表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/100

神無と梅。

 帰った神無には、労いの言葉。


「すまんな」


「我らは、3名家だ。1人が責任を背負って済むなら、他の2家は要らぬさ」


「笑うなよ、梅」


「お前の落ち込んだ顔など、見ようと思って見れるものでもない。今の内、堪能させてもらおう」


 2人は、酒を飲んでいた。戦況報告の会議の場なのだが。最初っから、梅の準備により、つまみが机上に有った。


 こいつに、勝てる機会は、もう無いのかも知れない。全く。何て周到な。


 親と戦って、神無さんは涙を見せた・・・?


 有り得ない。3名家は、コウチのためにならぬなら、コウチの人間でも平気で斬る。その代表が、一一人だ。ある時期は、魔族による被害より、一一人による死人が多かった位だ。その資料を見た時は、本気でビビった。


 特盛は、庭で月を見ながら、考えていた。


 神無さんは、何故泣いていたんだ。


「どうした」


「壱日さん。大丈夫ですか、寒いっすよ、此処」


「ふふ。着物が有るから大丈夫だ」


 上着を羽織り、熊大将くまだいしょう壱日いちかが、特盛の横に座る。クマモトナンバーワン、現在、蹴速の嫁の1人でも有る者だ。


 夏前とは言え、夜は冷える。特盛は、半袖の薄着。それでも、全く問題でない。壱日は、体を冷やさぬよう、チョッキを来ている。


 2人の腰掛ける椅子は、昼間は子供達とおやつを食べたりする場所だ。今は、2人しか居ない。


「普段とは、全然印象が違うって、どう言う事だと思います?」


「んん?」


「えーと。すげえ強い人。蹴速みてえな。そんなのが、泣いてたりしたら、なんでか分かりますか?」


「ふむ」


 例え話なのだろうが。特盛が付いて行った相手は、二神神無。ふむ。


「強い、とは比較の言葉。おれより「強い」一一人も、蹴速よりは「弱い」。そして、その「強い」蹴速も魔神よりは「弱い」らしい」


「ええ・・。まあ、そうですね」


「その、強い人。その者に取っては、急所で有ったり、泣き所で有ったりしたのかもな。・・・おれの話を聞いてみるか」


「喜んで。でも、中で」


 対処している以上、問題無いはずだが。部屋の方が温かい。


 壱日は、その気配りに微笑み、特盛に付いて行く。


 台所に寄り道し、適当に飲み物食い物を持って行く。晩飯は済んでいるから、夜食になるか。ま、良し!リビングを通り過ぎる際、テレビ番組にかじりついている組からも、作っておいた夜食を拝借。今日は、三十鬼の作ったヤマトのたこ焼きなる料理。


 お互いに飲み物を注ぎ入れ、乾杯。


「無事の帰還に」


「家族の健康に」


 飲み干し、食う。


 そして、壱日の話が始まる。


「昔の話だ。おれが、かつてのクマモトナンバーワンの下で働いていた時。6年は前だな」


「おれは、まだ学校も卒業してないっすね」


 熊大将も、当然ながら、歴戦。特盛も分かっていたが。改めて思い知る。


 壱日が、ナンバーの仲間入りを果たした頃だ。最初は、ナンバーセブンから始めた。そして、ラッキーナンバーだから付いて来い、と言う適当な言葉で、ナンバーワン、綺羅きらざとうに付き従うようになったのだ。本当に、適当な人だった。


 熊大将の自覚は無かったが、ナンバーの仕事は雑用ではない。しかし、その自覚も無く、トップを支え続けたため、無意味に実務にも明るくなり、現場の人間とも話が出来るようになっていった。それは、綺羅郷の深謀遠慮だったのか。クマモトの先を見据えた配慮だったのか。


 いや、ないな。間違い無く、天然だ。


 そして、ある日。


 綺羅郷が泣いていた。


 鬼の目にも涙。馬鹿の目にも涙。


 壱日は、驚いた。それは、人間である以上、泣く日も有ろうが。ずうっと泣いていた。何故、と問うてみた。すると。


「フラれた?」


「当時付き合っていた者に、綺羅ちゃんは、あんまり会ってくれないから寂しい、そう言われ、フラれたらしい」


 一言一句覚えている。心底から、下らないと思ったのだった。


 当時の壱日には、色恋とは心を惑わせるものであって、何の足しになるものでもなかった。


「念のため言っておくが。当時のあの方には、おれは全く歯が立たなかった。とても、強かった」


「でしょうね。ナンバーワン、つまり、コウチなら一一人って事ですから」


「ああ。それでも、泣く日は有った。無論、あの人を常識に当てはめて良いかは、議論の余地も有ろう。それでも、時に人は、弱くなるのだと思う」


「ふむ・・・」


 特盛の実感は薄かった。それは、特盛は泣きまくりだ。しかし、自分だからだ。そう思っている。


 特盛には、ナンバークラスを、それもコウチナンバーツーを、自分と同じ人間として認識するのは、難しかった。これは特盛個人の認識の問題ではない。コウチの一般兵なら、全員こうだろう。御徳も量猟も、例外ではない。それほど、3名家の名は、重い。


「俺は。俺は、有我に勝ちたかったのかも知れない」


「ふむ」


 神無の杯に、少し足す。話していれば、喉も乾く。器も乾く。湿してやらねば。


「ナンバーツー。二神。立派なものよ」


「うむ」


 相槌を打ちつつ、スルメに手を伸ばす。


「だが、ナンバーツーなのだ。俺は、誰にも負けたくなかった」


「分かるぞ」


 梅には、コウチナンバースリーには、良く分かる。


「有我とは、お前とも、何度も合同訓練を行った。・・・一度も、勝てなかった」


「そうだな」


 梅の休んでいる間にも。神無は、有我に挑んでいた。あたかも、特盛のように。


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・」


 梅は、押し黙った神無の口が開くのを待つ。まだ、酒は有る。時も、有る。


「親父と、お袋を、斬って来た」


「何?」


 梅の手が止まる。


 どう言う事だ。


「東の地。蹴速の世界での、北アメリカ大陸。そう言われる場所に行って来た」


「ああ。良く帰って来た。損失も無い」


 神砕きの事は、わざと言わなかった。


「不思議な場所だった。モモの言うに、死んだ場所、らしい。アカも、魔力が一切無い土地と言っていた。そして、死人がうろついていた」


「まさか」


 その報告は聞いている。魔力の無い土地。そして奇襲を防げない。だから、梅も神無の選択を支持した。


「神化を使い、神砕きを用い、俺の剣を読む相手」


「・・・・・・むう」


「男と女だった。両親も、寄り添って死んだ」


「ああ・・・」


 知っている。神無の両親は、同じ戦場で散ったのだ。


 神無は、机に伏せる。両腕をだらりと垂らし、顔も机に伏せ。


「俺は。俺は。何も得られなかった。失うだけだった」


 辛い。


 言えぬ。3名家には、言えない言葉が有る。


 同じ3名家の梅には、分かる。神無の言いえぬ想いが。魔神戦で、普段の稽古で、嫌と言うほど味わっているのだから。


「親を斬り、神砕きを失い、戦力としても離脱。それで、土地も、何も、得るものは、無かった。それが、俺の働きよ」


「それは、違う。そう言い切れるぞ、私には。お前が出向いたお陰で、東の地、北は人が住むに向かぬと分かったのだ。そんな事は、当然起こりうる、想定可能な事態。我らが目的は、コウチの繁栄。お前の行動は、その意に沿っている。それを問題有りとは、誰にも言わせん」


「やけに語るな。らしくもない」


「心外だな?お前よりは、有我よりは、私は話をする人間だ。お前達は、取りあえず斬るだろうが」


「ふふふ!確かに!」


 この場には居ない有我の悪口も交えつつ、3名家の長話に終始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ