、財宝を奪え、になってしまう。それは、流石に信を失う行為だ。


「歯牙なら」


「まあ、そうだな。体が癒えたら。俺が行く。自分の得物ぐらい、自分で探すさ」


「そう?有存在あまれは、どう思う?」


「おいおい」


 乳飲み子に話を振る、コウチナンバーワン。それでも、全く勝てそうにない。


「俺は溜め息をきたい、神居かみおり


「愚痴を零されてもねえ、神居ちゃん」


「ふん」


 神無の部屋に来た有我は、有存在を抱いていた。ついで、でもないが、神居と共に。


「ちゃんとクロの所に戻してくれよ」


「分かってますよー」


 ねえ、神居ちゃん。


 神無は、本当に分かっているのかどうか疑わしかった。


華英手かえではどうだ」


「今は、シロが追いかけてる」


「先が思いやられるな。反抗期にでもなったら、手が付けられんぞ」


「将来楽しみだよね。有存在も、うかうかしてられないよ」


「はあ。二神が、コウチナンバースリーになるか」


「そお?」


「今の俺には、梅に勝つ自信が全く無い」


「ふーん」


 どう、かな。


 有我の目には、神無と梅なら、神無。しかし、神居と華英手なら?それは、2人の成長後を見るしかない。つまり。2人の差は、明確では、無い。


 華英手は今、神隠しで、この世ならざる場所を「はいはい」している。それをシロに探してもらっている。クロの監視を抜け出したのだ。かなり、やる。


 いや、そんな場合ではない。揃いも揃って、赤子1人を捕まえておけないとは。家での立場が無くなる。


 シロは、華英手を見ていた。「この世界」の周囲10億キロメートルに存在する敵、かも、知れないモノを全て消した後、華英手におもちゃを与え、はいはいを見守る。


 良い子じゃ。


 素養が有る。


 梅に言って、教育方針を共に考えてみるか。


 独断では、やらない。蹴速に嫌われるかも知れない。


 数分の後、華英手を連れ帰り、いやー探した探したとポーズ。


 楽しみが、増えたの。


 魔神の笑みに、クロは気付いたが。


 魔神様、それは、家族の不和を招くものでは有りませんね?

 無論。むしろ、皆の意欲を増進しよう。

 では、蹴速様にもそのように伝えましょう。

 む、むむ、無論。

 

 本来。魔神に物申すのは忠言に限られる。このような舐めた口調では、クロが何体有っても壊されるだろう。しかし。今のクロを壊すのは、それ相応の理由が必要とされる。魔神の持ち物ではある、が、今は蹴速の嫁でもある。クロはその状況を良く分かっていた。


 そして、その心情を全く隠さず魔神と接している。


 これは。わしの教育が良かったのか。全然お話になりませんーだったのか。


 良かった事にしよう。うん。


 おやつを食べ終わり、今はお昼寝の時間。


「寝なくて良いの?」


「ええ。それより、お話を聞きたいのです!」


「話、か」


「主に、銃器に関して」


 量猟りょう仮要明がいあを同じ部屋にまとめ、話を聞きたいと切り出したマシロ。


「しかし。話と言っても。お前達の魔力なら、銃より砲より、強いだろう?」


「それは、確かに。しかし、術技としては、別です」


 例えば、シロ。シロなら、あらゆる事が自在。人間の技では追い付かない。しかし。アカなら。人間の方が、あるいは上だ。純粋な技巧に的を絞れば、だが。


 最強の魔王より、技では人間が勝る。ならば、其処には学ぶべきものが有る。


 マシロの目標は、魔神シロ。更には、それを超える事。万物を知る魔神を超えるため、その魔神のやっていない領域を知るのは、決して遠回りではないだろう。


 魔神シロは、人間と共に学んだ事は、恐らく無い。


 マシロの考えは、半分、当たっていた。


「オオオオオ!」


「オオ!!」


 アカの拳とジンの拳が宇宙を震わせる。


 蹴速の世界に来ていた2人は、宇宙空間で稽古を行っていた。


 どちらに取っても、強敵。蹴速並みのアカ、蹴速を超える腕力のジン。その両者のぶつかり合い。


 アカは速度を全開にする。翻弄のため、ではない。より速く!ジンの構えが出来上がる前に!ただ、この拳を突き込む!


 分かる。アカは来る。アカなら、来る。


 蹴速に対して打ったのとは違う。あそこまでの全身全霊ではない。それでも。一切手加減の無い、本気の拳。


 それを受け、ジンは、立っていた。


 口元が妖しい笑みを作る。


 背筋を凍らせたアカは、全力で下がろうとするが。


 腕を、掴まれている。ジンの腕力は、蹴速を、アカを超えている。


ご、お


 アカは魔力を完全に防御に回し、全身の筋肉に緊張を走らせた。はずだが。


「は・・・・」


 息が、出来ない。呼吸を潰された程度で、死にはしないが。腹筋を内臓をぶち抜いた胴体正面から来た拳に、全身がやられた。手先、足先に至るまで、自由に動かない。身を丸めて痛がる事すら。


「お」


 アカの身動きの出来ない様を見て取ったジンは、すぐさま蹴速の家に飛んだ。


 しばし、休憩。


 1時間後。


「あー。死んだかと思った」


「おれも。アカが死ぬと、宇宙で放り出されるからね」


「あはは。やっぱり魔神様か、超騎士が居た方が良いね。そっちのが遠慮も要らないし」


「かもなー」


 今なら、こちらの世界の蹴速の家の中には、固定されたゲートが有る。仮にアカが死んでも、ジン1人でも帰れなくはない。


 亜意、アカの修行も兼ねて、固定式ゲートを作ってみたのだ。


 部屋の間の「のれん」をくぐるように、ゲートをくぐって、あちらとこちらの自宅を行き来できるようになった。


 ただ、何時まで保つかと言うと、良く分からない。アカの魔力を十分に注ぎ込んでいるので、しばらくは維持出来るはずだが。亜意、アカが様子を見ていれば、もうすぐ消える、まだ大丈夫、程度の差異には気付ける。現時点でも、まあ使えると言えるか。


 アカによる治癒。


 ジンとて、アカの拳を真っ向から受けている。全身とは言わないが、上半身全てが痛かった。


「ありがとー」


「いえいえ」


 蹴速を求める者同士。火花散る関係と同時、親しみも無いではなかった。

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