有我達の帰還。
魔王会議。と言う名の、お泊まり会。
今夜は、キのお城で開催だ。
「祝勝!」
「お帰りなさい!」
「わーい!」
口々に口上を述べ、つまり、パーティーは催される。
キの城ながら、料理はクロも手伝っている。シロすら、適当に料理を創っている。最もシロの作る料理は、どこぞの店で出てくるような料理のコピーでしかない。美味い事は美味いのだが、面白みはない。それを魔王達は、人間の料理で、そして何よりモモの料理で知っている。
モモの作る料理は、モモの性格を表している。今日はキの城だから、キの好みをメインに、しかし、全員の好きなものを色とりどり。子供達全員の好みも把握している。
「いやー!快勝快勝!」
アカの音頭で、全員の乾杯を何度も繰り返している。
「モモ。新たな魔王の活躍。めでたいな」
「ありがとう。キも大活躍だったわね」
「ふふ。おれは、ただ居ただけさ」
戦闘中、常時合力。それを苦にしないのが、魔王キ。
マシロは、全員の杯に注いで回っていた。本人は、次期魔神、次期当主として、皆の心を掴むつもりなのだが。
どう見ても、一番の下っ端だった。
「マシロも飲みなー」
「はい!」
アオミドリとしては、いつか自分と蹴速の家になる、その家の家族。皆を慈しむのは、当然。
楽しい席で、アカは思う所が有った。
モモの魔力補充は、上手く行っただろうか。モモは、普段魔獣を狩っていない。故に、魔力の外部からの獲得が少ない。
クロは、一応、料理の最中に魔獣の血を取るかどうかを聞いていた。モモは、取ると答えた。守るためには、力が必要だ。超常的な能力とは言え、相手の抵抗力が上回っているなら、効かない。アカやシロのように。
殺す事と生かす事。この能力を、どう使うか。それが、魔神様からの宿題。がんばろう。
「それじゃ、次は僕が、蹴速君と一緒に東の南に行って来るよ。仕事だから仕方ないね」
良いなー、と純粋な者達は思った。北の地があれでは、南も苦労するだろうと、気の利く者は思った。マオミドリは、戦力でなく、性格を不安に思った。
不安を持っているのは、他にもキと獣沓。共通して持っている不安の種。
大丈夫大丈夫!これから、いっぱい働くね!
そう、言っていたが。本当に大丈夫なのか。
今まで、全然やってこなかった事を、いきなりやり始めて。
「合沓は」
「ん?」
「何か。抱え込んでいる事など」
「無いな。母よ。おれは、生後1年を経過していない。悩みの生まれる前の年齢だと思われる」
「確かに。母の誤りのようです」
「ああ。どうしたのだ。母らしくもない」
「モモ様の事を考えていました」
「ふむ。モモ、キの2人の魔王には母が世話になったと、聞いている。故にか」
「いいえ。母は、モモ様のお心を慰めたい」
「ふむ」
合沓には理解の及ばぬ話であった。
故に、合沓は。
「父よ。分かるか」
「うーむ。分からん」
「そうか」
「すまんな。折角、合沓が聞いてくれたのに」
「いや。おれも分からぬ。助けを求め、得られなかったと言って、文句は言うまい」
「そうか」
合沓は、父、蹴速と話をしていた。母を知ると言えば、父だろう。
屋外稽古場。蹴りの型の見直しをしていた蹴速は、合沓をあやしていた。10メートルにも満たない合沓は、まだ幼獣なのだ。首元を、背中を、腹をかいてやる。大きな我が子。もしかしたら、子らの中で最も賢いかも知れない。
この子は、学校に行かせるべきか。いや。校舎を建てる時間がもったいない。通信教育か。祝寝と相談しよう。と言うか、分からないから祝寝に聞こう。知ってるかも。
賢さ、に利が有るなら、鍛えるべきだ。蹴速は、残念ながら、腕力以外に取り柄が無い。祝寝は、賢かったが、おれに付いて来てくれた。そのため、学校を捨てた。だから祝寝は、通信教育について調べ知識を得ている可能性が高い。子供達が望むなら、学ばせるべきだろう。おれ達が稽古をするようなものだ。
「合沓。お前、学びたいか」
「ん?」
「祝寝の本とか、読んでみたいか」
「そうだな。興味は、有る」
ふむ。
後日。蹴速は、親を頼り、超巨大モニターを用意してもらった。元の世界の自宅に。インターネットを介した通信教育用に、合沓のためのキーボード、マウス等を作ってもらう。これで、電子書籍とかも読めるらしい。ついでに、獣沓用も。幾らかかるか分からんが、数億で足りるだろうか。もっと稼ぐしかないか。・・親の言う所によると、数千万で良いらしい。両親が、都合を付けてくれたのだろうが。
先ずは、書き取りだ。日本語ベースで良いか。ひらがなから、始める。喋れても、まだ書けないのだ。
意外にも、興味を示した魔王達、その子らも。更に続三千世界も。
続三千世界は、生まれた瞬間から、ある程度の事は何でもこなせた。初三千世界が、自分と同じと言っていたが。それでも、別の個性、人格を持っていた。
「楽しいか?」
「・・」
こくり
しかし、続三千世界は、喋らなかった。何故かは分からなかった。読心は効くし、意思の疎通も普通に出来ている。
続三千世界の心としては。
初三千世界の居る世界に、初三千世界のコピー体である己が出現している。それが、この世界に何をもたらすのか、不安だった。全く同じ存在にならないために、喋らない、と言う変異を自ら起こしていた。
それが杞憂か否かは、シロにすら分からない。シロは、何かとんでもない事が起きるなどと、全く思っていなかったが。
続三千世界は、心配だった。
蹴速はその心配を、初三千世界、シロ、アカから聞いた。マシロは自分が解決して、続三千世界を勢力に取り込もうと画策していた。
マシロから教育しなければ。そう確信した蹴速だった。
それはともかく。続三千世界に不都合が無ければ良し。喋った方が楽なら、そうさせる。おれが、決めた。続三千世界に、決めさせると。
「どうな?お前に取って、良いのは」
「・・・」
「お前が口をきいてはいかん。そんな理由が有るなら、お父さんが壊して来る。やけ、気にするな」
「・・・・」
「いや、まあ。本当の所。どうなるかは知らんけど。お前が我慢する必要は、無い。お父さんは、そう言うのは、嫌よ。思う通りにしたら良い。おれを、頼ってくれるなら。言うてくれ」
「・・・・・・・・・」
「急ぐ必要も、無い。おやつや。行こう」
こくり
続三千世界は、少し、考えてみる。
有我、帰還。真面目な話を持って帰ると、待っていたのは、絶賛二日酔い中の3名家の盟友達だった。
「ボクさあ。今ほど、3名家を残念に思った事は、無いなあ」
「・・・言うな。頭に響くから・・」
「酔ってなど・・・・・・・・・おらん!」
叫ぶなり神無は、眠りこけた。
「お酒臭いし。て言うか、なんで治癒で飛ばしてないの?」
実は、酔いは治癒で癒せる。一般家庭では不可能だが、この家なら、簡単に出来る。
「言うな・・・・」
これは、使い物にならんな。
有我は、3名家の2人、あるいは一一人以外の2家を役立たづと、初めて思った。
「と言うわけなのだよ」
「ふむ。梅はコウチの運営、神無は東への遠征。2人共、酔いたい時も有ろう。何時でも癒せる。目くじらを立てる程の事では無いだろう」
「そーだけどさ」
年下と話しているようだ。
三十鬼は、有我とも普通に喋るようになった。有我は、そうしろなどと言っていないのに。良い性格をしている。
「お前は飲まないのか」
「要らないかなあ」
「そうか。私もだ」
「ふーん」
有我は、特に話の種を見つけられない。三十鬼と、そう親しいのでもなし。
三十鬼の部屋に転がり込んだは良いが。本を読んでいた三十鬼の邪魔をしてしまったか。
「落ち着いて話す事も無かったな。表立って稽古の出来ない間柄だが。家の中では、そんな事は関係ない」
「まあねえ」
ヤマトの頂点とコウチの頂点。どちらが強いのか。万が一の、一一人の敗北は、コウチに勝てるのではないか、そう言った気運を生んでしまう。
実際、三十鬼と有我なら、若干有我が強い。だが、勝率としてなら6割。10回やって、4回負けていては、一一人は名乗れない。10万回戦って、10万回勝てなければいけない。
だが。
蹴速。シロ。新たに、初三千世界。
絶対最強のはずの一一人が絶対に勝てない者達が、ドンドン増えてきた。今更、三十鬼に負けようが、大したことじゃあない。
はずなのだが。どうも。負けたくない気持ちが有る。
「どうもねえ。三十鬼はボクに負けたくないと思わない?」
「さてな。ナンバーワン同士、意識してないと言えば、嘘だ。だが、私、もしくは私達ヤマトの者に取って、最も大きい存在は、蹴速だ」
「あー。なるほど」
ヤマトの支柱、邪馬刀国を倒した蹴速。蹴速以上に、ヤマトに刻まれた怨敵の名前は無い。
「近しい実力同士、意識し合うのは必然。良い刺激にもなろう。悩む事でも無い」
「そーかもだけどね」
三十鬼は強い。それは間違い無い。有我の目を以ってしても、勝てるかどうか分からなかった。だが、それ以上の強者がゴロゴロ居るのに、どうして意識してしまうのか。
「それは、やっぱナンバーワン同士だからじゃない?おれも蹴速の事ばっかり考えてたし」
「いや。それはジンが、蹴速君大好きなだけでしょ」
今度はジンとお喋り。3名家は使い物にならないし、溜まったテレビドラマも、もうちょっと落ち着いてから見たい。
ジンの部屋には、蹴速の写真が飾られている。枕元、何時でも見れるよう写真立て。壁にはポスター。結構怖い。
「ええー?だって、おれも地球じゃ、蹴速と互角だったんだよ。つまり、ナンバーワン同士だったんだよ」
「へえー」
強い事は知っている。やはり勝てるかどうかは分からない。ジンとの相性で言えば、果たして有我の剣撃は通じるかどうか、だ。ジンは、蹴速の速攻を受けてもビクともしない堅さが有る。有我で、通じるかと言うと怪しい。そして、ジンの攻撃を一発受ければ、有我は死ぬ。分が悪いと認めて良い。
「超騎士は?あれも、掛け値無しに強いと思うんだけど」
「どうなんだろね。超騎士は、対人戦を好まないから、戦った事無いんだよねー」
超騎士の戦術は単純明快にして究極。自らを絶対防御しつつ、敵の自由を奪い、身動きをさせず、抵抗も起こさせず。駆け引きの入り込む隙は、無い。それは、戦闘に一切波乱が起きないと言う、超安定性。だが。面白くは、ないのだ。自分では、それを好いていない。そして、最も強い蹴速に憧れてしまった。如何な強敵、未知なる怪物、何者を相手取ろうと、蹴り飛ばす。敵すれば死に、味方であれば常勝不敗。無茶苦茶の顕現。
「好いた、と言うより、好きになってしまった、と言った方が正解でしょう」
「へええ」
自分と似たようなものだな。
超騎士は亜意と結界構築の差異について談義していた。はずだが、少々の脱線も、まま有った。
「私には、魔力と言うものが全く分からないので、おおよその想像でしか有りませんが」
「いや。大部分は合ってるぜ。お前の言う、気と同じ捉え方で、間違っちゃいない」
亜意の知る魔力とは、少し違う気もするが。細部は、亜意にも良く分からない。
「分かるか?」
今。魔力的に、亜意は超騎士に触っている。
「いえ」
超騎士には、分からない。
「今、あたしは、お前に触っていた。その気になりゃ、攻撃も出来た」
「それは。危険ですね」
亜意が。ではない。そんな事は既に知っている。魔力での接触に全く気付けなかった事だ。
「あたしらクラスがゴロゴロ居るとは思わねえ。ただ。出来る奴らが他所に居ても、不思議は無い。精々気を付ける事だな」
「ええ。と言っても、対処法は有りませんが。それでも、教えて頂いてありがとう」
「何時まで経っても他人行儀だな」
「癖です。知っているでしょう」
「まあなあ」
お互い、鎧は脱いでいる。超騎士は、屋外に於いて、例え店であっても常時フル装備なのだが。ここは、家の中だ。
亜意の子、藍意。超騎士の子、シルブ。2人の赤子が並んで寝ている。
「信じられねえ。大きくなってる」
「それは、そうです、よ。いえ・・・正直、私も驚いています」
生後数ヶ月。それで、この小さな生き物は、驚愕すべき速度で強くなっている。
「強くなるかな」
「なりますよ」
「弱いままだったら?」
「家事を仕込んでもらいます」
「悪くねえ」
上手くやれば、料理人としてメシが食える。他人のメシを作って、自分のメシも創る。悪くねえ。
亜意の発想には無かった事だが。いや、超騎士にだって無かった。しかし、今や、魔獣すら家族に引き込んでいる以上、何が起ころうと、どうなろうと、それはそれで、アリ。そんな生ぬるい感情に浸っていた。
それを妥協と取るか、落ち着きと取るか。少し前の亜意なら、妥協と取った。弱さと取った。今の亜意は、両方と取る。選ばざるを得ない選択枝。だが。それでも生きていけるなら、まあ、良いんじゃねえか。




