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海上にて、その2。

 先の攻撃。船から数百メートルは離れた海面への打撃。にも関わらず、船上の人間へ伝わる衝撃。最低でもナンバークラス。


 だが、それだけでは、蹴速の前では赤子同然。


 青年。強さは見える。ま、敵の情報を仕入れるのも良い。


 この時点では、味方に危機感は一切無い。当たり前だ。対魔蹴速に並ぶ者は、魔王アカのみ。それより強い者が、僅か2名居るだけ。この3名を除き、蹴速には敵は居ない。


「行くぜ」


「来い」


 青年から突っかけた。やはり速い。


 だが、通常の神無より速い、と言ったレベルだ。御徳と良い勝負が出来そうな。


 東の南の前哨戦。ザコの勇み足なのか。様子見に来たのか。色々情報を手に入れるのが仕事。梅と来た以上、梅の役に立とう。


 蹴速は、初めての魔神戦を思い出していた。


 懐かしさを、梅も思っていた。


 あの時とは違うと思いたい。


 魔神を確かに斬ったはずが、傷一つ付けられなかった、あの時とは。


 蹴り、拳撃、蹴速と同じタイプか。格闘技者。


 蹴速はさばきもせず、全てかわす。それに焦るでもなく、相手は楽しげに速度を上げていく。


 ほう。


 速くなっていく。ドンドン。


 ・・・速過ぎる!


 見ていた人間はあまりの事に、口を出し損ねた。


 蹴速と同じ速度で動いている!


「何だ、あれは」


「人間みたいだけど。違うのかな?」


 亜意は、魔力を感じていない。魔族では、ない。しかし、有我や三十鬼より速い人間が存在するのか。


 梅は、やっと気付いた。


 こいつ、神族か。


 神無の気配と、似ていると言えば似ている。だが、もっといびつなものだ。


 アオミドリも気付いた。魔力、いや、魔の気配に。


 純粋な魔族は、この中ではアオミドリだけ。マオミドリも、もう少し成長すれば感じ取れるか。かなりレベルの高い魔族だ。だが、魔力と神性が入り混じって、尚且なおかつ、人間体。ヘンなのー。


 強・・・い?・・・いや、弱い。


 蹴速は、目の前の自分と同程度の速度で動き回る敵を、ザコと判断した。


「それで終わりか?もっと技が有るなら、出しても良いぞ」


「ああ?互角だろうが、」


 言い終わる前に、敵は落ちた。


 同速。だが、上がったのは速度だけ。力も付いて来ていたが、技が全く無い。蹴速と同レベルになった肉体を振り回し、遊んでいただけ。全く興ざめする敵だった。


 同じタイミングで突き合ったはずの、敵と蹴速。だが、止まったのは敵。当然ながら。


 味方の誰も蹴速を心配していなかった。薄情な奴らよ。


 幸い、もう1人は大人しく下りてきた。


 倒した方はガチガチに拘束した後、起こす。理屈は分からないが、戦っている内に敵に合わせるタイプ。と見た。最初の動きからの変化。あのまま、蹴速を超えると厄介だったが。


「おはよう」


「おう」


 キョロキョロ周りを見渡す青年。そこは、甲板かんぱんの上。船室に入れるのは面倒だ。何なら、殺すのだから。


「お前は誰?んで、何処から来た?」


「んーと」


 青年は、話すべきかどうか迷った。


「嫌なら、無理に喋らんでも良いぞ」


 蹴速は、彼らへの興味を失っていた。梅の許可を取り次第、捨てる。


「そこまで言われちゃしょうがない。話そう」


 青年の寿命が少し伸びた。


山脈さんみゃくから来たんだ」


「それじゃ分からないんじゃない?」


 もう1人は女性体。こいつの能力の程は分かっていない。


「あっちから来たの」


 あっち、とは。彼女の指差す方向は、東の南。これは、好都合。別の方向なら、其処には更にコウチの支配出来る地域が有ると言う事で、それはそれで吉報には違いないが。


「詳しく聞こう」


 梅も興味を示した。


「別に長い話でもないけどね。千里眼で見たのよ。明らかに何かやらかそうとしてるのが、来るって」


「ほう」


 千里眼。歯牙の類か。


「それが山脈か」


「まあ」


「お前ら、何するの?」


「言わずもがな。征服だ」


「死ぬぜ?」


「あ」


 青年の方は体をバラバラにしながら海に撒き散らされた。梅が止める間も無く、蹴速が手を出した。


「確かに。死んだな」


「ひどいなあ」


「案内を頼みたい。出来るか」


 梅は大急ぎで話をまとめにかかった。役に立たないならともかく、蹴速のやりようは不味い。目の前で殺せば、反感は当然。


 だが、女は、ニヤついていた。


 自信が有るのか?確かに、蹴速が何をしたか、梅が気付く前に反応したようだが。


「良いよ」


 目の前で仲間を殺されて、それか。不仲だったのか?


「アオミドリ。監視を頼めるか」


「りょーかい!」


 蹴速の前なので、元気良く返事。


 アオミドリと女は、蹴速の強さについて語り合い始めた。


 船の上空に跳んだ蹴速を、亜意が追いかける。


「どした」


 敵は、別に殺っても問題無い。敵でなくとも、やはり構わない。だが、蹴速の本意でないなら、大問題だ。それは、気持ちが良くない。


「いや。別に」


 やはり、おかしい。蹴速は、直截ちょくさいな物言いを好む。こんな曖昧な言葉遣いをしない。


「あたしは構わねえが」


 そう言って、蹴速を後ろから抱きしめる。普段とは、逆。意趣返しだ。


 子供みたいな真似をしてしもうた。


 蹴速は、期待した敵が、ただ弱かったので、腹が立って殺してしまったのだった。


 船団に手を出されるかも知れないのに、泳がせていたのは捕えるため。それに、超騎士が船団全てを覆っていたはず。超騎士は、じっとずっと、丁寧に仕事をしていたのに。おれは。


 梅を、ガッカリさせてしまった。


 亜意に慰められるのも、申し訳無い。こんな意思の弱い男で、申し訳無い。


「すまんな」


「なら帰るぜ。そろそろ超騎士が怖い」


「はは」


 船には、とんでもねえ目で2人を見つめる超騎士の姿が、無かった。


 超騎士は、亜意が飛んだので蹴速を任せた。そして、自身は周囲を探索。生命の反応は有るが、恐らく大型の魚。先の人間達のようなものは無い。


 蹴速の動き。良い動きだった。無駄無く、一瞬で蹴散らした。文字通り。肉体には問題は無い。有るとすれば、心。助けるのは、誰でも良い。亜意でも梅でもアオミドリでも。出来れば、この私が役立ちたい所ではあるが。主を第一に思えぬ騎士など、無為。蹴速の助力となるなら、誰でも。だから、今は頼みます、亜意。


 ついでに大陸を探索してみた、ら、面白い情報を手に入れた。強者の気配。最低でも、兵高位レベル。こんなのが転がっているのか。先程の女の態度、酔狂ではないのだな。


 幸運だ。蹴速の心を慰められる。感謝する。その命、我が主に捧げてくれ。


「それは、すごいな」


「へええええ」


「えへん!」


 梅、アオミドリ、女の会話は弾んでいる。


 女の手が動く。咄嗟とっさにアオミドリが止めるが、その手は梅の体に触れていた。


「私より速いんだよ?私の知ってる奴らは」


「そうか。良い事を聞いた。さらばだ」


「ん?」


 女に、害意は無かった。と、思う。梅にも、最早確認のしようも無いが。何故なら、


 梅に触れた女に、いつの間にか触れていた蹴速が、女を塵も残さず消したため。


「梅に触るなや」


「ゴメンね蹴速君!油断してたんじゃないけど」


「いや。おれが、油断したんよ。アオミドリは頑張ってくれた。すまんな」


「蹴速」


「梅。すまん。東の南を更地さらちにするけ、許してくれ」


「それは構わないが。どうしたんだ、蹴速」


 愛する男に守られると言うシチュエーションに酔いつつ、梅は蹴速の動向をいぶかしんだ。


 蹴速は、その力にも関わらず、梅には譲歩してくれている。いつもいつも。なのに、今回は、独断が多い。確かに蹴速が掃除して、住みやすい土地にしてくれるなら、それはそれで良い。だが、蹴速の憂慮でも有るなら、聞いておきたい。自分のためにも。


「すまん。・・・イライラしちょった」


 初三千世界のような敵を期待した、己が馬鹿だったのだ。勝てない、赤子のように扱われるような、そんな強敵。


 もっと強くなりたい。もっと戦いたい。そのために、敵が欲しい。殺せない、死なない、消えない敵が欲しい。シロも初三千世界も、だから愛おしい。今回の敵はそのレベルではなかった。だが、繰り返しになるが、期待した自分が悪い。あんな素晴らしい敵が、そうそう居るものか。元の世界にも、居なかったのに。


 どれだけ本気を出しても、壊れない、そんな敵。


 期待してはいけない。自分に都合の良い者が、ゴロゴロ居るなど。シロも初三千世界も居るのだ。それで満足するべきだ。


 いつの間にか。贅沢になっていたな。


 蹴速は、少し反省した。


「もう、海鶴さんと己黄さん呼んでも良い?」


「ああ。戦闘は終わった。守りをありがとうな、マオミドリ」


「ううん。僕に出来る事は、そんなに多くないもの。頑張って、お父さん達の助けになりたいよ」


 蹴速の心は、体は、一気に熱した。顔を紅潮させつつ、マオミドリを有らん限りの言葉で誉めそやした。


 ・・・・良い子!!!


 頬を緩め切った蹴速を初めて見る一同。


 マオミドリの痛くならないギリギリの力で、全力でで上げ、とにかく甘やかす。


 なんという、良い子・・・!!!!


 蹴速は、子の素晴らしさを思い知った。今回の遠征の最大の収穫と思った。


 アオミドリもまた、マオミドリに良い笑顔を見せていた。


 蹴速のポイントをゲット!


 アオミドリの下心はさておき。他の者も、マオミドリの善良さに感心した。どうやって、あのような子に育ったのだ?環境は、およそ最悪のはずだが。


 親は、魔の王だぞ。


 ・・ああ。反面教師か。


 皆の感想は、1つにまとまった。

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