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蹴速が行く。外伝。3名家、先代。

 春であった。


 陽光きらめき、暖かな、春。


 誰もが、待ち望み、冬の厚着を脱ぎ捨て、身も心も軽くなる、春。


「神無も、楽しそうじゃないか」


「それはそうですよ。あなたが帰っているから」


「う。そう言えば、俺、寝顔しか最近見てなかった・・」


「ふふ」


 二神ふたがみ 太郎木たろうもく七郎しちろう神切かみきり。コウチ3名家の一つ、二神の当主。そして、現在のナンバーツーである。


 即ち、コウチで2番目に偉い人間が、何故、時間を自由に使えないのか。


 他国との会合のためである。今回は、4ヵ国での、海岸警備について、だった。4ヵ国で監視網を共有する方針になり、これであるいは被害も減るかも知れない。今までは、襲われている他国の人間を救助するのは自由意思に委ねられていた。助けに入れば、自らも引きずり込まれる可能性が有るのだから。今回の決定では、武装兵を常駐させ、被害を減らしつつ、救助の難易度を押し下げる。金が飛ぶが、それは増えるであろう人口でまかなえば良い。


 そんなこんな、会議の行われたカガワで、各国主要人員との顔もつなぎつつ。帰宅出来たのは、1週間後であった。それまでも、会議のための準備で毎日帰るのは遅く、幼子おさなごである神無は神切の帰宅前に寝ていた。


「これから、ゆっくり出来る。華虎の事務能力向上のためにも、実務は奴にやらせる」


「まあ、都合の良い事」


 妻に笑われてしまう、神切。


 三鬼みき 華虎はなこ。神切の兵学校時代の同期であると共に、3名家の同僚でもある。と言っても、3名家の生まれの神切とは違い、華虎は婿に入ったのだが。それはそれで、優秀な人材だ。


「あの。梅を抱かせてください」


「ダメだ」


「そこを何とか!」


「手を抜いたな?許さん」


「だ、って、お前、」


「言い訳無用。3名家の男ともあろう者が。対戦相手の体調を考慮するなど。叩き潰せば良いのだ」


「嫁だって!」


「ちい。こんな小心者だったか」


「いや。体調を崩している者に全力を振るうのは、稽古にもならねえって、実際」


「むう」


「ま、そーいうわけで。梅ー。パパですよー」


「ダメだ」


「なんで!?」


「お前は、これから執務にこもる必要が有る」


「ああ・・神切が帰って来たからな。奴も神無と時を過ごしたいだろう。おれが頑張るさ」


「だからだ」


「??」


 梅可愛さに、早く帰って来るだろう。ついでに、私にも、早く会いに帰れ。


「梅の健康に響く。寝るぞ」


「お、おお」


 すぐそこに居るのに、梅を撫でぐり出来ない華虎は、心の中で涙を一粒こぼした。ついでに、妻の熱い抱擁にもだえた。本当に、熱を出していたために、熱かったのだ。


 三鬼華虎の奮闘の日々が始まった。定時に帰り、娘と食事を共に取るために。風呂にも一緒に入りたいし、一緒に寝たい。まだ、お父さんと一緒は嫌、とは言われないはず!今しかないのだ!


 そして、春も、半ばを過ぎた。


 街が一つ消えた。


 正しく言えば、襲われ焼かれ、死人と瓦礫がれきの街になった。


 3名家集合。


「報告ご苦労。伝達は、遅延無かったよね?」


「ああ。伝令が命からがら駆けてきた」


「うむ。だが、おれ達の足が遅かった。すまねえ」


「華虎の進軍に問題は無かった。問題は、敵の早さ。指揮者が居るのかと想像する。統率の取れた撤退だったのだろう」


「ああ。残っていた魔族は皆、斬った。だが、斬れなかった奴らは、静かに逃げていた。何者かの指示に従っているかのようだった」


「と、言う事だ」


「ふむ・・。攻め来たルートは確認出来た?」


「いや。黒穴くろあなは、もうふさがっている」


「厄介だね」


「ああ」


 3名家集合、と言う事は、そう。一一人も、居る。


 一一人かずひと 自有みう。コウチにおける絶対最強。二神と三鬼を除いた「コウチと言う国」と対等に戦える、戦の申し子。


 惜しむらくは、その一一人を以ってしても、魔族を消去しきれていない現実。単純な戦力の問題では、恐らくない。一一人は不敗。少なくとも、一一人になってからは。


 ならば。不敗で有りながら、何故魔族の跳梁跋扈ちょうりょうばっこを許すのか。それは、魔族の神出鬼没のため。「山」から来ている。そこまでは掴んだ。だが、巣穴を見つける事は、叶わなかった。


 海にも魔族は出る。だが、それらは全く統率の取れていない獣。個体の危険性は有れど、警戒すべき脅威ではなかった。一般兵1人が相対して危険を感じてしまうので、いずれは絶滅させるべきなのだが。


 山。フォーデス山脈。4ヵ国にまたがり広がる、魔の総本山。フ・ズィのようなものだが、あそこは、フ・ズィ1国でフォーデス山脈以上の魔獣を生み出し続けている。周辺国が協力し合う必要が有るのだ。


 では、4ヵ国は、協調してフォーデス山脈を狩らないのか?


 コウチ1国でも、実は山狩りはやっている。しかし、その度、空振りに終わる。故に現在は、監視兵を置くに留めている。普段は大人しいものなのだ。4ヵ国で兵を出した所で、狩るべきものが現れなければ、意味は無い。


「監視を強化する。兵員を倍に。」


「避難誘導はどうする」


「対応は、しない。一般人を逃がす場所が無い。先日壊滅したのは、山に隣接していたとは言え、危険区域ではなかった。あそこでも襲われるのであれば、コウチに安全な場所は、無いよ」


「うむ・・」


「しかし。実際問題。誘導はするぞ」


「そりゃそうだよ。一時的に、天狗高地にでも」


「遠すぎる。首都近郊に何とか。緊急時だ、屋根さえ有れば良い。そして台風が来るまでに集合住宅を建てる」


「うーん。分かんないから、神切ちゃんにお任せ!」


「了解だ。頑張れ華虎」


「おれかよ!」


「これも、3名家としての修養だ」


「口実だろ」


「神無に会うため、早く帰りたい」


「偽れよ!せめて、もっともらしい理屈を作る努力を!」


「俺は、仲間に嘘は言わない。利用はするが」


「さっすが。3名家の固い絆を感じるね」


「・・・」


 その固い絆には、今、多少のヒビが入った。


 忙しくなったコウチ。終わった街も、そのままにはしておけない。亡骸なきがらが有れば弔い、廃墟が有れば解体し、生まれ変わらせる。人間の暮らせる領域を増やし、人間を増えやすくする。


 そして、意趣返しをしなければいけない。


 何もせず、やられっぱなしでは、3名家など、無用の長物。


 次回の侵攻の際には。現れた魔族は、逃がさない。全て、コウチの土に還す。


 3名家で意思の再確認、統一を図り、それぞれの修行に励む。


 そして、来た。


 軍勢。敵総数、数万。


「出る」


「待て」


「理由を」


「まさかと思うが、あれがただの囮であった場合、不味い。一一人は、コウチ首都に留めおきたい」


「同感。おれが行く。全軍連れてくぜ」


「待て」


「え?おれは、良いだろ」


「お前はまだ、弱い。せめて、野薔薇が復調していればともかく。お前1人では、まだ任せられない。よって、俺が行く」


「・・・地味ーにショックなんだが」


「華虎ちゃんは、これからまだ伸びるよ。ガンバ!」


「おお・・、おお!」


 三鬼華虎の妻、三鬼 野薔薇のばらは、未だ体調を崩していた。華虎より強い妻だが、夫の教育のため、表仕事に出させている。


「で、神切ちゃんだけで、良いの?神化を使う想定はしている?」


「ああ。万が一は使う。・・俺の考えでは、恐らく囮。集めるだけ集めた数を使い、前回と同じ侵攻と思わせ、コウチ兵を誘う、のだと思う。1つの街を襲うには、過ぎた数だ。かと言って、国落としには足りない。こちらには、一一人が居るのだからな」


「ふふん」


「故に、軍勢で誘いをかけているのだ。そして、ガラ空きの首都を優秀な戦士が襲うのだろう。それを潰してくれ、自有」


「りょーかい!」


「おれは?」


「自有、華虎は要るか?」


「んーん。神切ちゃんが使っていいよー」


「ならば、華虎。俺の戦いを見ていろ。3名家の戦場を見せてやる。本当なら、野薔薇が教えたかったのだろうがな。この次第だ。仕方ない」


「ああ。有り難く、教わるぜ」


「そして、俺が神化を使ったなら。神化が終わったなら、連れて逃げてくれ」


「ああ?お前が、逃げる必要が有るのか?」


 華虎は、ケチを付けているのではない。本当に、神切の強さで、逃げる事態を想像出来ないのだ。


「神化は、条件付きのわざ。10分くらいで、神切ちゃんは動けなくなっちゃう」


「そう言う事だ。俺は、神化が終わり次第、使い物にならなくなる。そうなれば、華虎。俺を背負って逃げろ」


「おー。だが、その必要は、ねえ。お前を安全な所まで移したら、おれが敵を皆、斬るからだ」


「ふん。楽しみにしていよう」


「ボクは有我と遊びながら、敵を待ってるよ」


「お前な」


「すげえな。流石、一一人」


「いや。こいつは、何も考えてないだけだ」


 3人の子供は、奇しくも同い年。図ったわけではないが。3名家が同時に使い物にならなくなるのでは、と心配されたが。何とか、無事、出産育児を乗り切ろうとしていた。


「戦いに備えて、平常心を保つため、家族との交流を・・」


「今考えた言い訳など、要らん」


 戦いに緊張する一一人など、聞いた事も見た事も無い。本当に、ただの冗談なのだ。


「はあ・・。余裕有るなあ、お前ら」


 華虎は、若干緊張していた。大規模な戦は、今回が初めてだ。


「何。すぐに慣れる。戦えば、緊張など吹き飛ぶ」


 立ち上がる神切。


「頑張ってね、2人共!」


「おお!!」


 出陣する神切と華虎。見送る自有。3名家の3人が、最後にそろった時であった。


「で。陣容は」


「俺が先頭。剣士隊で壁を作り、砲撃隊で潰させる。簡単だろ?」


「ああ。聞いてるだけなら、簡単に聞こえるぜ。詰まる所、お前に敵戦力が集中するって事だろ。そして、味方に、寄り集まった敵を掃除させる」


「ああ。常人は、1度に2つは出来ない。敵を倒しつつ、己を生き残らせる、と言う事は、難しいのだ。だから、俺がやる」


「危なそうに見えたなら。割って入るぜ。おれを参戦させるって事は、それを承知したものとみなす」


「ああ。構わないとも。危なそうに見えたなら、な」


「ち。自信たっぷりなのが、似合ってる」


「ありがとう」


 和気あいあいと話しつつ、2人と軍は、戦場と化す街に着いた。


「良し。避難は終わっているな」


「わずか1時間で良くぞ」


「この前の教訓とは言え。敵も、待っていたようだな」


 神切の言う通り。敵軍は、まだ動いていなかった。


「本当に、お前の言った展開になっちまうのか、もしかして」


「さてな。そうだとしても、自有が何とかする。奴が居れば、大丈夫だ」


「ああ、確かに」


 首都には、一一人を置いている。ならば、問題は、無い。


 目の前の敵を、丁寧に処理する。心配事は、1個1個片付けよう。


「行って来る。恐らく、昼飯には帰る。じゃあな」


「おお!」


 華虎の掛け声を背に、神切は突っ込んだ。剣士隊、砲撃隊が後を追う。


 街を背にする格好になった味方、街を襲う形になった敵。


 仕組まれていた?


 華虎は疑問を持った。だが、街を襲えば、住民を救助するため兵を割く必要が有った。その方が敵に利するだろうに。何が狙いだ。


「上手くやっているかしら」


「ああ。今のとこな・・・悟善!?」


「あら?私も、3名家よ。立場は、あなたとそう違わないわ」


 二神 悟善ごぜん。二神神切の妻。二神の家に嫁いだ、治癒能力者。


「いや、それは、そうだけど。お前は治癒者だろうが。なんで、こんな前線に居るんだよ」


「治癒者だからこそ要るでしょ。私は置物じゃないのよ」


「いや。だからって。身びいきって、後ろ指さされる可能性を切り捨てて、お前を置いてきた神切の心を汲んでやれよ」


「嫌よ。あの人が、生死をかけている最中、待つだけなんて。あなたなら我慢出来る?野薔薇が戦場で散るか否かの時、家で待つなんて」


「出来ない。なるほど。だが、ここで待ってろよ。昼には帰るっつってたからよ」


「はいはい」


 神切と兵らは順調に敵を倒していった。魔獣、魔族、強そうなのは神切が即座に屠り、兵が神切に殺到する魔に盾する。順調だった。


「強いね、君」


 その者が、出るまでは。


 なんだ、あれ。


 かなり遠く、数百メートルは離れた場所から観察していた華虎にも、一目で分かった。あれは、ヤバい。


 赤と黒の入り混じった装束。一見、普通の少年にも見えるが。華虎の目には、


 化け物に見えた。


 華虎は駆けようとした、が、悟善が止める。


「行ってはダメよ」


「何?」


「神化を使うわ」


オ オ オ オ


「おお!!」


 神切が、変わった!


「へええ。もっと面白くなるんだ!良いね君!」


 だが、敵も呼応しているようだ。あの、神切に!


 こいつを、行かせるわけにはいかない。ここで止める!!


 神切の斬り込み。赤の化生をたたっ切ったはずの一撃。だが、手応え無し。ならば、斬れるまで斬り続けるまでよ!


 強い神切。だが、敵も。


 神切の横薙ぎが片腕をぶった切った。勝負は付いた、と華虎は思ったが。


「すごいねえ」


 血が、出血が、数瞬の後に止まった。流石に斬られた腕は修復されていない、が。


「おれも、本気になろうっと」


 赤い、獣。


 デカい!


 その辺の建物より、遥かに!


 腕は失くしたまま、だが、更に速く!神切の方が速い、しかし、敵に直撃を与えられなくなった。


 炎の吐息。


 神切は咄嗟に剣風を発し、自らと兵を守った。だが、それは、その場に釘付けになる行為。しっかと足を大地に踏みしめていた神切は、続く獣の踏み込みを避けられなかった。


 受けた。神剣、神砕き。神砕きは、折れない。折れないが、受けた手は、痺れた。


 今度は神切が踏み込む!神化状態での全速!!それは、最早、誰にも見えない!!!


 獣の首を獲るつもりだった。しかし、皮一枚。


「怖い、すごい・・楽しい!」


 獣は、興奮と恍惚の中に居た。狙うなら、首か胴体。そう予想し、躱したが。避けねば死んでいた。


 こんな素晴らしいモノだったのか。人間。


 この、素晴らしいモノ。


 食べたいな。


 獣は、自らが認めた、好いたモノを、己に取り込みたくなった。


 神切と獣の戦いは、続く。周囲のコウチ兵は全員下がらせていたが、魔族、魔獣は、2個の化け物の余波で死にまくっていた。


 そして、戦いは、唐突に終わる。


「・・・華虎、逃げろ!撤退し、自有に伝えろ!!」


 そして、神切は、動かなくなった。


 ・・動けなくなった。


「華虎、お願いね」


「待て!!」


 治癒者以上の者ではない悟善が、あそこに踏み込めば、死ぬ以外は無い。


 だが、華虎は、強くは止めなかった。華虎なら、悟善を無理矢理拘束は、出来る。しかし、おれなら。野薔薇を置いて、逃げる?有り得ない。


 だから、この場で、あの獣をぶち殺して、皆で帰る!


 華虎は伝令を首都に走らせる。自分の口では、伝えられないかも知れない。


 先に神切を治癒していた悟善。獣は、何かを待っている。


「疲れちゃった?休んでいいよ。そしたら、もっとやろう」


 獣には、持続制限は無さそうだ。ままならぬ話だ。


 華虎も間に合った。


「わりいな。3人だ」


「良いよ。楽しいなあ」


 獣は、待つ。より楽しい時を。


 華虎は死を思っていた。この敵を前にして、生き残れる自信、無し。だが、こいつをコウチ首都に、梅と野薔薇の所に、行かせるかよ。ここで止める。今なら、3人がかり。3名家ともあろう者が数頼りとは、情け無い限りだが。使えるものは使った方が良い。


 神切は、限界を知った。神化は治癒でも癒せないと、自身で改めて思い知った。


「ありがとう、悟善。華虎と共に逃げてくれ」


「嫌です」


「頼むよ。神無が、寂しいだろ?」


「嫌です。神無も、あなたも、居なくちゃ。嫌です」


「おい。神切、神化は、もしや」


「ああ。もう、使えない。どころか、俺はもう、動けん」


 華虎は、はっきりと、死期を悟った。そして、己がこの場で取るべき行動も。


 最も弱い己が、二神当主と治癒者を生き残らせる。それが、仕事だ。


「行け。てめえは、今、役立たづだ。おれが何とかする」


「思い上がるな。お前1人じゃ、無理だ」


「喧嘩しない!」


 獣は、人間3人の仲睦まじい姿を楽しんでいた。どうやって殺そうかなあ。誰から、食おうかな。


「そろそろ、良いかな」


「1つ、頼みたい」


 この獣、多少話が通じる。指揮していた所からして、かなり高位の魔族だろう。


「なに?良い戦いだったから、お礼はしても良いよ」


「こいつらは、他の者は、見逃してくれ」


「うーん・・良いよ!」


 獣は、思い出していた。


 ・・・では、実際に軍を率いてみてはどうじゃ?

 良いの?

 おお。この才色兼備思いやり魔神。大切な部下に好き勝手やらせるのも、器と言うもの。

 わーい!魔神様大好き!


 好き勝手やって良いなら、面白いのだけ殺せば良いや。


 軍を率いるのは、正直、あまり面白くなかった。キなら、もっと上手くやるかもだけど。やっぱり、おれは、自分でやるのが合ってるな。


 こんなに面白い敵に会えるなんて!


 そうだ!この腕は、アオに癒してもらおう。それで、お礼に食べ物とか持ってって。仲良くなって。アオがもっと強くなったら、おれと戦ってもらおう。


「逃げな。追わないから」


 もっと強くなったら。やろうね。


「2人です」


「悟善」


 華虎は、口を挟めなかった。神切の気持ちも、悟善の気持ちも、分かる。


 華虎1人で終わらせる策を考えていたが。何も、思いつかない。それは、そうだ。神化を使った神切がトドメを刺せていない相手に、華虎では、どうしようもない。


 こんな時に。未熟さなど、感じている暇は無いと言うのに!


 夫婦の話し合いは、長くなりそうだったが。


「ねえ。もう、良いかな」


 こいつを怒らせるのは、怖い。


「華虎。軍を頼む」


「馬鹿が。お前らが負けたら、梅の居る首都まで来るじゃねえか。ここで止めるんだよ、おれも」


「んーん。行かないよ」


「え」


「君を食べたら、帰るよ。他の人達は、もっと強くなってね」


 獣は神切を見つつ言った。


 ・・分からない。何を目的としていたのだ、こいつは。


「有り難い。礼を言う」


「良いよ良いよ。おれも、すごい楽しかった!」


 笑い合う神切と獣。


 死ぬ。が。良い戦いだった。


 神切は、神化を初めて実戦で使った。そして、それでも勝てない敵。


 この生涯に、最高の戦場だった。


 ・・・もう1度、神無を抱き上げたかったな。


「華虎。二神神切が命じる。三鬼華虎は、軍を損なう事なく、率い帰れ。そして、自有の指示を仰げ」


「・・・承知」


 華虎は、軍勢を引き連れ、帰った。両の目から、涙を溢れさせながら。


「あいつは、やはりバカだ。泣いていては、俺達に不吉だろうが」


「それが、華虎の良さでしょう。真っ直ぐな男。あなたみたい」


「いや。俺は、あそこまででは」


「でも。華虎は帰れて良かった。野薔薇が泣かなくて済む」


「泣く?野薔薇が?」


「あ、今のは、聞かなかった事に」


「ふふ。土産が増えたな」


「いつも一緒なんだから、そんな事、気にしても」


 獣は、もう待たなかった。神切は妻に支えてもらいながら、何とか構えた。神砕き、ではない。あれは、華虎に預けた。神無へ、渡してもらうために。これは、ただの名刀だ。


「良く待ってくれた。重ねて礼を言う」


「大丈夫!」


 獣は、もう、待たなかった。


 ろくな抵抗も出来ず、二神当主と妻は、食われた。


「美味しい・・。お腹いっぱい」


 あ!皆に持って帰ってあげれば良かった!腕でも足でも、この敵のなら、すごく美味しいだろうし。


 今から、さっきの人、追いかけようかな。


 でも。約束したもんな。


 おれも楽しかったし、嬉しかったよ。ありがとうね。


 獣は、人の姿に戻り、帰った。


 物見の報告を受けた華虎と自有は、警戒を解除、兵を休ませた。


「おれは、」


「言う必要は無いよ。これは、ボクの総指揮の下の結果。神切ちゃんも、それは分かっている。華虎ちゃんに出来るのは、今よりも確実に、強くなっていく事。そうして、神切ちゃんに報いられる。三鬼としての働きを期待する」


「承知」


 後日。


 神無の教育に関わる事となる華虎は、神無の養育を、二神分家に頼む。神無と梅を、比較させて、無駄に苦しませたくない。神無は神無。梅は梅。2人共を強くする。


 神切と悟善の逝った時から、数年後、自有もまた、有我の剣に消えた。有我の、一一人の力となるため。


 年若いコウチナンバーワン、有我を支える華虎、野薔薇。


 なんで、おれより強いお前らが先に死ぬんだよ。

 それは違うよ。ボクらより、華虎ちゃんが強いから長生き出来てるって思えば良いよ。

 神切が、おれを生かしてくれた。お前が、一一人がその強さを保っていてくれるから、おれ達は生きていられる。おれは、おれも、3名家なのに!

 大丈夫だよ。華虎ちゃんは、良くやってる。有我の事。神無ちゃんの事。よろしくね。

 ああ・・ああ・・。

 3名家は、ちゃんと残ってるじゃない。守り続けてるのは、華虎ちゃんと野薔薇ちゃんだよ。だから、大丈夫。


 神切ちゃんと、華虎ちゃんと、会えて。この3名家で。幸せだったよ。


 どいつも、こいつも、おれを置いて行きやがって。


 更に、時は経つ。


 かつて、神切を、悟善を殺した仇が、その娘と一緒の家族になるくらいには。


 華虎は、何も言えなかった。言わなかった。


 あれが、魔王だと知りつつ、そうなっているのだ。どうしようもない。どうにか出来る力も、無い。


 あの時。殺さずいてくれて、ありがとうと言うべきか?そんな考えはチラリとぎったが。


 何も、言うまい。あの戦いは、終わったのだ。


 年を取った自分と野薔薇。あいつらは、年取らねえもんなあ。


 自慢してやる。有我の、神無の成長。お前らより、おれのが見てたんだぜ。梅とで、3人。おれ達みたいになった。


 剣を握って来た。それは敵を斬るため、味方を守るため。


 あの時、生かされた己を忘れぬため。


 お前らにも、見せたかったな。あいつらの花嫁衣装。綺麗だったぜ。


 蹴速って言うんだ。男は。


 すげえ、強い。


 きっと、皆を守ってくれる。


 おれ達は、蹴速が来るまで、守れたよな?


「何を気持ち悪い顔をしている」


「ひどいぞ野薔薇」


「ひどくない」


 夫に寄りかかる妻。


「また、奴らを想っていたのか」


「年取っちまったな、おれも」


ははは


 野薔薇は、笑わなかった。


「お前が、生きていてくれて。良かった。神切にも悟善にも悪いが。死んだのが、お前でなくて。安心した」


「バカ」


 華虎は、妻を抱き止めた。


「言わなくったって、分かってる。言わせちまった。すまねえ、こんな甲斐性無しでよ」


「言いたかった。お前が、奴らの所に行きたそうだったから」


「死にたくねえよ。幾ら何でも」


 華虎は、妻を強く抱きしめた。


「孫も出来た。へへへ。おじいちゃん、て、言われてみてえ。もっと、もっと、生きたい。お前と一緒に」


「私もだ」


 3名家は、終わっていない。これからも、続く。


 蹴速と共に、行く。

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