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海上にて。

 東の南へ行く組。蹴速、梅、超騎士、アオミドリ、マオミドリ、亜意。


 そして、己黄、海鶴。


「行くのか。己黄」


「うむ!」


「おれの武器を探して来る?嬉しい話だが!無理はするな!」


「うむ!」


 己黄は、戦場から遠ざかって久しい。そもそも戦人ではない。龍の子。今は、親になったが。だが、戦う事を、捨てる気はない。


 そもそも、龍は最強。のはずだ。蹴速はおろか、神無にも勝てなかったが。


 己黄もまだ知らぬ事。龍は長い年月をかけて成長する。今は、その始めの段階に居るのだ。これから数百年、数千年を生きる己黄は、もっと強くなる。


 海鶴の方は、これは全く戦闘向きではない。ただ、ジンから聞いた話。海神のモリ。見せてもらったが、確かに海の匂いがする。過去の偉大な海神の作った物だろうか。


 自分にも、出来るのだろうか。海鶴は、少し気になった。


 そんな事を、皆と喋っていると、海鶴も来るかどうか聞かれた。


 蹴速は行く。


 久しぶりに、蹴速と海を行くか。それは、良いな。


「祝寝はどうだ」


「私は、まだ無理かなあ」


 今、蹴速亭から祝寝が消えると、少々不味い。


「だから、お土産よろしくね!」


「ああ。楽しみに待っていてくれ」


 海鶴には、変な遠慮は無い。祝寝が行かないなら、自分も行かない。間違い無く優しさではあるのだが、そうした気の使い方は、しない。


 海を、祝寝に届ける。それが、海鶴のやり方。


 非戦闘要員である海鶴。絶対に怪我を負わせられない理由の有る己黄。両者を守れる者も、居る。


 超騎士。


 蹴速との戦場。また、蹴速との絆を結べる。


 その超騎士を癒せる元魔王。亜意。


 強くなってんのか、そうでもねえのか。良く分からねえ。だが、戦えば、分かる。強い方が勝つ。生き残る。蹴速が、魔神が生きているように。


 あたしは、死ぬか、生きるか。


 蹴速の横をうろちょろして付きまとうのが仕事です!そう言わんばかりの少年が居た。その名、アオミドリ ユウキアイ。2番目の魔王にして、蹴速の妻の1人。1児の母でもある。実力が無いのではない。実際、本気になれば、有我に負けない戦いも出来る。本気でなかったとは言え、蹴速の攻撃を受けて死んでいないのは、伊達ではない。


 この母。本気になるのか、どうか。


 子、マオミドリ。子供達の中で突出した存在、とは言えない。ただ、親に似ず真面目な子で、親達からの信も厚い。マキと並んで、良く親達から連絡を受ける係りだ。マアカ、マシロは、たまにブッちぎってしまう。


 神無さんは休養。武器も失ったらしいし。アカさんと有我さん達が居れば、どうにかなると思うけど。それに、お父さんが居るし。でも、お母さんが頑張れば、色々解決しそうなんだけどなあ。


 快復が効く魔王の戦力としての価値。初三千世界、続三千世界の加入も有るので、急務ではないが。


 我が母に頑張ってもらいたい。マオミドリの可愛げであった。


 道行みちゆきに、人魚の群れに出会う。アインシェンの族である。


「海鶴。挨拶するか?」


「ああ」


 海鶴は海に飛び込む。超騎士は、さり気なく結界を構築。ただし、網目は荒く。密にすると、海水をシャットアウトしてしまい海鶴に気付かれる。それに、相手人魚も気付くかも知れない。それは、要らぬ警戒心を呼び起こさせる。今は、即張れる準備をするに留める。


「私は大網おおあみの族。だが、今はおかの海鶴。以前のアインシェンの戦。汝らは手を出さないでおいてくれた。礼を言う」


「私はみずちの族。知っている。コウチ、ダイコウチとなった陸の者に嫁いだ、海神の資質。敵しないと決めた」


「そうか。礼を重ねよう。同じ血を流さず済んで良かった」


「同じではない。お前は陸の海鶴。だが、蛟は、陸の者と争わない」


「ふむ。では、違う血の者よ。汝らに感謝を」


「ああ。違う血の者よ。お前の意思に感謝を」


 蛟の族の懸念は、大網の族であった海鶴が、果たして蛟をどう扱うか?であった。陸の勢力との協調関係は、蛟も築いている。だが、戦となれば、必ず死人は出る。大網の組んだ人間は、蛟を生かしておいてくれるか。出来れば、争いたくない。


 蛟と別れた後、順調に進み行く船団。


 その最中に己黄のトレーニングを行う。


 最悪、己黄がダメージを受けても、ここなら、コウチへの影響は無いかも、知れない。かも、だが。


 梅は、かもでやられても困るのだが。己黄に我慢を強いる事を、蹴速は好まない。仕方ない。


「取りあえず、龍化してみるか」


「うむ!」


 己黄の龍状態。この場の全員が初めて見る。蹴速を除いて。


 あの時。己黄を殺さず済んで、本当に良かった。キには、ああ言ったが、そのじつ、シロ頼みだった。シロが居たから、万が一の治癒を任せられた。


 今は亜意も超騎士も居る。大丈夫だ。


 蹴速は、自分に言い聞かせる。表面上、堂々と突っ立っているが。不安も少しだけ有った。


きいいいいい


 音が響く。変化は、一瞬だった。


 一瞬で、そこには黄金の生き物、龍。


「ん?そう言えば、己黄は今、喋れるんか?」


「うむ!」


 あの時は完全に理性を失っていたとシロが言っていたが。


「なら大丈夫やな」


「うむ!」


 理屈は知らない。道理も覚えが無い。だが、こうして平気なのだ。百万の文言より確かに。


 己黄に、龍に関する文献はコウチには無かった。梅にも探してもらったので確かな事だ。コウチでは、龍を調べる事、関わる事を禁じていた。それは、一一人が生まれるより前の話。


 シロを頼るのは、気が進まない。何でもシロにやってもらおう。シロなら。・・・泣きたくなる程、情け無い。蹴速には強固な意地が有る。強烈な自負が有る。


 それでも、己黄に関するあらゆる事。シロから教えてもらった。色々複雑と言うか、シロがどうしてあれ程強いのか、おぼろげに分かったような気がした。


 そして、己黄には、心配は要らない。いや、今まで通り、大地への影響は有る。何も変わっていない。だが、己黄自身の病や不調は無い。ならば、蹴速は笑える。それ以外なら、どうとでもする。何なら、皆で暮らせる新天地。奪っても作っても良い。それは、蹴速なら、出来る。


「じゃあ、ちょっと動いてみるか。アカがやりゆように、ま、おれがやりゆようでも良い」


「ふむ!」


 己黄は飛んだ。そこまでの速度では、ない。時速200キロと言った所か。そして、己の能力を確かめるように火を吐く。海面が蒸発し、海水は煮えたぎっている。


 まあまあか。アカに比べれば、ヌルい。でも、今回が意識的に行った、初めての龍化。なら、上出来よ。自分を操れている。それだけで、手放しに褒めて良い。


 蹴速は、己の肉体を自在に動かす。たったそれだけの事が、どれほど難しいか知っていた。蹴速の十八番である、空を蹴る。あれも、コントロールを失えば、地面に最高速で突っ込む羽目になる。流石に痛い。まだ慣れぬ内は、蹴速でも上手くはなかった。


 己黄は良く頑張っている。


 飛行速度は、ドンドン上がる。慣れていっている。


 だが、攻撃のパターンがまだ少ない。出来るなら己黄には傷付いて欲しくない。甘やかしではなく、影響の問題で。


 遠距離のパターンが欲しい。そして、そのまま終わらせるのが上策。


「火の他に出来る事は有るか?」


「んん?」


 右手の爪を振ると、海が凍った。左手の爪をかざすと、海が消えた。


 正確に表現するなら、海水は蒸発したり、固形化し海に沈んだりしている、はず。蹴速の目には、そう見えた。


「すごいぞ!これだけ攻め手が有れば、優位に戦える」


 もちろん、魔王級は無理だ。下手をすれば、効かない。


 それでも、人間の兵では己黄には傷一つ作れまい。そこまで近寄れないだろうし、砲も恐らく無効化出来る。


 さあ、実際に組手をやりたい所やけど。


 それが、問題だった。己黄を傷付けてはいけない。自分達のように、癒せば良い、と言う理屈は通じない。


「ふむ」


「蹴速君。僕が頑張るよ。要は、己黄ちゃんに痛い思いをさせなきゃ良いんでしょ?」


「ああ。でも、アオミドリが危険でもあるぞ」


「大丈夫!こう見えて、恐ろしい魔王なんだよ、僕」


 可愛く見えてだろうか。怠けて見えてだろうか。蹴速はやる気に水を差さなかった。


 蹴速の考えあぐねている事を敏感に察知したアオミドリは、見た目通りの、言葉を濁さず言えば、ボンクラではない。


「やってみようか!さあ来い!」


 行った。


 己黄の火を受けて、アオミドリはしかし、無事だった。


 ナインラインの奴よりは、強い。でも。


 来ると分かっていれば、アオミドリも体表面に簡易結界を張る事は出来る。超騎士のような、強靭かつ万能の結界、とまでは行かないが。


 マオミドリも冷静に戦力評価をしていた。戦って、勝てるかどうか。


 梅は心配なので、見ていなかった。ハラハラするばかりで、何が出来るでもない。なので、船室で旅程を確認していた。


 旅は順調だった。トラブルも起こっていない。このままなら、成功失敗どちらにせよ、皆で帰れる。


ずうん


「ふん」


 梅は、息を一つ吐いて、船室を後にした。


 成し遂げるは世界征服。万難を排すのは、当然。


「どうした」


「あー。なんかね」


 表に全員が出ていた。そして、


 空を飛ぶ人間。こちら側の者では、ない。


「梅。殺しても良いか?」


「出来れば、捕まえてくれ」


「了解」


 蹴速が跳んだ。梅は、見知らぬ者達の姿をじっと見た。


 視界には、2人しか居ない。他にも居るのか?


「大人しく下りてきてくれるか」


「お前。強いなあ」


「まあな」


「やろうか」


「うーん」


 やっても良い。が、それは梅の望みとは異なる。やって気絶させてしまえば良いか。


「ああ」


 もうすぐで、東の南。だが、戦いは、始まった。

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