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山岳都市。

 この海は、元気だ。


 海鶴は大陸付近で水泳を楽しんでいた。己黄も龍化状態で泳ぎ、魚を食らい、やはり楽しんでいる。


「良い天気ですね」


「ああ」


 超騎士、亜意は、浜辺で日向ぼっこだ。海鶴、己黄を見ながら。


 船からは、もう下りている。今は海岸でゆったりしている。コウチ兵の上陸、侵攻準備を整えている最中だ。


「蹴速。先行も良い。だが、私に任せてくれないか」


「ああ。梅には、すまん事をした。言う事を聞く」


「謝罪の必要までは無い。ただ、私には私のやりたい事が有る。応援してくれるか」


「もちろん」


「嬉しい」


 梅は、ささやかに笑った。蹴速は梅を抱きしめ、己を、梅と共に在ると決めた己を、伝わるよう想った。


「帰ったよー!!」


「ただいまー」


 アオミドリ、マオミドリの親子が帰って来た。偵察に出ていたのだ。


「集落発見したよー!」


「2つ有りました。山岳高地の都市。それと、こちらからだと大陸の反対側になる海岸の都市」


「ふむ。近いのは、山岳かな?」


「うん。人口は、どうだろう。海岸のが多かったかな」


「そうそう。でも、両方に強そうな人達が居ました」


「そうか。貴重な情報収集ご苦労。休んでくれ」


 梅は、闘技を競い合いたいわけではない。敵なら即殺し、無駄な戦いはしたくない。可能な限り早く安全を確保しておきたい。つまり、


「蹴速」


「良いんか?また、梅をガッカリさせるかも知れん」


 蹴速は、多少気にしていた。


「お前が私をガッカリさせた事は、1度として無いよ。頼む。好きなようにしてくれ。その後、私も働く。私達の仕事だろ?」


「ああ、そうやった!」


 蹴速1人が頑張っているのではない。この場に居る家族、コウチ兵、皆で来たのだ。皆で獲る。


 船の防備をどうするか。定石で言えば、超騎士だが。


「海鶴、己黄。お前らは、どうしたい?行ってみるか。それとも、船の側で待ちよるか」


「私は、待っていよう。もし、海岸とやらに面白そうなものでも有れば、連れて行ってくれ」


「ううむ・・」


「己黄。どっちが、面白そうな?」


「うむ、」


「良し。行こう!」


 言い淀んだと言う事は、言い難いものが有る。構わん。おれが何とかする。


「・・うむ!!」


 神無が居れば。己黄の気持ちを、ちゃんと分かってやれるのに。


 いや。おれが、居る。今、ここには神無ではなく、おれが居るのだ。


「己黄。お前をもっと知りたい」


「う?む!」


 分からぬなりに、己黄は蹴速に抱きついてみた。寝屋ねやでは、皆こうするものだ。神無も祝寝も海鶴も。


「いや、うん、まあ」


 亜意が、そっと引き剥がしてくれる。


「で、いつ行きゃ良いんだ?」


「おまえ達が、ある程度ならしてくれた後。そうだな、山岳までどれぐらいで着く?」


「んーと。人の足で、3日も有れば」


「ならば、4日後だ。それまでに戦い、コウチの威を示しておいてくれ」


 正確には、蹴速の威であって、コウチのものではないのだが。最早、気にすまい。


「なら、山岳にはおれ、己黄、アオミドリ、マオミドリ、亜意。超騎士は海鶴と船に居ってくれるか」


「承知致しました」


 まあ、理解出来る。


「海岸には、おれ、己黄、海鶴、亜意、超騎士。アオミドリ、マオミドリは船を。頼めるか」


「うん!」


「大丈夫です」


「良いんじゃねーの」


「じゃ。行くか」


 しらっと両方に付いて行く己を、亜意は当然に受け入れた。蹴速が、己を愛しているから、ではない。便利な道具だからだ。治癒が、ゲートが使えるからだ。愛情、とかそんなものを戦場に持ち込まれたら、亜意が怒る。大事なものなら、家に置いておけ。使えるから、蹴速は連れて行ってくれる。


 あたしを、役に立つと思ってくれている。


 亜意と己黄を抱いた蹴速が、アオミドリ、マオミドリを引き連れ跳ぶ。


 蹴速の勘違い、亜意は自分で飛べる。が、亜意も何も言わない。


 この体勢が治癒に便利うんぬん。


 誰に聞かせるわけでもない言い訳を作るだけだった。


「付き合わせる事になったな」


「構いません。私もあなたの家族。武運を祈っています」


「ああ。海鶴を頼む」


「無論」


 超騎士はそう言い、鎧にオイルを塗り始めた。


 焼く・・いや、まさか。間接部位に塗り込むだけだろう。


 梅は気を取り直し、準備の整った軍を進める。


「行ってしまったか」


「はい。船と多少の人員は残っていますが」


「少しばかり魚を獲った。皆で食べようと思ったのだがな」


「では、もう少し獲りましょう。100人は居ますからね」


 海鶴、超騎士は根こそぎ魚を獲り、居残ったコウチ兵と共に食事となった。料理番の兵と腕を競う海鶴。超騎士は兜のみを外して飲食。


「蹴速様の食べておられる食事ですか。光栄です」


「うむ。遠慮せず食べるが良い」


 兵と海鶴の会話を邪魔はしない。別に、蹴速自身は全く偉くない。こちらの世界では、何の地位も無いプータローに過ぎない。が、訂正の必要も無い。偉い、としておいた方が、色々便利なのだ。否定しなければ、蹴速が偉いと言う風潮のままで済む。


 「偉くない」蹴速の言う事を、3名家の梅が聞いている、と言うのは、不味い。少なくとも兵の前では。


 ・・・ま、海鶴のあの態度は、素だ。それで上手く進んでいるのだから、正しい態度と言えよう。


「鳥だっ!」


 怪鳥現る。


 兵が各々武器を構える。


 さて。


 一応、存在感を出しておくか。



 捕縛した10メートル程の鳥を、そのまま、空で解体。結界の範囲は、半径50キロに設定してある。この中なら、魔王以上でなければ、超騎士の自由自在だ。


「終わりました。焼き鳥にしましょう」


 兵が串を持ち出し、先程魚を焼いた網に乗せていく。


 初日の食事は、豪勢になりそうだ。


 蹴速一行は、目的地に到着していた。


「こんな山の中に、都市が」


「ふーむ。実は田舎を想像しちょった。コウチと変わりない、いや、より発展してるか」


 亜意と蹴速の驚き。己黄には、人間の都市に対する感覚は薄い。全て食べ物で、巣の材料だからだ。己がそこで何かをする、と言う感覚は薄い。


 山岳都市。舗装された路面、ガードレールが存在する。落下防止のネットまで確認出来た。かなり、進んでいる。本当にコウチより上かも。都市部も、かなりにぎわっている。人間も多そうだ。


「どうする?襲う?」


「いや。少し、騒ぎを起こす。兵を集める。それから、この国の兵の半分を殺して、梅に渡す」


 民間人を無為に殺すと、面倒な事になる。戦争と言う形を作り、致し方ない状況を構成する。そうした方が、梅の役に立つ。本当に更地にするなら、楽な話だが。この都市ごと、梅に引き渡す。


「綺麗な所や。コウチの別荘にしよう」


「りょーかい!」


「うん」


「街並みは、ぶっ壊さない、で良いんだな」


「ああ」


「うむ!」


 取りあえず、蹴速が街並みのド真ん中に蹴り込、もうとした。


 横からの攻撃。


 真上にかち上げた蹴速に話しかける者。もちろん、空中で、だ。


「何してやがる」


「ん。侵略を」


「死ねや」


こ、お お お お


 咆哮。その音だけで強いと分かる。


 この場の者達は知らぬ事だが。これは、神無の音と酷似している。即ち、


 神化。


ごあ!


 蹴速とアオミドリ以外には、見えぬ一撃!


 蹴速の受けた手が、痺れた!


 こいつ、やる!


 喜色満面とした蹴速は、3割程の力で殴ってみた。



 剣で受けた!蹴速の拳を!


「強いね」


「ああ」


 亜意は、魔剣水色を、抜かない。蹴速が嬉しそうだ。邪魔は、しなくて良い。


 これを簡単に倒せるようになったら。自分は、名実共に、蹴速のパートナーになれる。アオミドリは、少しやる気を出した。


 自分の家以外にも、強いモノが居る。新たな家族、初三千世界、続三千世界のおかげで、知ってはいたが。


 これと、ぶつかって。生き残れるのか。


 マオミドリは、初めての恐怖を噛み締めた。


 己黄は、身の疼きを感じた。食べたい。これは、龍が、より巨きくなるための食欲だ。


 神化には時間制限が有る。制限時間の内、敵の全力を出してもらおう。


 蹴速は、ゆっくりと速さと力を上げて行った。その速さに追い付き、超えようとする敵。


 楽しい。


オ オ


 敵、全力の斬りつけ。山が1つ吹き飛ぶ所だが。梅に、綺麗な形で渡したい。


 半分の力で蹴り上げる。剣を折らないよう気を付けつつ、相手へのダメージはまあまあ。痛い、と思う程度には、力を込める。斬撃の反動の半分は行っただろう。半分は、与えないように手加減。


「・・何者だ」


「対魔蹴速。コウチの用心棒よ。降伏するなら、そこに住みゆう人達の命は保障する」


 蹴速が、眼下の民衆を指差す。


 敵は、剣を下ろした。


「降伏する」


 言うと同時、落ちて行く。神化が切れたか。


 空中で拾い上げる。


「・・・見た目によらず、優しいな」


 皮肉気な言葉。


「まあな。殺さんと言うた手前、見殺しはなあ」


 ここで反撃すれば、蹴速でも手傷を負うが。敵は身動きをしない。出来ないのかも知れないが。


 皆で、降り立つ。


「お前は降伏してくれた。で、この都市の支配者層は、どうなん?」


「おれも、その中に居る。神下しんか 地居ちっきょと言う」


「おお。自己紹介ありがとう」


「降伏させる。だから、攻撃しないで欲しい」


「了解。4日後、此処へ本隊が来る。それまでに話をまとめてくれたなら、平和的に終わる。それは、確かな事よ」


「分かった。感謝する」


 割に平和に終わった。家族皆の感想だ。


 最悪の場合。蹴速が都市を皆殺しにして、また後悔し、梅の穏やかさを蹴速に再認識させる事になったはずだ。梅の1人勝ちになってしまう。


 今回は、良い結末だ。


 そんな暗い大人達とは違い、マオミドリは、素直に蹴速に見惚れた。その動き。全く気負わず、己が恐れたモノに競り勝った。それも、息1つ切らしていない。


 すごく、強い。


「どした。お父さん、かっこよかったか?」


「うん!!」


 いつもは少しだけ大人びているマオミドリの、素直な賞賛。蹴速も素直に照れ、頭をかいた。


 微笑ましい親子であった。

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